

わずか数年で急速にビジネスの世界に普及した生成AI。Webで検索をかければ、当該ページに移動せずとも求める情報のサマリーが表示される。オンライン会議の文字起こしや翻訳、議事録作成もほぼ自動的に行われる。これらのユーザー体験を支えているのは、LLM(大規模言語モデル)に代表される基盤モデルの進化、そして基盤モデルを厳選としたAIエージェントの浸透にほかならない。
生成AIの黎明期から、莫大なコンピューティングパワーが基盤モデルの学習やファインチューニングに使われてきた。今後もモデルの学習やチューニングが重要である一方で、今の企業ユーザーの関心は、「どの基盤モデルで何ができるか」から、「その基盤モデルをどうビジネスで活用するか」へと移っている。レノボ・ジャパンの元嶋 亮太氏は、「生成AIの基盤モデルを自社の業務プロセスやアプリケーションの中に組み込み、用途ごとに様々なAIを併用する場面が増えています」と、最近の企業ユーザーの傾向を示す。
例えば、元嶋氏自身も日常的に利用しているというMicrosoft 365 Copilot。このAIアシスタントに含まれるリサーチツールは、複数のエージェントが協調してレポートをつくる仕組みになっている。
「初期のチャットベースのAIも十分すごいと感じましたが、現在はそれにとどまりません。AIがユーザーと対話しながら、『何をしたいのか』『どのようなアウトプットが必要なのか』を確認し、最終的にユーザーが望む形式のレポートで成果物を出力してくれます」(元嶋氏)
さらに現在は、Microsoft Officeのようなクライアントアプリケーションにもエージェントモードが導入されている。例えばExcelでは、これまで人間が関数やスクリプトを使ってセルを操作していた。現在は「どのようなアウトプットが必要か」を自然言語で指示するだけで、AIエージェントが方法を考えて直接ファイルを編集してくれる。
「人間とITシステムのインターフェースが大きく変わりつつあります。自然言語での操作は、コンピュータと人との対話の仕方を変える大きな転換点だと感じます」と元嶋氏は話す。
このようなAIの恩恵は、インターネットの向こう側にあるクラウドのみからもたらされるものではない。手元のPC、つまりローカル環境に広がっている点にも注目する必要があるだろう。中心にあるのは「AI PC」だ。市場への登場から約3年が経過したAI PCが、いよいよその価値を具体的な体験として感じられる段階に入りつつあるという。
中でも、AI PCの進化系として2024年5月に発表された「Copilot+ PC」は、「これまでで最も高速で、最もインテリジェント、かつ安全なWindows PC」だ。高度なユーザー体験をオンデバイスで実現するPCとして、大きな注目を集めている(図1)。
図1 Copilot+ PCの主要機能
過去に見た画面を検索できる「リコール」をはじめ、コンテンツ駆動型ショートカット「クリックして実行」、ユーザーの直感的な検索を支援する「Windows 検索」など、ローカルAIを活用した機能を利用できる
Copilot+ PCの代表的な機能の1つが「リコール」である。日々の操作画面の情報を基に、ドキュメントや画像などのファイルを検索できる。スクリーンショットをOSが定期的に取得して、内容を解釈する。画面内にテキストがあればOCRで抽出し、画像であれば画像の文脈を分析して情報をデータベースに格納する。これにより、ユーザーは自然言語で過去の情報を検索できるようになるのである。
「自分が過去に見た景色から検索できる機能といえます。ファイル名や保存場所を覚えていなくても、自分が覚えていることを手がかりにして、ドライブレコーダーのように情報を探せるのです」と元嶋氏は紹介する。
ユーザーは、もはや「AIを使っている」と感じないかもしれない。ごく自然な形で、AIがユーザー体験に組み込まれる。しかも、ネットワーク接続は必須ではない。Copilot+ PCには基盤モデルが組み込まれており、RecallのようなAI機能をローカル環境で、場合によってはWindows AI APIを通じてサードパーティのアプリケーションからも利用できるのである。
これを実現できているのは、ここ数年で飛躍的に向上したハードウエア性能によるところが大きい。特に重要な役割を果たすのがGPU(Graphics Processing Unit)だ。
「例えば、『AMD Radeon 890M』のような内蔵GPUは、柔軟なビデオメモリ割り当てが可能であり、これがローカル環境でのAI処理に生かされています」と元嶋氏は言う。さらに最近は、低消費電力でAIワークロードを処理するNPU(Neural Processing Unit)とGPUを組み合わせる処理にも対応。AI推論の初動はNPUで処理し、その後GPU側に橋渡しするハイブリッドモードが使用できるようになっているという。
「このように、AI PCは今この瞬間も進化しているため、数年以上利用するPCの調達において、最新のCopilot+ PCの導入を検討する意義は大きいです。古いPCを使い続けていると享受できないAIの恩恵が存在します」と元嶋氏は強調する。
もっとも、AI処理を快適に行うためには、単に性能が優れているだけでは不十分だ。高いパフォーマンスを継続できること、そしてPCのキーボード面が次第に熱くなってしまうなど、快適さを犠牲にしないことが求められる。
そこでレノボは、この課題を克服したCopilot+ PCとして「ThinkPad T14 Gen 7」(以下、ThinkPad T14 Gen 7)を提供している。特徴はユーザーの快適さを高め、プロセッサの性能を極限まで引き出すサーマル設計(排熱機構)だ。
「従来はヒートパイプを通じて熱をファンへ送り、外部に排出する方式が一般的でした。ThinkPad T14 Gen 7では、その方式に加えて、CPUをはじめとする熱源に対して直接外気を供給するスポットクーラーのような仕組みも搭載しています」(元嶋氏)。これにより、パフォーマンスを維持しつつ表面温度を下げられる。Copilot+ PCを検討する際には、プロセッサのスペックのほか、このようなサーマル設計についても十分に確認すべきだ。
クラウドでの推論が引き続き重要なのは間違いない。ただし、さらに多くのAIの価値を業務に落とし込みたければ、ローカル環境の活用に注目するべきだ(図2)。このような「使い分け」の視点が、これからのAI活用のカギを握っている。
図2 AI活用のカギを握る「使い分け」の視点
これからのAI活用では、クラウドの大規模な処理能力と、手元のPCに搭載されたローカルAIを用途に応じて使い分けることが生産性向上のカギを握る