新菱冷熱工業
ナノレベルの汚染物質を分析し可視化
たゆまぬ技術開発で
除去率99.9%を目指す
微細化・高度化が進む半導体工場。品質や歩留まりの観点でナノレベルの対策が求められている。重要度が高まっているのが化学汚染物質の管理だ。産業空調分野をリードする新菱冷熱工業は、化学汚染物質の可視化を軸に、提案、技術開発、施工を一貫して行い、除去率99.9%を目指す。
半導体の歴史は微細化の歴史でもある。半導体デバイス構造を小さくし、素子数を増やすことで性能向上を図ってきた。現在、回路パターンの幅を示す回路線幅は3nm(ナノメートル)※が主流。2nm以下の量産化も動き出している。さらなる高集積化に向けて3次元的積層化も進む。微細化・積層化の進展に伴い、品質に影響を及ぼす物質は微粒子から化学物質まで広がっている。アンモニア、二酸化硫黄(SO₂)などの化学汚染物質が管理対象となる。
※nmは10億分の1メートル
「化学汚染物質の種類は多く、なおかつ非常に低濃度です」と、新菱冷熱工業首都圏事業部設計一部設計三課長の西谷善紀氏は強調する。「当社は99.9%除去率を目指しています」。
省エネ型エアワッシャ「AIR-ROCA®」細かい穴を開けたプリーツ型(ひだ折り)メディア(気液接触材)により、水をほぼ飛散させずに水溶性の分子状汚染物質(AMC)を除去できる
新菱冷熱工業がクリーンルームの分子状汚染物質(AMC=Airborne Molecular Contaminant)除去に着手したのは20年前に遡る。取り組んだのは新型エアワッシャの開発だ。本エアワッシャは空気中の水溶性AMCを純水に溶かし込み、除去と加湿を同時に行う装置で、クリーンルーム用外調機に多く設置される。外気中の化学物質と純水が接触するメディア(気液接触材)を利用する滴下式が主流だが、この方式には課題もあった。同社経営統括本部イノベーションハブ専任課長の佐原亮氏は説明する。
「一般的に滴下式で用いるメディアは蜂の巣状です。構造上AMCと純水の接触が非効率で、空気を送り込むファンの電気代も増加します。水が飛散しやすいため無駄に水を消費し、カビ対策も必要です。そこで当社が開発したのがプリーツ型(ひだ折り)メディアです。折り目を付けて表面積を増やすことで、AMCとの接触効率が向上。高い除去・加湿性能などとともに水の飛散も抑え、省エネとコスト削減を実現しました」
(左)新菱冷熱工業 首都圏事業部 設計一部 設計三課長 西谷善紀氏
(中)同社 経営統括本部 イノベーションハブ 産業環境グループ 主任 服部美紀氏
(右)同社 経営統括本部 イノベーションハブ 専任課長 佐原亮氏
半導体工場の要望に
新技術開発で応える
研究開発から実用化へ移ると、新たな課題に直面する。「風量や滴下水量が大きくなるほど、プリーツ型の構造に歪みが生じました。試行錯誤を繰り返し、行き着いたのが櫛状治具と、メディアに小さな穴を開けること。櫛により構造強化とともに均質性を確保し、小さな穴で抵抗を少なくしたのです」(佐原氏)。2009年、新菱冷熱工業は省エネ型エアワッシャとして「AIR-ROCA®」をリリース。以降、半導体工場で多くの実績を重ねてきた。
電解水エアワッシャシステム「AIR-ROCA® E」の構造純水とアルカリ電解水の併用でAMC除去性能を大幅に向上。導電率計を通して外気SO₂濃度を予測し、最適な電解水量を供給するためコストも削減できる
半導体の微細化が進む中、より高い除去率を求める要望が増えると、同社はアルカリ電解水に着目した。同社経営統括本部イノベーションハブ産業環境グループ主任の服部美紀氏は説明する。
「アルカリ電解水を滴下することで、中和反応により酸性ガスであるSO₂の除去率99%以上を達成したのが電解水エアワッシャシステム『AIR-ROCA® E』です。一般的なエアワッシャの場合、高濃度(50ppb)のSO₂の除去率は10~30%程度。当社は一定条件の下で99%を保証します。アルカリ電解水を通り抜けるアンモニアに対しては、純水を滴下することで96%の除去率を達成。酢酸やギ酸も、除去率90%以上です。『AIR-ROCA® E』は空気中の酸性ガスとアルカリ性ガスの両方に対応できる点が大きな特徴です」
「AIR-ROCA® E」の導入効果クリーンルーム用外調機内に「AIR-ROCA® E」を採用すると、ケミカルフィルタや再熱コイルの設置が不要に。制御機構と組み合わせて運転を最適化し、消費エネルギー量、CO₂排出量、ランニングコストを大きく削減できる。ケミカルフィルタレスにより活性炭の交換・廃棄が不要になり、産業廃棄物の排出もなくなる
極微量分析技術を軸に
提案、開発、施工まで対応
通常、同業他社は極微量分析を外注している。新菱冷熱工業は、自社分析装置でAMCを可視化し顧客に提示。分析結果を基に対策を提案し、必要であれば新技術を開発し施工まで行う。このサイクルの中で「AIR-ROCA®」や「AIR-ROCA® E」も開発された。
極微量分析技術の構築は容易ではなかったと西谷氏は振り返る。「高額な装置の導入だけでは精度を得られません。現場から採取したサンプルが大気で汚染されないことが重要です。分析対象は極めて低濃度のため、一瞬でも室内空気に触れると影響を受けます。輸送方法からクリーンルーム内での分析、手袋装着の仕方、装置の洗浄など徹底した対策を積み上げることで、トップレベルの分析技術を実現しています」。
半導体の進化に合わせ、AMCの可視化と除去率向上の重要度は増す。両方の技術を有することが同社の強みだ。「新たな技術開発への挑戦とともに、CO₂排出量削減など地球環境保護への貢献度も高めていきます」と佐原氏は話す。
研究開発の中核となるイノベーションハブでは、業界を超えたコラボレーションも積極的に行う。同社は社会や産業の発展を支える半導体工場と一緒に進化していく。
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