日経BP 総合研究所

なお進展の途上にある製造業DX、その現在地は「データスペース」の社会実装が具体化
エコシステム全体でデータとAIを活用

日経BP 総合研究所
客員研究員
三好 敏

今回の「製造業DXサミット」のテーマは「AIとデータの時代へ動き始めた製造業の未来像」。言葉の話題性は一時より低下したが、製造業DXそのものが終わったわけではない。本来の目的は新しい事業価値を創出すること。その意味で製造業DXは、なお進展の途上にある。

現在の主な変化は2点ある。1つは、企業の枠を超えたデータ連携の進展だ。企業がデータ主権を保ちながら安全に共有・活用する「データスペース」の社会実装が、欧州を中心に他の地域でも具体化しつつある。

製造業DXの流れは、ドイツの「Industrie 4.0」構想を1つの起点として広がった。その流れを「Factory」「Enterprise」「Ecosystem」「Economy」の4つのステージで捉え、これに照らし合わせると、現在地は企業内最適化の「Enterprise」から、企業が連携して価値を創出する「Ecosystem」へ移行する入り口にあると言える。

もう1つの変化が、AI活用の進展である。認知、判断、予測、制御を高度化し、業務変革を加速するAIはDXの代替ではなく、AIに使うデータを企業間で共有する必要性が増すことから、データスペースの重要性を高める存在だ。そしてAI活用は、それを支えるデータ基盤の整備を促し、企業間連携の推進力となる。これら2つの変化が同時に進む中で、製造業に問われているのは、エコシステムの可能性を意識しながら、データとAIを活用する基盤を整備することである。

情報処理推進機構

「ウラノス・エコシステム」発表から3年デジタルエコシステム構築が日本で進む
民間が自走できる持続可能な仕組みづくり

情報処理推進機構
デジタルアーキテクチャ・デザインセンター 副センター長
花見 英樹氏

国内では2023年に「ウラノス・エコシステム」が発表されてから、様々な取り組みが進むデータスペース。情報処理推進機構の花見氏は、個社で規制に対応するのでなく、データスペースで連携して負担を抑え、新たな競争領域へ投資することが重要と説く。データスペースによって経済合理性を追求し、AI活用により企業間・業界間で蓄積された非構造データをDXに役立て、競争力を上げる必要があるのだ。

参加する各社がWin-Winで持続可能なデジタルエコシステム※1となることがデータスペースの理想。2026年1月、「デジタルエコシステム官民協議会」はデータスペース構築、テクノロジー、トラスト基盤を3本柱としたデジタルエコシステムの全体像と今後の進め方を示した。官民一体となって企業が参加しやすいトラスト基盤※2を構築し、魅力的なユースケース作りを支えるデータマネジメントの共通技術を提供する。「民間が自走できる仕組みづくりが重要です」(花見氏)

分散データマネジメントの技術標準として発表されたOpen Data Spaces(ODS)は、データ提供者の利用制御を担保しながら、サービスの多様性を考慮した自前ホストとマネージドサービスのハイブリッド型で、企業の参加障壁を下げるものだ。またODSの設計思想、アーキテクチャ、プロトコル、オープンソースのスタックは、Agentic AI時代の分散データマネジメント技術として公開されている。

※1 デジタル技術を中核に、多様なステークホルダーが互いに連携しながら価値を創出するネットワークシステム。
※2 企業が業界や国境をまたいで、データを安心・安全に流通するためのIT基盤。

村田製作所

国内外に拠点多数。それでも全社で同じ目線に村田製作所が目指す全体最適
人が、部門が、知見がつながる

村田製作所
モノづくり統括部 モノづくり強化推進部 シニアマネージャー
下八重 修氏

「国内外に多くの拠点を持つ村田製作所は、全社で同じ考えを共有することが容易ではありません」と同社の下八重氏は冒頭に述べる。そのため同社は、開発設計を軸としたECM※1と調達・製造・物流・販売を軸としたSCM※2の両データを連携し、全社でつながる「未来のモノづくり」を掲げる。

村田製作所では、DXに向けた取り組みが成果に結び付かない、部門ごとに温度差がある、部分最適が解消されないなど、様々な課題があった。そこでDXを、顧客満足度や損益を改善し、品質・生産性向上させるための手段と定義。小さく始めて段階的に拡大することで、全社最適を目指してきた。ある工場の成功事例を横展開して改善のスピードを上げ、属人化していたノウハウを形式知化していく。改善が広がるこうした仕組みづくりや、デジタル人材の育成が重要になる。

データをつなげてマネジメントし、セキュリティーも担保することでDX基盤を整備していった。蓄積した既存の製品データとAIを活用して品質ロスの発生要因を分析することで、不良品の発生を60%削減。新製品での予測精度も向上した。また、これまでの生産情報を整理してつなげ、活用することで、開発設計業務の工数を従来の半分に削減。事業部によっては2倍の生産性を達成している。「村田製作所のDXは、AIやシステムが主役ではなく、人がつながり、部門がつながり、知見がつながることで実現できたものです」(下八重氏)

※1 Engineering Chain Management(エンジニアリングチェーンマネジメント) 
※2 Supply Chain Management(サプライチェーンマネジメント)

アルファコンパス

「ハノーバーメッセ2026」で見えた3つの変化インダストリアルAIに現実味
日本が変わるべきは運用文化

アルファコンパス
代表CEO
福本 勲氏

「『ハノーバーメッセ2026』では、インダストリアルAIが概念から具体的なショーケースへと進化していることを感じました」とアルファコンパスの福本氏は言い、「日本の製造業にもたらされる3つの変化」を指摘する。

1つ目はフィジカルAI。手足や身体を得たAIが、判断だけでなく行動までも担い、工場の自律性や即応性が飛躍的に向上する。「フィジカルAIはロボットの進化ではなく、AIドリブンの産業構造への転換を促すものです。人の経験値をAIが使える形に翻訳することが、競争力の源泉になっていくと思います」と福本氏は強調する。

2つ目はソフトウエア・デファインド。工場全体がソフトウエアで定義され、固定した存在ではなくデジタル世界で進化を続ける存在に変わっていく。

3つ目はヒューマンセントリック。「人が中心に戻るのではなく、人の役割が再定義され続けるということです。人のスキルは判断や創造、改善などにシフトしていくと思います」(福本氏)

「欧米や中国は、フィジカルAIを未完成のまま現場に投入し、運用しながらAIと人が共に進化していくループを高速で回しています」と福本氏は続け、こう強調する。「日本が変わるべきなのは、技術ではなく運用文化です。AIができないことを数えるのではなく、AIと一緒にできることを増やす方が、日本の製造業の未来が早く開けると思います」

成迫 剛志氏

もはやツールではない。25種目の「汎用技術」へ生成AIはインフラだ! 効率化よりも
新たな価値創出のために活用すべき

岐阜大学客員教授
デンソー シニアアドバイザー
Design for ALL 共同創業者取締役
成迫 剛志氏

汎用技術(General Purpose Technology)をご存じだろうか。単一の産業分野にとどまらず、社会全体に広範かつ持続的な影響を与える基幹技術を指す。紀元前から続く「植物の栽培」から「印刷」「電気」、近年の「インターネット」まで含め、全部で24種しかない(総務省情報通信白書)。

生成AIはどうか。成迫氏は、生成AIとの会話、ドライバー視点での画像診断実験、1枚の写真から3Dモデリング、音楽作成(作詞・作曲・演奏)など複数の事例を挙げ、その能力の高さと成長の速さを評価する。「生成AIも確実に汎用技術になるでしょう。もはやツールではなくインフラであり、AIを前提とした業務や事業を考えるべきです」(成迫氏)

新しいテクノロジーの活用目的には、合理化・コスト削減と新たな顧客価値創出の2つがある。多くの日本企業が重視する前者はすぐ高い効果を示すが、まもなく頭打ちとなる。一方後者は立ち上がりに時間がかかるが、効果が出れば成果は指数関数的となる。米国がインターネット活用で躍進し、日本が停滞した一因はここにある。「同じ轍を踏まず、新たな顧客価値創出を目指すべき」と成迫氏は指摘する。

最後に成迫氏は好事例として、アーム型AIロボット「Jullie(ジュリー)」がバリスタとして働くデモや、人とロボット、複数種のロボット同士が会話しながらタスクをこなすイベントなど、デンソーの取り組みを紹介した。

日経BP

トヨタ、鴻海、Schaefflerらの動きは?世界各国で進化する人型ロボット
現場で「使える」時代、次のステップは

日経BP
BtoBユニット メディア戦略部
メディアコーディネーター
田野倉 保雄

人型ロボットは、AIとモーター技術の高度化で大きく進展。フィジカルAIによって機構物を行動させる領域にまで実用化が進み、視覚と言語の情報から行動につなげるAIの「VLA(Vision- Language-Action)モデル」も注目されている。ダイレクトドライブ型モーターは安価かつ軽量で、関節に多数のモーターを利用する人型ロボットの技術進化に貢献してきた。

主要企業では、中国AGIBOTが日本に進出。米Agility Roboticsの「Digit」を米Amazon.comやトヨタ自動車が導入するなどの動きが見られる。また台湾・鴻海精密工業や米Teslaのように自社工場での活用を目指してロボット開発を進める企業も出てきた。

特に独Schaefflerは、自社工場への導入だけでなく、部品サプライヤーとして人型ロボット市場に参入し、新興企業との協業も積極展開している。

人型ロボットは、従来のロボットアームでは難しい柔軟な生産ラインの構築、人手が残る作業の代替、高人件費や危険な作業からの解放、24時間稼働による生産性向上、人間向けに設計された環境での移動能力といったメリットが期待されている。一方で、転倒などのリスク、双腕の協働ロボットなどと比較した場合の効率性や合理性、製造コストほか、課題も多い。モーターや電池にさらなる技術革新も求められる。今後はロボット制御のためのデータをいかに収集し、精度を高められるかがキーとなる。

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