日経クロステック,日経ビジネス電子版,日経ESG日経クロステック,日経ビジネス電子版,日経ESG
PR
SX/DX/GX Summit Review
INDEXページへ戻る
講演 デロイト トーマツ グループ

分散型で複雑さを増すエネルギー問題に
デジタル技術の強みを生かして対応

カーボンニュートラルの実現には、分散型のエネルギーの活用が求められる。需要と供給をリアルタイム制御する必要性も高まる。デロイト トーマツ グループの庵原一水氏は、多様なエネルギーを組み合わせて最適化する場合に、デジタルツインなどの日本の技術が生かせると説く。

庵原 一水 氏
デロイト トーマツ グループ
Sustainability & Climate Initiative 共同リーダー
庵原 一水

 「カーボンニュートラルの実現に向けて、エネルギートランジションは不可欠です。エネルギートランジションは、日本ならではの制約もありますが、一方で日本にチャンスももたらします」。こう語るのはデロイト トーマツ グループの庵原一水氏だ。

 庵原氏は日本が直面するエネルギー安定供給に関する問題を以下のように見る。「1つ目は、2050年のカーボンニュートラル実現に向けたエネルギーシフトが起こることです。太陽光や風力などの再生可能エネルギーや原子力は、需要に合わせた出力制御が難しく、需給調整に蓄エネなどの技術が必要になります」。

 2つ目は、ロシアのウクライナ侵攻で顕在化した化石燃料の供給リスクである。安定していた天然ガスの供給が不安定になり、偏在した資源は供給が不安定になるリスクがあることが再認識された。

 3つ目は人口減少とインフラ老朽化の同時進行だ。人口が減少するとエネルギー需要が減少してしまう。一方で電力インフラや製油所、ガソリンスタンドなどが老朽化し、リプレースが必要になる。「需要減少局面でのリプレースなどへの投資は、将来需要を見誤ると大変なことになります」と庵原氏は指摘する。

 例えば、日本の発電設備や送配電設備、石油の供給インフラなどは、「1970年代から90年代にかけて大量に構築されました。これらは2030年代前半から老朽化が顕著になります」と庵原氏が説明するように、リプレースが急務になる。

 さらに庵原氏は、「日本でエネルギーというと電力のイメージが強いですが、お風呂などの燃焼系の熱エネルギー、自動車や飛行機などの輸送用エネルギーなど、電力以外のエネルギーについても、カーボンニュートラル実現に向けた対応を考えなければなりません」と幅広い視野を持つ必要性を説く。

エネルギーを組み合わせて
課題解決に対応

 ここで考える必要があるのは、再エネだけとか原子力だけといったように、何か1つの技術だけではエネルギー問題を解決することはできないことだ。「太陽光や風力のような変動型再エネや原子力など、複数のエネルギーを組み合わせて使うことが必要になります」と庵原氏は語る。その選択肢は、技術の発達に伴い増えていくので、どの組み合わせが最適かについて柔軟性を持って取り組んでいくことが求められる。

 庵原氏は、エネルギーの種類の多様化だけでなく、階層的なエネルギーインフラ構築モデルの必要性も説く。「階層モデルでは、グローバルモデル、国モデル、地域・都市モデル、街区モデルといった規模の異なる階層を踏まえて、エネルギーの多段的なマネジメントを行う必要があると考えています。従来は国モデルや地域・都市モデルによるマネジメントをしてきましたが、今後はグローバルモデルを用いた資源調達先の分散化や、街区モデルによる分散協調制御も組み合わせて、制御していく必要があるでしょう」(庵原氏)。

 電力の需給調整はこれまで、需要の変動に対して発電所などの供給側で調整をする形だった。需要を上回る発電があった場合は、電力を使ってダムに水をくみ上げて、需要が増えたときに放水することで発電する揚水発電を使って調整していた。

 ところが上流側に再エネが多く活用されるようになると、揚水発電だけでは供給の変動を支えきれなくなる。「蓄電池や、水素を使って電気を貯める水電解など、複数の蓄電システムを併用する必要が高まります。さらにいつでも好きなように電気やエネルギーが使える状況から、需要をコントロールする必要も出てきます」(庵原氏)。分散型で複雑さが増すエネルギーシステムには、デジタル化による各システムの連携と制御が求められる。

 こうした中で庵原氏は、蓄電システムの1つとして水素に注目する。「水素は様々なものから作ることができ、多くの場所で使えます」。まず、発電した電力を使って水電解することで、水素ができる。エネルギー需給のギャップができる時間に、水電解で水素を作ることでエネルギーを蓄えられるわけだ。

 そうしてできた水素は、直接燃やしてもいいし、燃料電池に用いることもできる。さらに「e-fuel(合成燃料)という水素と二酸化炭素を材料とした合成燃料を作れば、ガソリンのように自動車を走らせることができます」(庵原氏)。e-fuelの水素以外の材料である二酸化炭素は、すでに自然界にあるものや産業で排出されたものを使うため、大気中の二酸化炭素を増やすことがない。「水素と蓄電池では役割が異なるので、組み合わせて使うことが大事です」と、庵原氏は組み合わせの必要性を改めて語る。

デジタルツイン技術で
エネルギーを可視化

 複雑さが増すエネルギー需給を最適化するためには、IoT(モノのインターネット)などを活用してエネルギーや物質の流れを可視化するデジタルツインの技術の活用が期待される。日本が得意とする分野であり、エネルギートランジションをビジネスチャンスに変えるための施策でもある。

 「電気や水素、二酸化炭素などは、目に見えないため感覚的に捉えにくいものです。デジタルツイン的なアプローチで可視化する取り組みが不可欠です」(庵原氏)。デジタルツインでは、物理的な世界とデジタル的な世界を情報で関連付ける。例えば、物理層には電力会社や石油会社、製造業、化学メーカー、農水産業、オフィス/住宅があり、電力や熱、水素、二酸化炭素、廃プラスチックなどを資源として融通していく。この状況をデジタル層で可視化してトレーサビリティーを実現したり、再エネ証書やカーボンクレジットなどのやり取りの根拠にしたりするものだ。

 「この水素は再エネ由来か化石燃料由来かといったことをデジタル層で明らかにしていきます。一方で、デジタルツインの活用は当事者だけで費用負担すると進展しづらいため、プレーヤーの中で負担を配分するような仕組みが求められます」(庵原氏)

 最後に庵原氏は、「例えばデンマークでは、エネルギーだけでなく、水や素材も資源として共有できるようにする巨大なネットワークの形成に取り組んでいますが、実はこれはかつての日本のコンビナートに通じるものがあります。資源が少ない日本でもインフラをリプレースする過程で、改めてエネルギーや資源の最適化に向けたエネルギートランジションの発想が求められるでしょう」と、将来への展望を語った。

■物理層とデジタル層を連携させるデジタルツイン

エネルギーや資源をデジタルツイン技術で可視化することで、エネルギートランジションを推進していく

図

[画像のクリックで拡大表示]

ページトップへ