

現在多くの日本企業において、AIの活用が進められている。しかし、単にユーザーの利便性向上や業務効率化のみにとどまっていては、AIを真の企業変革につなげていくことはできない。
「これからの時代においては、企業活動そのものにAIエージェントを組み込んでいくことが重要です。マイクロソフトは、こうした人とAIが協働する先進的な企業像を『フロンティアファーム』と位置付けています。当社では、その実現に向けて、顧客企業の変革を実装モデルとして支援しています」とアバナードの奥平 健吾氏は話す。
従来型の企業においては、業務を実行するのはあくまでも人であり、システムは記録や処理を受け持つだけの存在であった。しかし、フロンティアファームにおいては、AIエージェントが業務プロセスやワークフロー内に組み込まれ、自律的に状況を把握した上で人の判断やアクションを促す。AIエージェントは単独のツールではなく、人とチーム化された新しい働き手として機能するわけだ。
とはいえ、単にAIを導入しただけで、フロンティアファームへ進化できるわけではない。実際にAI導入企業の中には、一部の業務では成果を得られたものの、経営層を説得できるほどの投資対効果を示せず悩んでいるところも多い。これでは、とても全社的な変革にはつながらない。
「その理由は明確です。多くの日本企業では伝統的な稟議・承認プロセスが残っており、組織の壁や情報の壁など様々な壁が社内を分断しています。既存の仕組みがそもそもAIエージェントを活用する前提になっていないため、PoCから全社展開へと進めない企業が数多く生まれているのです」と奥平氏は説明する。
このように、AIによる変革が進まない最大の要因は、「AIを業務に埋め込む設計の不在」にある。そこで、こうした状況を変える上で重要なポイントとなるのが「1.業務プロセスの再設計」「2.データ基盤」「3.セキュリティー&ガバナンス」「4.業務システムとの接続」「5.人と組織の変化」の5点だ。
まずは、AIに任せる範囲と人の責任を業務プロセス上で明確化。その上で、信頼できるデータやリアルタイムナレッジを収集・統合できる基盤を構築する。また、AI活用に伴うリスクを低減させるために、AIが参照・実行できる範囲や承認プロセスを設計するとともに、ERPやCRMなどの基幹システムに加え、ワークフローやコラボレーションツールとの連携も重要だ。企業としてレコードシステム(基幹システムなど)と情報系システムの情報がつながって初めて、AIエージェントが業務プロセスの中で使えるようになるからだ。
「そして最後が人と組織の変化ですが、これがなかなか難しい判断が必要になります。AIを使うスキルを身に付けるだけでなく、AIを前提とした働き方やマネジメント、評価体制に変えていかないといけないからです」(奥平氏)
AI活用でありがちなのが、導入の前提となる業務プロセスを従来のまま考えてしまうケースだ。これではAIエージェントのほうを業務プロセスに合わせる場面が増え、業務プロセスをゼロベースで見直すこともできなくなってしまう。そうではなく、これから自社が進むべき方向性を見据えた上で、マインドセットを抜本的に変えていくことが求められる。また、これまで述べたポイントは、どれを実施するかという話ではない。これら5つの要素を同時に設計できるかが、全社変革を実現する重要なカギなのである(図1)。
図1 変革を支える5つの設計要素
多くのAIプロジェクトがPoC止まりになってしまうのは、既存の仕組みやルールがAIを前提としたものになっていないからだ。これを打ち破るためには、5つの要素を同時に再設計することが必要だ
それでは、企業はどのようにしてAIエージェントの導入に取り組めばよいのだろうか。「当社ではお客様に対し、まずAIエージェント導入は単なるシステム構築案件ではなく、企業変革・再設計のプログラムであるとお伝えしています」と奥平氏は話す。
実際に同社が支援したある製造業では、現場の製造領域にAIエージェントを導入する過程で様々な困難にも直面したものの、修理時間を約10~15%削減することに成功。そのパターンを調達業務などほかの業務へも横展開している。「この成果のベースとなったのが『1.業務変革』『2.技術基盤』『3.運用モデル』の3点です。当社では、この3つのレイヤーを同時に再設計し、実行プログラムに組み込むことで具体的な業務成果につなげていきます」と奥平氏は続ける(図2)。
図2 3つのレイヤーで企業変革を推進
アバナードでは、「業務変革」「技術基盤」「運用モデル」の3つのレイヤーで同時に実践的な企業変革プログラムを推進。これにより、具体的な業務成果へとつなげていく
まず業務変革では、どのコア業務に対し、どのようなKPIを変えるかを明確に定義する。「成果を上げたいのは売上なのか、それともコストや顧客/従業員体験なのか、インパクトを生み出したい領域を具体的に定義します。これを欠いたAIエージェント活用では成果につながりません」と奥平氏は強調する。
また、現在の市場においては、AI関連の様々なツール/サービスが提供されている。そこで2つ目の技術基盤では、自社のAIエージェント活用で必要となる技術要素を組み合わせ、安心して利用できるスケーラブルなAI基盤を設計する。
さらに重要になってくるのが、継続的に改善し続けられる運用モデルの確立だ。それも特定の部門だけでなく、社内のいろいろな部門でこれに取り組む体制が求められる。「AIエージェントは、様々な利害関係者や部門を横断してプロセス内を自律的に動く存在になります。このため、単一部門だけで導入すると、制約やルールの壁に直面し、取り組みが小規模にとどまる傾向があります」と奥平氏は説く。
こうした事態に陥らないためには、AIエージェント活用にコミットする組織をできるだけ増やし、それらの組織がチームとして参画することを前提とした計画を立てることが重要だ。「例えば、朝に議論した内容をその日のうちにデプロイできるようなプロセスや運用モデルを築ければ、企業内でAIエージェントが動ける範囲もどんどん広がってきます。実際に当社が支援している顧客企業においても、この3つの要素に一体で取り組んだことが成功要因となっています」と奥平氏は話す。
もちろん、いきなり全社変革を成し遂げるのは現実問題として難しい。フロンティアファームへの変革を目指しつつ、段階的に取り組みを進めていくことが肝心だ。
まずは、資料作成や議事録の要約といった個人/チームレベルの生産性向上から生成AI活用に取り組み、ある程度成果が出たら業務単位でのAIエージェント活用にステップアップする。旅費/出張申請の自動化などは比較的実装が容易なので、こうした分野から始めていくのもよいだろう。これが実現できたら、さらに複数のAIエージェントを連携させて部門横断での業務変革を推進。その上で、AIを前提とした企業モデルへと自社を再設計していく。
「『価値の高い業務領域を選ぶ』『成果に直結するユースケースから始める』『再利用可能なパターンとして横展開』の3点が、進化に向けた取り組みでの鉄則です」と奥平氏。同社でも「AIと共に働く企業」の実現を強力に後押ししていく考えだ。
