Data Scientist Japan 2026 Review データサイエンティスト・ジャパン 2026

SAS Institute Japan株式会社

生成AI時代こそ求められるデータサイエンティストの本質問いを立て、組織の意思決定につなげる

企業のAI投資やデータ活用が広がる一方、「投資に見合う成果が出ない」という声は根強い。SAS Institute Japanの小林泉氏は、生成AIの登場によってデータサイエンティストにおける“本来の役割”が鮮明になってきたと語る。データ分析の技術や手法といったテクニックに走るのではなく、組織で求められる役割を再整理し、適切な問い・課題を立てて結果を企業の意思決定に結びつけることが重要と訴えた。

険しいAI投資「成功」への道のり
利益を出せた企業はわずか4%

小林 泉氏

SAS Institute Japan株式会社

Sr Manager Business Development,

Architecture & Platform Solution

小林 泉

小林氏は講演の冒頭でこのように報告した。AI投資への関心が高まる一方で、多くの企業がいまだパイロット段階(PoC)から抜け出せずにいます。実際に収益化までこぎつけ、有意なリターンを得られている企業はごくわずかであり、現場での活用や意思決定への反映には依然として高い壁が存在しているのが実情です。
 小林氏は「この停滞は一時的なものではなく、10年以上にわたる構造的なズレが原因と考えます」と分析する。

データサイエンティストは2010年ごろにはROI(Return On Investment:投資収益率)への貢献が期待されていた。だが、それから十数年が経った現在、期待と裏腹に現実との乖離(かいり)が生まれている。特に日本においては「AI投資の多くが業務効率向上を目的としており、経営指標への貢献をしていないということが、昨今のAI投資への課題感を引き起こしているのではないでしょうか」と、小林氏は指摘する。

経営課題の解決には問いからスタートすることがカギ

データサイエンティストが真に経営に寄与するには、データ分析結果を企業の意思決定に反映させることが重要だ。データ分析において米SAS Institute(以下SAS)は「アナリティクスライフサイクル」という概念を提唱している。この概念では、まず問い・課題があり、それを解決するためにデータサイエンティストがデータ収集や分析を実施し、意思決定につなげるという流れになる。小林氏は「この問いを定義し、意思決定をよりよくするという流れが、ここ10年ほどうまく機能しなかったのではないか」と述べる。

一つ目の構造的なズレは、「データサイエンティスト」

そもそも「データサイエンティスト」という肩書は、2008年ごろからインターネット企業を中心に使われ始めた。データを活用することが売り上げ増に直結する、いわばビジネスそのものをデータで表わすことができる業界から始まった。

一方その他の業界では、当然データ以外の様々な状況も影響する。小売業の例で考えてみると、ある商品の売り上げが急に増えたのは、人気があるだけでなく直前に売り上げを増やすためのキャンペーンを実施したからかもしれない。反対に急に落ち込んだのは、製造工程に問題があって欠品したせいかもしれない。「つまり、データはビジネスの現場で起こっている『ごく一部』を切り取っているに過ぎないのです。データは自然に発生するものではなく、誰かの意図に沿ってつくられているのでバイアスがかかっています。このような本質を理解(ここでは、データリテラシー)した上で、どのようにデータを活用し、ビジネス目標を達成するかを考えることが必要です」(小林氏)。

二つ目の構造的なギャップは、日本のデータサイエンス教育

構造的なズレは、分析技術や手法の習得を重視する日本のデータサイエンス教育にも見られる。「その結果として、アナリティクスライフサイクルの両端である問い・課題をどのように立て、データ分析の結果をどのように意思決定に結びつけるか、という観点を持つ人材が少ないのではないでしょうか。生成AIの登場によって、分析技術や手法は劇的に効率化・自動化しています。一方、問いを立てることと意思決定へどう結び付けるかの2点こそAIが代替しにくく、人が担うべき領域です」と小林氏は訴える。

現在の生成AI時代において、データサイエンティストに求められる役割とは何か。小林氏は、①事業戦略から何を解くかを定義する、②データ AI のテクノロジーを活用して透明性と精度のある洞察を生み出す、③生み出した洞察を基に組織の判断プロセスに組み込んだ意思決定パイプラインを設計する――この3点は、SASが設立当初から提言してきたものだが、生成AIの登場によってそれが鮮明になったと小林氏は語る。

データサイエンティストに求められるバランスと教育の現状
データサイエンティストに求められるバランスと教育の現状

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組織の制度変革が経営指標向上の近道に

こうした役割を果たすために、データサイエンティストは、①データリテラシー、②アナリティクスリテラシー、③ディシジョニングリテラシー――これら3つのリテラシーを身につけることが重要だと小林氏は話す。

①は前述のように、データが現実のごく一部を切り取ったに過ぎないことを踏まえて真実を見極める力を指す。②は分析においてバイアスや信頼性を考慮した上で意思決定パイプラインの精度を向上させるスキルである。③はスピード・質・説明性・一貫性・学習性・目的整合性に基づいて意思決定パイプラインの設計ができることだ。小林氏は「この3つのリテラシーは分析技術・手法の習得よりも、生成AI時代のデータサイエンティストとしての大きな差別化につながると思います」と展望を語る。

もちろん、データサイエンティストがスキルを高めたからといって、それが組織で必ずしも機能するとは限らない。彼らが能力を発揮するために、小林氏は「評価設計・配置設計・育成設計の3つを変える必要があります」と説く。

評価設計でいえば、データサイエンティストが何をつくったかではなく、何を変えたかを評価するように変える。つまりモデルの精度や分析件数ではなく、経営指標をどう向上させたかで評価する。

配置設計は、IT部門やDX(デジタルトランスフォーメーション)部門に分析の専門チームを置くのでなく、事業部門の中や近隣部門に配置する。データ分析の最初の問いは、多くの場合で事業責任者が立てるため、その責任者との「物理的な距離」を近くすることが重要になる。「お客様の中には、独立したデータ分析の組織を持たない企業もたくさんあります。だからといってデータを活用していないわけではなく、事業部の一員としてデータサイエンティストが在籍しているケースもあります。むしろそういう企業の方が、経営指標の改善に直結するデータ活用をしている場合が多いのです」と小林氏は述べる。

最後の育成設計は、技術を向上するのではなく、問いを立てる力を高めることを指す。経営課題を起点にデータをどう活用するかを考えられる人材の育成が欠かせない。

「この3つの設計は、すべてがそろって初めて機能します。まずは評価設計から始め、配置設計、教育設計と変えていくことが肝要です。評価が変わらないと人は変わりませんし、配置が変わらなければ実際に解くべき問いが来ません。さらに育成が変わらなければ、次の世代が育たず、再現性が保てません」(小林氏)。

組織の現在地を知るマトリクス
組織の現在地を知るマトリクス

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小林氏は、データ分析にかかわる技術は移り変わっても、データ分析が問いから始まって意思決定につながることで、ビジネスのROIにインパクトを与えることは変わらないと繰り返し訴える。「この構図をいま一度見直していただき、皆様のヒントになれば幸いです」(小林氏)と講演を締めくくった。

SAS Institute Japan株式会社

https://www.sas.com/ja_jp/