高砂熱学工業
ASHRAE主催アワードで高評価、
IIJの白井データセンターに見る
施工から運用まで伴走続ける
「空調ファースト」の真髄
資源エネルギー庁は2029年度以降新設のデータセンター(DC)に対し、PUE※1=1.3以下の運用義務を定める方針だ。これに先駆け2022年にPUE= 1.298を実現したのが、高砂熱学工業の施工によるIIJの白井データセンターキャンパス(白井DCC)※2。竣工後も運用に伴走し、継続的な最適化を提案する。
2025年2月、「ASHRAE Technology award 2025」※3新築産業施設およびプロセス部門にて、IIJの白井DCCが世界第2位に選出。白井DCCの空調の施工を担当したのが、ビジョン「環境クリエイター®」を掲げる高砂熱学工業だ。
(写真左から)高砂熱学工業 設計部 カーボンニュートラル推進課 課長 松田宏 氏、同設計部 設計3課 主任 藤田夏耶 氏、同設計3課 課長 藤崎将彦 氏、同社営業本部 担当部長 池田昌弘 氏
DX、AIの拡大に伴うDCの電力消費急増に対し、白井DCCは最適解を示す。挑戦は、2017年にIIJ(インターネットイニシアティブ)が呼びかけたコンペティションから始まった。「IIJが提示したRFP(提案依頼書)には、省エネの観点から空調に関して細部にわたる要望が記載されていました。当社は、それらを満たすことはもとより、ノウハウと技術を結集した『空調ファーストの建築計画』と『アフターフォローの重要性』を提案しました」と、同社営業本部担当部長の池田昌弘氏は振り返る。
白井DCCの設計では、空調気流の最適化を考慮した。従来と異なる構造について、同社設計部設計3課課長の藤崎将彦氏は説明する。「建物中央にサーバ室を配置し、排気ファンを除いた空調機器と電気、制御盤類を外壁側の設備コリドー※4に集約しました。設備コリドーの壁、屋根、床といった建築躯体を空調機の構造体として利用し、スペース自体が空調機の役割を果たしています。空気循環ルートを広く確保し、気流循環時の抵抗を低減しています(図1)」
●図1 白井DCC「サーバ室」周辺構造「空調ファーストの環境建築」による白井DCCは、設備コリドーのスペース自体が空調機の役割を果たし、壁吹出し空調を実現している
※1 PUE:データセンター電力使用効率を示す指標。1.0に近いほど効率が高いと評価される。
※2 白井DCC:2019年にIIJが千葉県白井市に開設した大規模データセンター。敷地面積約40000㎡、6000ラック規模の設備収容が可能。
※3 ASHRAE Technology award 2025:米国暖房冷凍空調学会(ASHRAE)主催による、革新的な環境建築に対する世界最大規模の技術賞。
※4 設備コリドー:大規模建築物において設備配管・配線を集約して通すための専用通路。
設備コリドーが空調機に
整流機構で温度ムラを解消
設備コリドーの給気ファンにより、外気と還気※5を十分に混合することで温度ムラを解消。「ポイントは、高温の還気を取り込む際に気化式加湿器を使って、加湿冷却効果を活用している点です。加湿で給気温度が下がり過ぎないように多段階加湿制御を行っています」(藤崎氏)
サーバ室には同社の壁吹出し方式空調システム「IDC-SFLOW®」を採用。他社との違いは、特許技術の整流機構だ。「一般的な壁吹出し空調は風の流れが一方向のため、風速が均一でなく誘引効果による逆流が生じます。IDC- SFLOW®はサーバ室のコールドアイル(冷気だまりの空間)に、細かい網目のネットを張り巡らせる整流機構で上段、下段に空気の流れを整流し、温度ムラが起きやすいラック吸込み面の温度を均一化できます(図2)」(藤崎氏)
●図2 壁吹出し方式空調システム「IDC-SFLOW®」一般的な壁吹出し空調は、風の流れが一方向のみ。しかしIDC-SFLOW®は、整流機構により温度ムラが起きやすいラック吸込み面の温度を均一化できる
DCの省エネ化では、サーバ、空調機、熱源機も含めた全体消費電力の最小化が求められる。同社では開発したAI活用空調制御システムを導入。サーバ消費電力を計測し、必要な給気風量・温度の制御設定値を自動出力する。これにより運転員の作業負荷を軽減し、理想的な運転条件を短時間で決定できる。
※5 外気:外の空気。還気:サーバ室から戻ってきた空気。
液冷、創エネも研究テーマに
技術継承・次世代育成にも注力
当時施工を担当したカーボンニュートラル推進課課長の松田宏氏は言う。「経験を生かして今後はカーボンニュートラル実現に向け、蓄電だけでなく蓄熱、グリーン水素活用、EMSなど、新たな提案をしていきたいと思います」
2022年7月、白井DCCの最終工事が完了。空調設備のP-PUE(部分電力使用効率)は1.105、PUEは国内トップレベルの1.298を達成した。現在、国内DCの平均PUEは1.7。一般的な国内DCと比較し、設備消費電力約58%削減を図っている。
●図3 高砂熱学工業の温熱環境診断サービスサーモカメラなどを使って現状を可視化。アフターフォローとして、国内外で約140カ所の実績があり、白井DCCでも空調改善、チューニングを継続している
DCは稼働後の省エネに向けたアフターフォローが重要だ。「経年でサーバ負荷が変化(増加)します。白井DCCでも、サーバ間の隙間を埋めるブランクパネルの設置を徹底することで、排熱の回り込みやホットスポットの発生を防止しています。さらに、当社でサーモカメラなどを使った診断を行い、その結果に基づいたデータドリブンな提案を実施(図3)。施工会社、IIJ、IT機器運用者が一体となった空調効率の改善に取り組んでいます」(池田氏)
●図3 高砂熱学工業の温熱環境診断サービスサーモカメラなどを使って現状を可視化。アフターフォローとして、国内外で約140カ所の実績があり、白井DCCでも空調改善、チューニングを継続している
今後AIサーバの高発熱化などに対応するために液冷※6技術が注目を集めている。同社では、高砂熱学イノベーションセンター(茨城県つくばみらい市)内の実験検証室を拠点に、「液冷冷却水を活用したAI空調制御システムの開発」「排熱を活用した創エネ」を重要な研究テーマと位置付ける。現場を模した環境で検証を重ね、得られた成果を適用。取り組みを通じて顧客ごとのニーズ、課題へ柔軟に対応していく。
同社は人財育成と技術継承にも力を注ぐ。「各専門分野で若手とベテランが高度技術チームを編成し課題解決、新規技術開発などに取り組んでいます」(藤崎氏)。高度技術チームの育成メンバーとしてDCCのアフターフォローに取り組む、同部設計3課主任の藤田夏耶氏は話す。
「現場でお客様の話を聞いて竣工後の診断、データ解析により得られたノウハウを、DCの設計にフィードバックしています。ベテラン社員がバックボーンとなり、若手社員が挑戦する機会を与えてもらっています」。現在、そして未来の社会課題解決に向け、次世代環境クリエイター®が動き出した。
※6 液冷:発熱した物体を空気ではなく水や油などの液体を用いて冷却する手法。
要は運用対策にあり 環境革新に挑み続ける▶ 詳細はこちらから






