

「DXは顧客体験を変革し、ビジネスの価値を高めるための手段に過ぎません。ところが、クラウドなどのテクノロジーを導入した段階で満足してしまっている企業は多いのではないでしょうか」とNew Relicの清水 毅氏は指摘する。
目的をはき違えてしまっているために、新しいテクノロジーを導入してもビジネスの価値は高まらず、取り組みが頓挫してしまう。日本企業のDXが欧米企業に大きく遅れている要因はここにあるという。
本来は手段であるべきものが目的化する。この状況に陥る本質的な原因として、同社が挙げるのがビジネスの「意思決定力」の低下だ。自組織を取り巻く状況を正しくとらえ、やるべきことを正しく判断して決定する。「まずはこの力を取り戻さなければ、DXを加速することは困難です」と清水氏は言う。
また、DXを加速する上でカギを握るのがシステム開発の内製化である。外部のITベンダーに頼らず、システムの企画から構築・運用までを自社で行うことで、ビジネスアジリティの向上やコスト削減を図れるからだ。その重要性は経済産業省のDXレポートでも指摘されている。内製化は、デジタル化を進める企業にとって避けて通れない取り組みの1つといえるだろう。
ただ残念ながら、この内製化も思うように進んでいないのが日本企業の現状だ。
「原因はDXの遅れとほぼ同じです。つまり『なぜ内製化するのか』『どの領域を内製化するのか』といったことに関する意思決定力が低いために、せっかく優秀なデジタル人材が加わっても、定着せずに辞めてしまうといったことが起こっているのです」(清水氏)
そこでNew Relicは、日本企業が内製化をするためのアプローチとして「知る」「動く」「決める」という3つのステップを提唱している。
「知る」は、オブザーバビリティ(可観測性)を獲得することだ。オブザーバビリティとは、元々は制御工学の分野で使われている用語で「システムからの出力などに基づき、制御することを目的に内部の状態を推測できる状態」のことを指す(図1)。
システムからの出力を計測することで、システム内部の状態を推測できるようにすること。異常を検知するだけでなく、原因の特定や分析が実現できることがポイントだ
これは旧来のシステム監視が目指してきたことと同じに思えるが、そうではない。「システムで何らかの異常が起こった際、それを通知するだけでなく、どこで何が起こったのか、なぜ起こったのかを制御するために把握する能力のことも含んでいます」と清水氏は説明する。「症状」として現れる異常をとらえるのみならず、「根本原因」となるトラブル発生要因の特定、状況分析も可能にする。これがオブザーバビリティのポイントだ。
「個々のアプリやインフラ、ユーザー体験、サービスの状態、そしてビジネスのKPIがどうなっているのか。それぞれがどのように相関しているのか。これを可視化できれば、データに基づくビジネスの適切な判断が可能になります」と清水氏は述べる。
2つ目の「動く」では、段階的な内製化を実践する。システムの企画から運用までの全プロセスを一度に内製化するのは難しいため、できる部分から進め、小さな成功を収めながら段階的にアジリティを獲得していくのが成功の秘訣だ。「ここでも重要なのは手段と目的を間違わないことです。例えば、新しいビジネス価値を創出できるなら、外注でも構わないのです。そのような点も含めて、前のステップで可視化したデータを基に意思決定することが肝心です」と清水氏は言う。
そして最後の「決める」では、意思決定自体を内製化する。ここで重要になるのが、New Relicが提唱するビジネス・オブザーバビリティの実現だ(図2)。「例えば、ECサイトの売上が急激に低下した場合、従来であれば複数の部門がそれぞれのツールで原因を探り、情報を持ち寄って分析するため、対応までに多くの時間を要していました。しかし、ビジネス・オブザーバビリティを活用すれば、購入フローの各ステップにおけるユーザーの離脱率増加や、それを引き起こしているシステムのパフォーマンスやエラーの根本問題を数分で特定できます」と清水氏は説明する。
ユーザー体験からインフラまで、あらゆるデータをリアルタイムで追跡・可視化して分析可能にする。新たに搭載されたAI 機能を使えば、様々なプロセスや作業をサポートしてもらうことも可能だ
ビジネス・オブザーバビリティの特長は、ビジネスプロセスとシステムの状態、そして各種KPIを統合的に可視化できる点にある。例えば、「ECサイトの売上低下が発生した際にはシステムの応答速度低下が起きている」といった相関関係を、技術部門だけでなく、経営層やビジネス部門のメンバーも含めてリアルタイムに把握できる。これにより、問題の全体像を素早く理解し、優先度の高い対応から着手できるようになる。
「従来のモニタリングツールは、システムの異常を検知することが目的でした。一方、ビジネス・オブザーバビリティは『なぜビジネスKPIが変動したのか』という視点から、システムの状態やユーザー行動の変化までをひも付けて分析できます。これにより、部門間の分断のない、データに基づく意思決定が可能になるのです」と清水氏は強調する。
加えて、2023年5月には「生成AI オブザーバビリティアシスタント」を発表した。問題発生時の根本原因の切り分けから、経営層向けレポートの自動生成まで、プラットフォーム上での多くの作業をサポートしてくれるという。
「DXの本質は、変化に素早く対応できる組織能力の獲得です。New Relicは、ビジネスまで統合したオブザーバビリティの実現を通じて組織全体の意思決定力強化を支援します」と清水氏は語る。デジタル時代における競争優位性の確立に向けて、検討する価値のあるソリューションといえそうだ。
