
気候変動対策やカーボンニュートラルに向けた取り組みが進む中、企業ではサプライチェーン全体、Scope3でのGHG排出量の削減が切実なテーマとなっている。そこでサーキュラーエコノミーの構築に向けた有効なアプローチとして注目されるのが「システミック・トランスフォーメーション」の推進だ。

近年、地球環境や社会のサステナビリティの観点から、サプライチェーン全体でのGHG(温室効果ガス)の排出、すなわちScope3の排出削減に向けた機運がグローバルで高まっている。そこで調達や廃棄にかかわる排出を削減するための重要施策となるのが、自然界からの資源の採取と拡散の最小化を目指した循環型経済、つまりサーキュラーエコノミーの実現である。
「社会課題の解決と経済合理性はトレードオフの関係にあると考えられがちですが、サーキュラーエコノミーについては、すでに局所的ながらもビジネスとして両立し得ることが証明されてきています。今後、産業をまたいだ形でのサプライチェーン全体にわたる広域的なサーキュラーエコノミーの構築が重要なテーマとなってきます」とPwC Japanグループの中島崇文氏は強調する。
もっとも、個社の努力だけではScope3の削減はやはり困難だ。そこでは、サプライヤーや物流業者、さらには消費者も含めたステークホルダー全体を巻き込んだ努力が求められている。例えば欧州のメーカー各社は2030年までに30~50%のScope3削減を実現するという目標に向けた取り組みを着実に進めているが、日本を含むアジアの企業は立ち遅れているというのが実情である。
サプライヤーとの連携など、背景には取り組みの難易度の高さがあるためと考えられるが、「SBTi※」が示すネットゼロ目標の考え方はグローバルで広く認知されており、2050年に向けネットゼロを目指すという社会動向に変わりはなく、中島氏は「未達企業は将来において急激な削減が求められることは自明です。いずれ難しい局面に立たされる可能性があるという認識をもって、今から取り組みを進めていくべきでしょう」と指摘する。
すでに述べたように、サーキュラーエコノミーの実現には、広範なステークホルダーが関与する形で、サプライチェーン全体にわたる多様かつ広域的な取り組みが不可欠だ。PwCではそうした取り組みを進めていくうえで、4つの要諦があると捉えている。
その1つ目は「イノベーション」。マテリアルサイエンスやバイオサイエンス、エンジニアリング技術の革新を通じて、根本的な課題解決ができるような技術の創出と、コスト削減に向けた具体的な打ち手を用意していく必要がある。2つ目は、「バリューチェーン組み直し」だ。循環化にかかわる多様なステークホルダーを巻き込む形で、各々のプレイヤーの役割と目的を再デザインしていく必要がある。
さらに3つ目が「ビジネスモデル」。マネタイズに向けて様々な工夫を行い、参画企業が互いにWin-Winの関係になれるようなビジネスモデルを実現していくことが肝要だ。そして4つ目は「スケール化」である。「法制度や消費者意識にばかりとらわれることなく、むしろ自ら成功例を作って業界を動かし、後続の企業をどんどん増やしていくというフロントランナーとしての役割を企業は果たしていくべきです」と中島氏は語る。
※企業がネットゼロ目標を設定するための科学に基づく基準を定義する国際機関
日本のサーキュラーエコノミー構築に向けた最大の課題はビジネスモデルやスケール化にかかわる取り組みの遅れだ。ここで注目すべきは「システミック投資」である。財務上のリターンと環境・社会課題解決を同時に目指す投資としては、これまでもインパクト投資があった。その違いは何か。
「インパクト投資は個々の会社やプロジェクトに対して分散投資を行うものです。それに対し、システミック投資は社会課題解決にかかわるようなバリューチェーンの構造と変革のメカニズムを『システム』として解明するものです。空間的、時間的拡大という2つの視座で、企業やプロジェクトの変革の要所を特定し、協調的に投資や開発を進めていくという考え方であり、結果、システム全体の変革が促され、投資案件に対する経済合理化も進むことになります」と中島氏は説明する。
モビリティ業界におけるEVビジネスを例にとると、EVでは供給電力が再生可能エネルギー化されることで、製品使用時のCO2排出、すなわちScope3のカテゴリー11をネットゼロ化していける。これに対し、現段階の日本では、採算性などの問題から再エネの普及がまだ十分ではない。
そこで、空間的な広がりを持たせ、EVの製造・販売だけでなく、充電サービスや運輸サービス、さらには再エネ事業とも組み合わせて考えていく。そこでは再エネ事業を成長させる投資と、充電インフラのような利用環境への投資があり得る。こうした協調投資によって需要増を加速させ、採算性も高めるという相乗効果の創出が可能となる。もちろんそれが、自動車メーカーにおけるScope3削減を大きく進めることになる。
一方で、再エネの普及が進めば、系統電力が不安定化するという別の問題に直面する。これに対してはV2G(Vehicle-to-Grid)やV2H(Vehicle-to-Home)という形で、EVの電池を系統電力の平準化に貢献させたり、あるいは利用済みの電池を電力インフラ用途で再利用したりするというビジネスも想定される。
「こうしたモビリティとエネルギーの産業をまたぐ投資を促進することで、EVの普及促進を図りながら、消費者にとっても家庭用予備電源の確保という新しい価値を創出できます。電池のリユース、リサイクルにかかわる新しいビジネスを生むという波及効果も期待できるわけです」と中島氏は解説する。
このようなシステミックな考え方は、すでに述べた多様で広域的なサーキュラーエコノミーを生むための4つの要諦に対し、協調的に働きかける有効な手段となり得る。すなわち、システム視点でバリューチェーンを再定義し、カギとなる設備や技術に先行投資をして需給バランスを動かす。そして産業をまたぐマネタイズモデルを築いて、その成功実績をもって後続企業を生み、スケール化していくことが環境・社会課題の抜本的な解決につながる。
「PwCではこれを『システミック・トランスフォーメーション』と呼んでいます。持ち前のコンサルティング、会計、法務、税務、M&Aなどにかかわる総合力を駆使して、それに向けた業務やクライアント企業の取り組みを支援していきたいと考えています」と中島氏は力を込める。
■サーキュラーエコノミー構築に貢献するシステミック・トランスフォーメーション
社会課題解決にかかわるバリューチェーンの構造と変革のメカニズムを「システム」として解明。変革の要所を特定して、協調的な投資や開発を進めていくシステミック・トランスフォーメーションの実践で、サーキュラーエコノミー構築に向けた4つの要諦を押さえることができる。
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