
企業は多くのESG課題に直面しているが、なかでも急がれるのが脱炭素化への取り組みだ。特に厳しい責任が追及されているファッション産業において、果敢なデジタル活用で課題解決を推進しているアダストリアの福田泰生氏と、その取り組みを支援するNTTデータの南田晋作氏が語り合った。
(モデレーター:日経BP総合研究所チーフコンサルタント主席研究員 小林暢子)


サステナビリティに対する機運はあらゆる業界で高まっているが、なかでも特に高い危機意識を持ち、経営の死活問題として捉えた取り組みを見せているのがファッション業界だ。
「ファッション産業はその華やかな裏側に様々なESGに関する課題を内包しています」と語るのは、アダストリアの福田泰生氏である。
同社は20代から40代の世代を中心に「グローバルワーク」や「ニコアンド」「ローリーズファーム」といったオリジナルブランドを展開する衣料品・雑貨などの企画・製造・販売業で、2024年2月期におけるグループ全体の売り上げは約2756億円。業界でも屈指のポジションをつかむまでになった同社の成長は、サステナビリティへの取り組みを抜きにしてはありえない。
具体的に同社は、どのようなESGの課題と向き合ってきたのだろうか。
まずは大量生産によるCO2をはじめとする温室効果ガス(GHG)排出の問題だ。ファッション産業が排出するGHGは国内で年間約9700万トン、世界では年間12億トンともいわれている。
さらに、大量生産・廃棄に伴う資源枯渇の問題もある。化学繊維が石油由来であることはイメージしやすいが、それだけではない。コットンでできたTシャツ1枚を作るにも、綿花から縫製に至るまでに使用される水の量は2300リットル以上と試算されている。
「日本のファッション産業の市場規模は約8兆円のままで続いていますが、世界全体をみると成長産業です。だからこそサステナビリティへの取り組みは必要不可欠となっています。そしてこのような環境・社会課題の解決にビジネスを通じて真摯に取り組むことが事業成長につながると考えます」と福田氏は強調する。
アダストリアが向き合っている様々なESG課題解決の中から、今回のパネルディスカッションで特にフォーカスしたのがGHG排出量削減の取り組みである。
アダストリアはNTTデータをパートナーとしたデジタル戦略を推進することで、この課題を解決する。具体的には、NTTデータから導入した「C-Turtle(シータートル)」をベースとすることでGHG排出量を可視化して削減ポテンシャルを導き出し、それに基づいた削減戦略を並行して推進する。
「C-Turtleと商品マスター、生産管理システムを連携することで、GHG排出量算出における業務効率の大幅な改善を図るとともに、エクセルを使った集計作業で避けられなかった人手によるミスを削減し、精度向上も同時に図ることができました。加えてC-Turtleによる可視化により、これまで困難だったブランドごと、商品ごとのカーボンフットプリントを追跡することが可能となり、GHG削減戦略を策定する上での裏付けとなりました。さらに、これまで当社が後手に回っていた海外拠点のGHG排出量の把握にも取り組めるようになりました」と福田氏は語る。
ファッション産業では、GHG排出量を算出する上で何がネックとなっていたのだろうか。特に自社の活動だけでなくサプライチェーン全体でのGHG排出量を把握して脱炭素化を進めていく、いわゆるスコープ3の取り組みは困難をきわめる。
NTTデータの南田晋作氏は、その原因の一つとして「産業連関表ベースの排出原単位」を挙げ、次のように語る。
「日本全体のGHG総排出量約11億3500万トンを配賦したのが産業連関表ベースの排出原単位で、関係府省庁が合同で作成したものです。企業はこれに基づいて自分たちの業界の全体排出量を配賦し、スコープ3で用いる排出原単位を作成しています。しかし、この二次データの排出原単位を用いた計算は、企業の個別努力が反映されない日本全体の平均値によるものです。例えば、取引先企業の削減努力が自社の削減量に反映できず、活動量を減らさない限り排出量を削減できないなど、ジレンマに陥っています」
そんな中、C-Turtleを通じてNTTデータが提唱した「総排出量配分方式」が、この課題を解決した。
「端的にいえば、総排出量配分方式とは、何を買ったかではなく、誰から買ったかで評価する方式です。GHGプロトコルにも準拠したこの方式は、各企業が自社全体の連携排出量を他社に公表した上で、総排出量と売上金額から導出されるサプライヤー別の排出原単位を用いることで、スコープ3排出量の算出をサポートします」と南田氏は説明する。
企業ごとの排出量を取引とひも付けてやり取りすることで、サプライチェーン全体でのつながりを構築し、強化していくのだ。その結果、サプライヤーにおける削減努力を自社のスコープ3排出量の削減効果として取り込むことが可能となる。
「アダストリアが実現しようとしていることは、DXとSX、そしてGXを高度に融合させ、自社とサプライチェーンを共有する企業の双方の努力を社会変革につなげていく仕組みづくりにほかなりません」と、南田氏はアダストリアのチャレンジを高く評価する。
「私たちは『グッドコミュニティ』と呼んでいるのですが、物流サービスも含めた多岐にわたる取引先の皆様と共にデジタル化を促進し、ビッグデータを有機的に活用して互いのESG課題を解決し、持続的成長のキーファクターとしていきます」と、福田氏は今後の展開を見据えている。
■ESG課題解決に向けたアダストリアのDX戦略
デジタル化の促進によりビッグデータを有機的に活用することが持続的成長のキーファクターとなる
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