三機工業
5時間の作業を30分に圧縮、フロントローディングに前進
BIM活用で設計施工に
「前倒し」革命起こす
従来は施工段階で行ってきた設備関連の調整を設計段階に「前倒し」し、早期の課題発見と目標の共有を図る――。建築業界に求められている「フロントローディング」実現に向け、三機工業は積極的に取り組んできた。BIM※1の実践的な導入により、コスト削減と納期短縮、さらには品質向上へと結び付ける。
※1 BIM:Building Information Modelingの略。作成した3Dモデルの建築物データベースを基に、設計・施工・運用などライフサイクル上で必要な情報を一元的に管理・共有する仕組み。
「お客様に寄り添いながら設備を造り上げるのが、昔から続く当社のスタイル。脱炭素や省エネに対する世界的な要請を踏まえ、これまで蓄積してきたバックデータを基に、お客様と共に最適解を見出していきます」。三機工業執行役員建築設備事業本部設計本部長の佐古俊晴氏は、同社の姿勢をこう表現する。
同社は建築設備の設計・施工を手掛ける。空間条件や利用方法に応じてプロジェクトごとに設計・施工を行う建築設備の特性上、顧客や関係者と共に課題を整理し、目標を共有していく作業は欠かせない。人材不足が続く状況にあって、業務工程を通して質を確保しつつ効率化を図ることも喫緊のテーマとなっている。
こうした課題の解決に向け、全社を挙げて取り組んでいるのが、BIMを活用したフロントローディングだ。
(左)三機工業 執行役員 建築設備事業本部 エンジニアリング推進本部長 岩岡亨 氏
(右)三機工業 執行役員 建築設備事業本部 設計本部長 佐古俊晴 氏
3Dデータの自動生成で
作図時間を10分の1に
建築設備は、空調、電気、給排水など複数の分野に分かれる。設計段階では分野ごとに図面を描き、施工段階でこれらを統合するのが一般的だ。各図面を突き合わせた時点で、機器や配管がぶつかり合うなどの問題点が見つかる。
「こうした機器の仕様変更や収まり調整が、作業の手戻りにつながり、施工現場の負担を増加させていました。3Dデータを用いたBIMの導入によって、早期に不整合を見つけて解決し、納期の短縮やコストの削減、さらには品質向上という価値をお客様に提供していくことを目指しています」と、同社でBIM化を推進する執行役員建築設備事業本部エンジニアリング推進本部長の岩岡亨氏は言う。
BIM化に関する取り組みの一例が、3Dモデル自動生成ソフト「S-TRANDIMTM(エストランディム)」だ。外部企業と共同開発を進め、2026年度中の製品化を予定している。
BIMがもたらす大きなメリットは、部材ごとに多面的な情報をひも付けた3Dデータの使用によって設計・施工・保守の業務を効率化する点にある。ただし設備の場合、機械メーカーから機器の形状や寸法の情報を2Dデータで提供されるケースが多く、図面を作成する際の3Dデータへの置き換えに多大な手間を要してきた。
こうした状況を劇的に改善するのがS-TRANDIMTMだ。メーカーから受け取った平面図や側面図の2Dデータを読み込み、複雑に組み合わさった機器の立体形状を自動的に生成する。2Dデータの読み込みから3Dデータの生成、データの最適化に要する時間は約30分。手作業でパーツごとに円筒や直方体を描き起こして組み合わせる従来の方法では約5時間を要したから、作業時間は10分の1に圧縮される(図)。
●図 S-TRANDIMTMによる3Dモデル作成条件によるが、3Dデータの生成、データの最適化に要する時間を従来手法から約90%削減できる
三機工業では、市販のBIM対応CADソフト「Rebro(レブロ)」に対するノウハウ提供も10年近く続けてきた。RebroとS-TRANDIMTM、自社開発した「BIM計算連携プラットフォーム」を連動させると、3Dモデルの作図から室内環境性能の計算などまで一気通貫の作業が可能となる。将来的には、見積もりや工事管理まで担うシステムの構築を目標に据えている。
汎用技術を適切に組み合わせて
ムリ・ムラ・ムダをなくす
ツールの開発に力を注ぐ一方で、実際にツールを使いこなせる体制の強化にも取り組んできた。エンジニアリング推進本部が中心となって具体的なプロジェクトでのBIM活用を後押しし、設計から施工までシームレスな業務の連携を試みている。
BIM以外でも、三機工業は先端的なニーズに対応した空調の技術開発を積極的に進めてきた。
例えば、25年6月に発表した「BroDOUP®(ブロードアップ)」は、大規模なクリーンルームに対応した空調システムだ。気流が床面に沿って吸い寄せられるように流れるコアンダ効果を活用し、大空間に設置したクリーンユニットから吹き出す冷風を効率的に循環させる。省エネを図りつつ、クリーンエリアを広範囲に構築できる。
またその前月には、神奈川県大和市の同社「三機テクノセンター」内で「極低湿度環境試験室」の本格運用を始めた。−80℃まで結露しない極めて湿度の低い室内環境を確保するシステムで、車載用電池で活用が期待される全固体電池の製造ラインでの利用を念頭に置く。
ポイントは、−40℃露点環境※2のテストルームに−80℃露点環境のブースを内包する配置だ。ブース用除湿機の排気をテストルーム用除湿機に再利用することで、消費電力の削減を図っていく。
いずれの技術にも共通するのは、汎用的な技術を適切に組み合わせて「ムリ・ムラ・ムダを省いていく」(佐古氏)という視点だ。空調環境を的確に把握・分析できる技術的な蓄積と、細かい工夫を地道に積み重ねていく姿勢が、こうした取り組みを支える。
旧三井物産の機械部を起源とする三機工業は、25年に100周年を迎えた。顧客に寄り添いつつ、BIMなどの実践的な技術革新を手に、脱炭素・省エネを見据えた建築設備の構築と維持に貢献していく――。次の100年に向けた三機工業の挑戦は既に始まっている。
※2 −40℃露点環境:露点温度は、空気中の水分が結露し始める温度。「-40℃露点環境」は、露点温度が−40℃となる環境下にあることを意味する。








