G20各国・地域から研究機関長が集結、
脱炭素に向けて国際連携を提言
RD20国際会議が
初めてインドで開催
イノベーション促進と
国際連携強化に期待

  • 吉野 彰博士
  • ゲルハルト・セルゲ氏
  • ヴィバ・ダワン博士
  • クリストファー・ヘブリング教授(博士)

 2019年より産業技術総合研究所(産総研)が主催する国際会議「RD20」には世界有数の研究者が集まり、脱炭素社会の実現に向けてクリーンエネルギー技術の普及に向けた課題や知見を共有し、イノベーションの促進や国際連携の強化を進めている。

 第6回となるRD20は東京イベントを2024年10月11日(金)に東京で開催し、国際会議は12月2日(月)から6日(金)にかけてインド・ニューデリーで開催する。日本を離れて初めての海外開催となる第6回RD20国際会議に向けて、インドとドイツの研究所トップおよび企業の技術責任者を招いてオンライン座談会を実施し、RD20を起点にした国際連携の深化について議論した。

 座談会には、産総研ゼロエミッション国際共同研究センター(GZR)研究センター長の吉野彰博士と、開催地のインドからTERI所長のヴィバ・ダワン博士、日立エナジーのグローバルCTOのゲルハルト・セルゲ氏、ドイツのフラウンホーファー研究機構からクリストファー・ヘブリング教授が参加し、第6回RD20への期待やカーボンニュートラル実現に向けた課題と国際連携の必要性について語り合った。座談会は日経BP 総合研究所の河井保博所長がモデレーターを務めた。

——インドで開催される第6回RD20国際会議は発足以来、初めての海外開催となります。インドのカーボンニュートラルに向けた取り組みと、インドでのRD20開催の意義についてお話しください。

ヴィバ・ダワン博士

ヴィバ・ダワン博士インド エネルギー・資源研究所(TERI)
所長

1985年TERI入所、2012年副局長、2021年より現職。1999年からTERI大学で非常勤教授、副学長などを務める

ダワン TERI(The Energy and Resources Institute)は、1974年に設立されて以来50年にわたり、人類が直面する課題に取り組むというミッションを遂行し、早い時期から再生可能エネルギーについて研究してきました。

 インドは世界最大の人口を抱え、経済発展に向けて多くの化石燃料をエネルギー源に利用し、温室効果ガスの排出量も増加しています。インドでは人口の半数近くが農業など第一次産業に従事していますが、地球温暖化は急速に進んでおり、気候変動で食料生産に影響が出ることも予想されます。

 地球温暖化は世界全体の喫緊の課題ですが、その一方でインドはもっと発展し続ける必要があります。エネルギーと資源の保全と効率的な利用、廃棄物の最小化と革新的な再利用を通じて、クリーンで持続可能な未来へと移行するため、産業部門を超えて研究に取り組み社会実装を進めます。

 2024年12月にインドで開催する第6回「RD20」は、私たちのこうした多くの取り組みをご覧いただける機会になるとともに、さまざまな技術や課題についてインタラクティブな議論の場にもなるはずです。このプラットフォームを使って、互いに多様な学びを得られることを期待しています。

——フラウンホーファー研究機構はRD20発足時からアクションコミッティ・メンバーとして参画しています。インドで開催されるRD20国際会議への期待を聞かせてください。

クリストファー・ヘブリング教授(博士)

クリストファー・ヘブリング教授(博士)ドイツ フラウンホーファー研究機構
太陽エネルギーシステム研究所(Fh-ISE)ディレクター

南ア・ケープタウン大学 化学工学名誉教授、2018年よりフラウンホーファー・クラスター・オブ・エクセレンス統合エネルギーシステム理事会メンバー

ヘブリング 「RD20」は、2019年に安倍晋三首相(当時)が気候変動対策に関して国際連携を進めてイノベーションを加速させることを目的に、G20各国・地域からトップクラスの専門家を招待し、結び付ける国際的な研究開発のイニシアチブとして設立されました。安部元総理の気候変動対策に関するビジョンを高く評価するとともに、国際協力のプラットフォームとしてRD20がここまで発展できたことに感謝の意を表します。

 気候変動は人類全てに喫緊の課題であり、連動してさまざまな危機を引き起こしています。本年もインドでは気温が40℃を超える日が2週間にわたって続き、多くの人や動物が死亡しました。北極や南極で氷雪の不可逆的な融解が進み、海面上昇による難民や食料問題、政治的な分断などの要因にもなっています。

 例えば、ドイツはエネルギー源の約70%を輸入に頼っています。化石燃料からクリーンエネルギーに移行するには、国内にとどまらず、エネルギーの全価値連鎖を含む国際的なエネルギーシステムの構造を転換していく必要があります。

 G20の卓越した応用研究機関のリーダーたちが結集するRD20では、ネットゼロを達成するための道筋やレジリエントな国の在り方を議論し、未来社会への土台を築くため研究開発の重要性を訴えていきます。

——産総研はカーボンニュートラル実現に向けて、製造、利用、リサイクルなどエネルギーに関わるさまざまな技術開発を進めています。近年の研究成果を教えてください。

吉野 彰博士

吉野 彰博士産業技術総合研究所 ゼロエミッション国際共同研究センター
研究センター長

1972年旭化成工業(現・旭化成)入社、2017年名誉フェロー。2019年スウェーデン王立アカデミー ノーベル化学賞受賞。2020年より現職

吉野 産総研ではGZRと福島再生可能エネルギー研究所(FREA)の2拠点で、次世代太陽電池、水素・アンモニア利用、CO2の回収・有効利用・貯留(CCUS)などの研究を行っています。

 日本発の技術で次世代太陽電池として注目されているペロブスカイト太陽電池は、現行のシリコン太陽電池の1/10以下の重さで、かつフレキシブルである特長を生かすことで、耐荷重の低い工場・倉庫の屋根、ビル・住宅の壁面など、新しい設置場所の開拓を目指しています。これまで二つの課題がありました。一つ目は効率で、さまざまな研究の成果により、少なくともシリコン系の太陽電池とほぼ同等、もしくはそれをしのぐようなレベルまで向上しています。二つ目は、主流の太陽電池に比べて、耐久性がかなり劣る課題がありましたが、材料選択や封止方法の改良がかなり進み、耐久性も非常に向上した研究成果が出ています。

 ほかにも産総研は、CO2を合成燃料e-fuelなどの有用な物質に変換する技術にも強みを持ちます。e-fuelは、CO2と再生可能エネルギー由来の水素を反応させて得られるガソリンなどの液体燃料です。共電解とも呼ぶ、水とCO2を同時に電気分解して水素と一酸化炭素と酸素に変換する固体酸化物形電解セル(SOEC)装置と、生成物の一酸化炭素と水素の合成ガスを基に、各種のe-fuelをFT(フィッシャー・トロプシュ)反応と組み合わせた、高効率なe-fuelの一貫製造プロセスの開発を行っています。

 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が、カーボンニュートラル技術の研究開発・実証や社会実装までを継続的に支援するグリーンイノベーション基金事業でも、産総研の研究開発が採択されています。

 一つはペロブスカイト太陽電池の実用化に向けた研究基盤の整備および基盤技術の開発です。もう一つは再生可能エネルギー由来の電力を活用した高効率の水電解による水素製造です。産総研では、将来再生可能エネルギーが多量に導入される状況を想定し、大型の水電解装置を評価できる拠点をFREAに構築しました。

 本年RD20がインドで開催されることは大きな意味があります。研究開発が進み、社会に実装される際に国ごとに必要な技術は異なるでしょう。日本ではコスト面から導入が難しくても、インドなど他の国・地域なら適用できる技術があるかもしれません。そういう気付きの機会を生み出せる場になることを期待しています。

 また、国ごとのカーボンニュートラルに向けたアプローチを実感できるのも、国際会議であるRD20ならではです。

グローバルで進むカーボンニュートラルの研究開発

——インドの主要な研究機関であるTERIがどのような役割を担っているのか教えてください。

ダワン TERIは非営利の独立した研究機関で、グローバルおよび地域レベルで化石燃料からクリーンエネルギーへの移行、サステナブルな農業など持続可能な社会の実現に向けた技術研究開発を行っています。

 私たちの仕事は、気候変動ヘ適応するインフラ開発、持続可能な居住環境としてスマートシティーに関する提言、エネルギーの効率的な利用や太陽光発電など再生可能エネルギーの活用、新エネルギーとして水素の研究までカバーしています。国土が広大なインドで低炭素な鉄道輸送など、政府に対して気候変動政策の助言や提言を行っています。

 再生可能エネルギーの分野では、日照が多いことを有効利用して太陽光発電を推進しています。産業排水の再利用や、建材の持続可能な材料代替といった提言もしています。農業、畜産や漁業の残さをバイオ燃料として活用する研究も行っています。持続可能な農業に向けた取り組みもあります。農業を通じてカーボンクレジットを創出できる仕組みを作れば、農家にとって収入源となると同時に、植林の動機づけにもなるでしょう。

オンライン座談会の様子

——フラウンホーファー研究機構の事業内容について教えてください。

ヘブリング フラウンホーファー研究機構は欧州最大の科学技術分野における応用研究機関で、民間企業や公共機関向け、また社会全体の利益を目的として実用的な解決策の開発を行っています。

 フラウンホーファー研究機構は太陽光発電の研究における世界的なリーダーで、ペロブスカイト太陽電池のような最先端技術を進展させています。技術、部品、材料、システムおよびプロセスの開発を通じて、再生可能なエネルギー源に基づく持続可能で経済的、安全でかつ社会的なエネルギー供給システムを育成することに注力しています。

 私たちは水素技術の研究を通じて、気候に左右されない産業プロセスと持続可能なモビリティのイノベーションを推進しています。私たちの仕事は、持続可能な燃料と化学基盤分子の全プロセスチェーンにわたります。これには、グリーン水素の生産や、CO2直接回収によるアンモニア、ジメチルエーテル(DME)、メタノールなどのパワー・トゥ・エックス(PtX)製品の合成、改質プロセスや最終用途への適用までが含まれます。私たちの研究の主要分野の一つは、低炭素エネルギー移行において重要な役割期待されるクリーン燃料である、DMEの触媒の開発です。私たちはまた、廃熱回収におけるDMEの可能性や、太陽光や風力などの再生可能エネルギーのエネルギー貯蔵や液化におけるDMEの利用について探求しています。

 水素と酸素との化学反応で発電をする燃料電池の性能向上を図るMEA(Membrane Electrode Assembly) の研究では、燃料電池の性能評価を進めていて、これには燃料電池車を市場に投入するためのトヨタ自動車との共同研究が含まれています。

 フラウンホーファー研究機構にはさまざまな研究所があり、世界中の企業や産業界と協力を進めてカーボンニュートラルを実現していきます。日本企業は品質第一の意識が高く、トヨタ以外にも連携を進めていきます。

——日立エナジーの事業内容について教えてください。

ゲルハルト・セルゲ氏

ゲルハルト・セルゲ氏日立エナジー
エグゼクティブバイスプレジデント兼最高技術責任者(CTO)

1999年に日立エナジーの前身に入社。2015年に電力製品のグローバル技術責任者、2016年に電力グリッド事業CTO就任

セルゲ 私たちは、半導体、変圧器、開閉装置、高電圧直流(HVDC)送電システム、そして電力システムの自動化製品やソフトウェアソリューションなど、電力システム向けの技術を提供しています。私たちの活動と提供する製品は、より多くの再生可能エネルギーをグリッドに統合し、あらゆる分野で増大する電力需要を管理し、持続可能な技術をより多く提供することによって、電力システムの炭素排出量を削減することに重点を置いています。非常に顕著で最近の例として、私たちは、世界で最も強力な温室効果ガスである六フッ化硫黄(SF6)を使用しない、SF6ガスフリーのガス絶縁開閉装置を提供しました。 SF6は、その優れた技術性能により、このようなガス絶縁開閉装置(GIS)の標準となってきました。現在、私たちは技術性能や製品の信頼性を損なうことなく、送電電圧レベル550キロボルト(kV)でのブレークスルーを達成した初の企業です。

 再生可能エネルギーの統合において、私たちは、太陽光、風力、その他の再生可能エネルギー発電の交流(AC)および直流(DC)接続を可能にするさまざまな製品、システム、およびサービスを提供しており、再生可能エネルギーによる発電につきまとう、発電の不安定さの解消に取り組みます。パワーエレクトロニクスとデジタル技術をはじめとした私たちのソリューションは、将来に適した、安定した、信頼性の高い、そして回復力のある電力システムの実現に向けた課題に取り組んでいます。さまざまな種類の蓄電システム(例:バッテリーエネルギー貯蔵システム(BESS)、揚水発電など)を組み合わせたインテリジェント・ネットワーク制御は、柔軟な電力システムを確保し、より大規模で複雑な未来の電力システムの実現が可能になります。

RD20が国際連携、人材育成に果たす役割に期待

——RD20は若手研究者を対象としたサマースクールを開催したり、水素や太陽光発電に関連するタスクフォース活動など継続的な連携活動を進めたりしています。RD20に対する期待を聞かせてください。

ダワン カーボンニュートラルを推進する上で、インドはとてもユニークな立ち位置にいます。まだ若い国で、どの国よりもエネルギーの需要は大きく、多くのスタートアップ企業が生まれており、イノベーションを生み出すエコシステムがあります。

 より多くの雇用を生み出していくには農村のコミュニティーが新たなテクノロジーを受け入れて発展していく必要があります。過剰に生産したエネルギーを貯蔵・輸送して輸出するため、水素は重要な輸送媒体(キャリア)になるでしょう。

 カーボンニュートラルを実現する上でパートナーシップを推進していかなくてはいけません。RD20で研究人材の育成に向けて行われているサマースクールは、その一つの方法になります。RD20の場を通じて、 参加国それぞれの取り組みについて共有し、議論することで、再生可能エネルギーと脱炭素に向けた取り組みにおける最新の技術開発と、その利用に関して、理論的な知識を実践に結びつけるよう橋渡ししていきます。

吉野 RD20の活動は、年1回開催される国際会議以外にもワークショップやタスクフォース、サマースクールなど継続的で定期的な活動が国の研究機関に属する研究者によって行われている点が独自だと言えます。

 研究機関同士が密接に関わり、研究者同士の人脈、コネクションを作りやすい環境もあります。ビジネス化を見据えた議論が十分に深まっていないことは課題ですが、RD20は連携を進めやすいプラットフォームとしてさまざまな形で連携の可能性を秘めています。

 カーボンニュートラルを実現するにはグローバルな連携が絶対に必要です。各国が目標としている2050年にどのような技術が実用化して、社会に実装されるかは私たちが研究を進めている成果次第でしょう。政策・技術・科学のそれぞれの観点から議論がなされているRD20活動からグローバルな連携が生まれて、カーボンニュートラル社会が実現することを期待します。

サマースクールの様子

ヘブリング RD20には、国・地域を超えて省庁間、研究機関同士または産業や企業との連携を生み出し、カーボンニュートラル技術の早期の社会実装と脱炭素社会の実現に向けた足がかりとなることを期待しています。若手研究者を対象としたサマースクールは2023年にフランス、2024年はインドネシアで開催しました。2025年は米国(国立再生可能エネルギー研究所・NREL)で開催を予定しています。

 カーボンニュートラルを次の段階へと進めていくことは複合的な課題です。科学的な方向性を議論・共有すること以上に、政治面の関与も進めるほか、研究開発の資金面での持続性も確保する必要があります。クリーンエネルギーについて投資市場も動き出しており、投資家の目線も欠かせません。

 グローバルでエネルギー変革を進めるため、それぞれの国が政治と研究開発、投資を結集しなければいけません。2024年のG20はブラジルが議長国を務めます。連携と競争の両面からカーボンニュートラルに関連した研究開発を進めて、加速していくことが問われます。2025年には水素活用のテラワット・ワークショップが開催されます。これまで夢のエネルギーのように思われてきた水素の実用化が迫り、大規模な水素利用をテラワット(TW)級にスケールアップさせるにはどうすべきか、いよいよ議論を進めるべき時期です。

セルゲ カーボンニュートラル実現の重要な課題は、より持続可能なエネルギーシステムを目指して、どのように移行するかにあります。私たちは、政策および規制の枠組み、技術の大規模導入までの全範囲をカバーし、研究アイデアから大規模な実施までの継続的なイノベーションを提供し、民間および公共の投資のためのビジネスモデルを可能にするために、すべての利害関係者間の協力と連携を強化しなければなりません。その中心には人々がいます—今日働いている人々も、これから数十年にわたってエネルギーに情熱を持つ次世代の人々も。エネルギー転換はマラソン(長期的な取り組み)であり、日立エナジーはすべての人々のために持続可能なエネルギーの未来を拓くことを全面的に約束します。

吉野 RD20国際会議には第1回から参加していますが、年々技術の進歩が感じられます。本日の議論自体も、昨年行われた議論と比べると非常に進歩しています。本年はインドでRD20国際会議が開催されますが、これは非常に重要なことで、すでに申し上げたように、各国の状況や技術可能性を考える必要があります。このRD20のイニシアチブの中で、さらなる議論が行われることを期待しています。

2023年の様子
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