

本格的なAI時代を迎えたことで、データ活用のルールも大きく変わることとなった。これまでデータは人が読むためのものであり、入手するタイミングも日次のバッチ処理で事足りていた。このため、データからアクションを起こすまでの間に長いタイムラグが生じていた。しかしAI時代においては、AIがデータから瞬時に推論を行い、自動でアクションを起こす。AIが1秒前の新鮮なデータを燃料として、ビジネスをリアルタイムで動かす時代になっているのだ。
「このような時代においては、データ基盤こそがAIの知能を拡張するカギとなります。なぜなら、AIの判断・行動・学習のすべてを支える役割をデータ基盤が受け持つからです。AIの力を最大限に発揮させるためには、新鮮で高品質なデータを大量に供給できるデータ基盤が欠かせません」と語るのはClickHouseの金古 毅氏だ。
これまでのデータ基盤は、人やアプリケーションを中心とする「データドリブン型」で構築されており、用途ごとにサイロ化されていた。しかしAI時代においては、AIエージェントが目的に応じて必要なデータを収集・活用する「ワークフロードリブン型」の仕組みへと変化する。これに伴い、大量のランダムなクエリ(要求)に対してミリ秒単位でレスポンスを返さなくてはならなくなる。
その一方、現在のデータドリブン経営では、「スピードの壁」「スケールの壁」「コストの壁」の3点が大きなボトルネックとなっている(図1)。分析に長い時間がかかってしまうことから、すぐに意思決定を下すことができない。これではビジネス機会の損失にもつながりかねない。また、データ量が増えすぎるとインフラ側の処理能力が追いつかなくなってしまうため、やむなくサンプリング分析にとどまっているケースも多い。しかし間引かれたデータの中にこそ、重要な示唆があるかもしれない。加えて、データ量の増加に比例してコストが指数関数的に増加してしまう点も問題だ。
図1 データ戦略を阻害する3つのボトルネック
従来型のデータドリブン経営においては「スピードの壁」「スケールの壁」「コストの壁」が意思決定を遅延させる大きな要因になっていた。AI時代においては、これらの壁を打破することが必要だ
「従来型のデータ基盤は、スケールとスピードの両立が困難など多くのトレードオフを抱えていたため、用途ごとにサイロ化せざるを得ませんでした。しかし、当社の次世代データプラットフォームであれば、トレードオフの『VS(どちらか)』を『AND(どちらも)』へと変えるオールインのデータ基盤を実現できます」と金古氏は強調する。
同社が提供する「ClickHouse」は、膨大なクリックストリームや大量のイベントログなどを収集・分析するOSSのデータベースだ。2021年に法人化され、OSS版は主要パブリッククラウド上でサービス提供されている。既に4000社以上の企業に導入されており、消費者向けのサービスや生産管理、不正利用検知など、様々な用途で活用されている。
金古氏はClickHouseが提供する価値として「リアルタイム分析」「AI」「データウエアハウス」「オブザーバビリティ(監視運用)」の4点を挙げる(図2)。
図2 ClickHouseが提供する4つの価値
ClickHouseは「リアルタイム分析」「AI」「データウエアハウス」「オブザーバビリティ(監視運用)」4つの領域で、これまでにない価値を提供。AIの知能を拡張する次世代型データプラットフォームとして機能する
「まずリアルタイム分析では、億単位のデータに対しミリ秒単位で応答できる高速性を装備。データを取り込んだ直後から遅滞なく分析できる上に、大量の同時アクセスがあってもパフォーマンスが低下しません。このため、ビジネスの『今』を捉えた迅速な意思決定が可能です」(金古氏)
またClickHouseのAIは、高速ベクトル検索機能により、強力なAIの検索基盤として機能する。RAGの高速化にも役立つほか、学習・推論用の膨大なデータも一元的に高速処理できる。これにより、AIの知能を自社データで武装することが可能だ。
さらに注目されるのが、コスト面でのメリットだ。前述の通り、大量のデータを保存するにはそれなりの費用が必要となる。その点、ClickHouseは高効率な圧縮技術を備えており、限られたストレージリソースを有効に活用可能だ。また、拡張性にも優れており、性能を維持したままペタバイト級までシームレスに規模を拡大できる。標準SQLに対応しており、既存のBIツールやスキルがそのまま生かせる点も見逃せない。これらの特長により、全社データを圧倒的な低コストで資産化できるわけだ。
システムのオブザーバビリティについても、ログやメトリクス、トレースなどのデータを統合して単一の基盤上で相関分析できる環境を提供。専用ツールよりも安価にログを長期保存できるほか、異常があった場合もリアルタイムに検知・通報を行うことで迅速なトラブル対応が行えるようにしている。
「このようにClickHouseは単なる高速データベースではなく、リアルタイム分析からAI、コスト最適なデータウエアハウス、信頼性を担保するオブザーバビリティに至るまで、現代のデータ戦略に必要な価値をワンストップで提供できます」と金古氏は話す。
ClickHouseのアーキテクチャーも非常にユニークだ。データレイクや各種データソースをネイティブにサポートしているため、既存のデータ資産をそのまま活用することができる。特にパフォーマンスが要求される場合には、専用のマネージド型インテグレーションプラットフォーム「ClickPipes」による高速な外部データ取り込みも可能。また、ClickHouseとPostgresを同期させることで、リアルタイムな高速分析と基幹データのトランザクション処理を両立させることもできる。これに加えて、Agentic AI分析やAIアプリ開発の品質管理やコスト評価するソリューションも用意されている。
ClickHouseを導入することで、目覚ましいビジネス成果を上げている企業も数多い。例えば世界的なEVメーカーであるテスラでは、車両などから生成される膨大なテレメトリデータの収集・管理にClickHouseを活用。1000兆行以上ものデータを安定して取り込めるようになったほか、既存のダッシュボードなどにも変更を加えることなく、安定して大規模データを活用できる環境を構築している。
また、ライドシェア大手のLyftでも、データ基盤のコスト問題解消に大きく貢献。既存のApache Druidベースの環境と比較して、約1/8にまでコストを引き下げることに成功した。しかもその一方で、1日当たり約450TBのデータを読み込むなど、性能面への影響も全く生じていない。
さらに先進AI企業のアンソロピックでも、AIモデルの挙動を観測・分析し改善につなげるオブザーバビリティ基盤にClickHouseを採用。大量データのリアルタイム分析が可能なことから、最新AIモデル「Claude 4」の開発でも重要な役割を果たしたと高く評価されている。
これらの事例が示す通り、今後のAI時代においては「保存から知の供給」「サイロ化から統合」「AIの知能拡張」へとデータ基盤の在り方が大きく変わることになる。日本企業としても、この潮流に早急に追随する必要がありそうだ。
