講評

審査委員講評(敬称略・五十音順)

  • 石崎 徹

    石崎 徹

    専修大学 教授/日本広告学会 会長

     第9回「日経BP Marketing Awards」の審査会に臨んだ。今回の審査も昨年に引き続き、評価の高いものから「グランプリ」「金賞」「銀賞」となった。今回も選りすぐりのエントリー作品ばかりで、純広、Web、タイアップ、多メディア展開など多様な展開方法が取られていた。個々の作品は丹念に作り込まれていて、内容も濃く、高いマーケティング効果を発揮している。一方で、デザイン性、インパクトは純広が強みを発揮し、企画力、理解度となると企画ものの評価が高くなる。どちらを取るか悩みどころであるが、「いいものはいい」というスタンスで審査を行った。

     グランプリに輝いたのは、日経ものづくりに掲載された新東工業の「できる、ロボットへ」の純広である。豆腐を手にして包丁で切るのは、子どもの頃から母や祖母や、もちろん豆腐屋さんがささっとやっていたのを覚えている。よく手を切らないなと感心した。このビジュアルは、人が豆腐を手にして包丁を持ったロボットが的確に豆腐を切っている様を表現している。人間の手による繊細な力加減をまだまだロボットは再現できない中で、同社の6軸力覚センサーが、人間の力を得られることを見事に表現した作品である。さらにはボディコピーで「ロボットを進化させ、人手不足解消へ。」と社会的課題解決もうたっている点も心憎い。純広としての訴求力、クリエイティブ力、社会性を備えたバランスの良い作品と言えよう。

  • 大越 いづみ

    大越 いづみ

    電通グループ取締役

     本審査会は、日経BPが提供する多様なメディアを活用したコミュニケーションを通じて、事業者が抱えるマーケティング課題と解決手法のトレンドを定点観測する機会である。昨年はコロナ禍・経済低迷に直面した企業向けの業務革新や働き方改革提案を行う「大きなテーマ」が目立ったが、今年は顧客に向けたより具体的な課題解決力を訴求する企画が多く、足元のビジネスを着実に成長させる方向にシフトしてきたと言えそうだ。

     グランプリを受賞された新東工業の「できる、ロボットへ」は、ロボットの卓越した性能が「人手不足解消」に貢献することをシンプルかつ明快に表現した作品である。「伝わる広告のチカラ」を感じ、私自身も最も高く評価させていただいた。また、抜群の認知度があるGoogleの「YouTube」は、BtoBソリューションとするためにパーセプションチェンジを目指した純広告であり、共通した「力強さ」があり、秀逸であった。

     キリンホールディングスは、CSV経営の理念のもとで事業の持続的成長を目指す日本の代表的企業であるが、グループでの取り組みをより幅広いステークホルダーに理解していただくために、「キリン流CSV経営学」という連続企画を展開。テーマの抽出と丁寧なストーリーづくりから、酒類メーカーとしての強い使命感と社会的責任意識が伝わってくる。

     昨年から、政治・経済環境はさらに不確実性が高まっているが、それとは対比的に、コロナ禍の3年間で自社の事業戦略の見直し・再策定に一定の目途が立ち、その次のステップとして、自社の絶対的な「強み」と対話すべき「ステークホルダー」が特定されたことがうかがえた。そこでのコミュニケーションの手法は、今回も「純広告型」と「編集企画型」に二分されたが、全体としては企画の多様性が乏しいという印象が残った。メディアの特性を最大に生かし、抜群のインパクトを持った表現や、新たなマーケティング手法へのシフトを加速する企画が現れることを期待したい。

  • 小林 弘人

    小林 弘人

    インフォバーン 代表取締役CVO

     本年度はAIの進化が喧しく、世間を騒がせた。マーケティングにおいても、すでに導入が進み始めているが、いずれ表現の領域においても頭角を現すであろう予兆を孕む。今後は、広告の立ち位置も揺らいでいくであろう。今回、そんな予感に囚われながらの審査となった。

     新東工業の作品は、ウェブとは異なる紙媒体の限られた制約スペースのなかでなにを表現するかという点において、その可能性を再認識するところとなった。商品となる六軸力覚センサーは「触覚」などの感覚を扱い、ロボット産業においては、まさに革新的な技術である。それを表現するために豆腐の切断をモチーフにしたことで、我々日本人の感覚に強く訴え、シンプルながら、この技術ができることをビジュアルのみで説明しきってみせた。この仕事ぶりこそAIがどんなに進化しても、まだ多く及ばないところだろう。アナログな“古き良き”表現にこそ、今後の表現に関するヒントが潜んでいる。

     そして、もう一点。人間対AIの観点からすると、HENNGEの一連のキャンペーンも興味深い。オタク的な蘊蓄を伴って、ウルトラマンに登場する怪獣・星人たちと訴求するサービスの内容が意味的に合致している。サブカルチャーだけを深層学習したAIに、いずれ作れる日が来るかもしれないが、無味乾燥なものになるかもしれない。創造と解読、その両面を愉しむのが人間である。そのためにもデザインはひとつのメッセージであり、送り手のワクワク感がそこはかとなく伝わってくるのが良い。

     最後に個人的に強調しておきたいのは、旭精機工業、そしてデル・テクノロジーズの作品である。社会包摂を広告において表現した前者、そして、読者を巻き込むかたちで多様性を問うた後者。特に後者はほとんど女性しか登場しないクリエイティブで、男性読者がその多くを占める媒体において大きなインパクトを放っただろう。

     評者が昨年より主張していることだが、企業はその広告に登場させるジェンダーの比率についても、もっと意識的であるべきだ。

  • 酒井 光雄

    酒井 光雄

    マーケティングコンサルタント

     B2Bのコミュニケーションは、採否の決定権を持つビジネスパーソンに自社の価値を伝え、いかに需要を生み出すかに知恵を使う。中でもIT企業は主戦場のネット空間はもとより、雑誌の誌面というアナログ空間をも巧みに活用し、効果の最大化を図る。

     金賞を受賞したGoogleはYouTubeがもたらす経済効果を切り口に、日経ビジネスを使ってB2B需要を経営層に訴求する純広告を展開した。アナログ誌面と親和性の高い経営層へのコミュニケーション効果を視野に入れた取組みだ。

     同じく金賞の旭精機工業は、同社が目指す「あらゆる人々が活躍できる製造現場の実現」をコンセプトに、アール・ブリュット(障がい者アート)作家に活躍の場を提供しつつ、同社名をアピールした。広告接触率レポートでも「インパクト」の項目で3位という高評価を得ており、日経ものづくりを通じて同社の存在をアピールしている。

     銀賞のリンナイは、上質なライフスタイルを実現する製品と企業のブランディングを目的に、日経トレンディ・日経xwomanで誌面タイアップを行い、日経ビジネスなどでは純広告、さらにオンラインに転載を図っている。ビジネスリーダーと高所得層への需要拡大とブランディングを巧みに展開した。

     デジタルかアナログかを問わず、メディアの価値は良質なコンテンツと接触する人のクオリティで決まる。ネット社会により入手できる情報量は爆発的に増えたが、良質な情報やコンテンツへのアクセスは逆に難しくなり、ニュースアプリのキュレーションの質は低下しているように見える。

     こうした環境下にあって、日経BPは独自の情報収集網と魅力あるコンテンツの編集能力を活かし、企業の価値を読者に伝える翻訳力を通じてコミュニケーションパワーを発揮している。

  • 瀧川 千智

    瀧川 千智

    博報堂DY メディアパートナーズ 新聞雑誌局

     昨年に続いて審査委員をさせていただき、1年の変化も感じることができた。

     今年の全体的な印象としては、「男性ばかり」というタイアップ施策が減り、女性や障がい者がテーマの作品なども目立ち、ダイバーシティを感じられるようになったこと。

     金賞の旭精機工業の「INCLUSIVE」という純広は、付け焼刃の施策ではなく、会社のパーパスに基づいて障がい者アートを起用した企業広告。「純広」という場が作家の活躍の「場」にもなり、またそのクリエイティブもインパクトやものづくりの楽しさが感じられるとの読者の声もあり、「純広」という広告メディアの使い方に、新しい可能性を感じた。

     また、「DELL Dream Tech Contest 女性起業家が未来をひらく」は、女性起業家支援をテーマにした取り組み。受賞した方々はすでに有名な起業家も多かったが、男性ばかりのイメージの日本の起業家界隈において女性にフォーカスするということを、DELLと日経グループがやることは大きな意味があると思う。これからもっと女性起業家が増えるように、プロジェクトの継続に期待している。

     グランプリである新東工業の、豆腐を切るロボットの純広は、マーケティングという視点では施策規模は小さいが、「日経ものづくり」という媒体だからこそ、「わかってくれる読者」を想定し、インサイトをとらえた表現。この読者を抱えるメディアだからこそできたこと。メディアがもはや「マス」ではなくトライブ化している時代の流れをうまくとらえているのではないだろうか。

     このように、企業パーパスや社会課題をうまくとらえた作品が光る審査会で、時代にあわせて広告会社も変化にあわせて柔軟になっていかないと、と改めて気が引き締まった。

  • 田中 知恵

    田中 知恵

    明治学院大学 教授

     雑誌を媒体とする場合、広告スペースに掲載できる情報は少ない。制約の中で企業は受け手の注意を引きつけ、他の商品・サービス、またそれらによって創出される価値に興味を持たせる必要がある。もし受け手が自発的にその先を検索するような表現が可能なら、1ページの広告が潜在顧客に与えるインパクトは大きい。

     ひとは既存知識に基づいて対象を同定しカテゴリー化しようとする。心理学の感情順応モデルによると、対象の理解や解釈が進めば受け手の感情は弱まり処理が終了する。他方、うまく進まない場合には対象への感情反応と情報探索が継続するという。このプロセスが正しいならば、完結せず、良い意味で“ぬけ感”のある表現を用いることにより、商品やマーケティング活動に対する受け手の肯定的感情と情報処理を持続させられるだろう。

     新東工業のクリエイティブは、巧緻性と力のコントロールが求められる作業として、取り上げたシーンが鮮やかであった。前後の動作に伴う受け手の感覚を呼び起こすことに成功したと思う。紹介された技術のさらなる可能性や他の製品についても、読者の情報探索アクションを誘導したのではないか。旭精機工業は、製品を描いたアート作品を広告に採用することで、そうしたクリエイティブにいたる企業の取り組みに対しても興味を誘発する。どちらも情報処理を持続させる力を持っていた。DWEN Dream Techビジネスコンテストは、他国での開催に続き日本では初ということ。日経BPをパートナーとし、タイアップサイトを活用した仕組みでデル・テクノロジーズの女性起業家支援を印象づけた。いずれも日経BPのメディアをマーケティングの場としてうまく活用したケースである。

  • 裵 英洙

    裵 英洙

    ハイズ 代表取締役/慶應義塾大学 特任教授

     マーケティングは世情の鏡である。

     そう納得した第9回「日経BP Marketing Awards」であった。新型コロナウイルス感染症まん延の閉そく感、世界情勢の不安定化、迫りくる物価上昇の足音等、漠然とした焦燥感と憔悴感が入り交じった時間が過ぎている中で、我々は心の靄を晴らす一服の清涼剤を求めていたのかもしれない。

     今回のグランプリは、0.5秒で観るものを虜にする一撃必殺の「新東工業」の純広告に決まった。豆腐という日本古来の伝統を内包する食の代名詞に、触覚センサーを持つ最新鋭ロボットが切り込むという組み合わせの妙技に嘆息を漏らした読者も多いことだろう。解説を読み込むまでもなく、一瞥だけで、先が見えない時代の絡みつくような閉そく感への鋭い一閃、未来感を醸し出す科学技術への羨望、豆腐というありふれた不可侵たる日常、これらの多重奏を見事に紡いだ作品と言える。また、私としては、じっくりと解説や対談内容を読ませて知的興奮を惹起させる作品も嫌いではないが、コロナ禍で遠隔会議やテキストベースのやり取りが多くなっている環境において、目の酷使から来る身体的・神経的負荷を無意識的に避けている場面も否定できない。その点から本作品から発せられる、情報飽和による負荷過重時代へのアンチなメッセージにも愉悦を覚えてしまう。

     本当に説得力あるマーケティングとは、論理面と感情面のどちらも高いレベルで完成されるものであり、世情を汲み取りつつ概念の変革を試みることこそがクリエイティブの最重要課題なのであろう。

  • 本荘 修二

    本荘 修二

    経営コンサルタント/多摩大学(MBA)客員教授

     世の中は激動の真っ只中で、広告をはじめマーケティングも、ますます意義が問われているのは間違いない。本Awards審査会の第9回は、コロナとの共存モードに入り、ほとんどの審査員が会場に集まり、インスピレーションの湧く議論を交わすことができた。

     今回は、これまでで最もグランプリの選考に時間をかける審査会になった。言い換えると、グランプリと金賞に選ばれる異なる長所を持つ作品について、意見がたたかわされた。それだけ集中して議論することで、全体像が浮き彫りとなり、金賞・銀賞の選考をスムーズに進めることができた。

     新東工業は、純広告のクリエイティブと瞬時に伝える迫力で頭抜けた作品。金賞では、旭精機工業も同様の純広告だが、障がい者アートによるメッセージ性を感じさせてくれた。デルは、女性起業家コンテストがマーケティングのコンテンツとして活かせる一つのフォーマットを示してくれた。

     銀賞では、HENNGEは2019年に上場したSaaSベンチャー企業だが、チャレンジ精神溢れる無類の作品で驚かせてくれた。読ませる作品が多い中で、メッセージの切れ味で突出したキリンホールディングスは、他社も学ぶ点があるのではなかろうか。一方、リンナイは、スマートに見せ伝えるスタイルが高く評価される。

     なお、ボリュームあるコンテンツを読ませる形は読者にとってツライとの声もあったが、マジメに作るだけでは伝わらないと思った方がよいかもしれない。総じて、特筆される点がある他とは違うものが大切だと、あらためて認識する審査会となった。

  • 水島 久光

    水島 久光

    東海大学 教授

     久しぶりに雑誌純広にスポットが当たった審査会だった。グランプリとなった新東工業「できる、ロボットへ」は、まさに広告表現の「ツボ」を突く作品であった。大がかりな施策を用意せずとも、オーディエンスの目を開かせるアイデアがあれば、人の心を動かせる―一点勝負で、評価を確定させていいのかという意見もあったが、逆にその潔さが、審査員の支持を広く集めた。

     旭精機工業(企業のインクルーシブ活動)、Google(YouTubeの経営層への訴求)、HENNGE(セキュリティサービスの多面性訴求)の三社も、クリエイティブのバランス、アイデアやインパクトを支える戦略性が際立っていた。BtoBの純広はパーセプションを掴むことがゴールではない。実際の企業活動に読者を近づけるリードとして機能する必要がある。その点でいずれもよく練られた作品だった。

     しかし、それは逆に編集型の応募作品に際立ったものが少なかったことの表れともいえる。社会全体が生産性を見直し、SDGsの理念を企業活動にどう矛盾なく取り入れていくかに悩む姿が、透けて見えたかたちだ。制約のある誌面ではなく、Webや別刷はもっと自由なはずなのに、冒険が見られない。選に残ったデル・テクノロジーズやキリンホールディングスも、表現よりも取組みの本気度が評価されたかたちだ。

     そんな中で個人的には、リンナイ「Rinnai Relax Project」が優れた事績として心に残った。比較的おとなしめの表現でインパクトに欠けたのかもしれないが、「生活に科学の目を向ける」コンセプトの的確さ、純広とタイアップのコンビネーション、媒体選択の広さ、細部に目が行き届いたレイアウト・構成など、総合的なプロモーションとしての完成度が高かった。今後もこういった取組みに期待する。

PAGE TOP