日経ビジネスオンラインスペシャル

LEADERS INTERVIEW2024.11.15

リーダーが語る「経営と相棒時計」

振り返ってみれば、仕事人生の節目とともにいつも腕時計がある

ポーラ 代表取締役社長 及川 美紀 氏

及川 美紀氏

「この腕時計、実は店頭で見つけた瞬間、一目惚れして衝動買いしたんです」

化粧品大手、ポーラの代表取締役社長を務める及川美紀氏の左腕で、オメガ「デ・ヴィル トレゾア」が端正な顔を覗かせる。ホワイトのダイヤルに、ネイビーの針とローマ数字、サテンのファブリックストラップが映えて美しい。

「特に私にとって、ネイビーは大切な色。そのネイビーと白という、シンプルで潔い配色が好きです。でも、そうした中にもやっぱり少しだけ“キラキラ”感は欲しいんですよね(笑)。ケースの両サイドにダイヤモンドがさりげなく並んでいるのも、上品で気に入っています」

人前に立って話すことが多いため、残り時間を瞬時に把握できる視認性の良さも、及川氏の時計選びのポイントだ。

「あと10分とか20分とか、時間が視覚的に“幅”として見えるアナログ時計が好きなんです。この時計は少し大ぶりで、とにかく時刻が見やすく安心できます」

購入したのは及川氏が取締役として、極めて重要な部門を任された8年ほど前。何か記念になるものを手にしたいと思っていたところ、シンガポール出張中に偶然出合ったのがこの1本だったという。

「オメガはこれで4本目。シンプルで無駄のないデザインが好みに合っています」

金属アレルギーがあるため、デイリーに、というよりは「ここぞ」という重要なビジネスシーンで腕時計を着用することが多い。そんな及川氏のもう1本の愛用品は、1980年代から2000年代までポーラにあった宝飾部門の最高ライン「ラヴィドール」のジュエリーウォッチだ。

左は、オメガの「デ・ヴィル トレゾア」。トレゾアは、フランス語で「宝物」を意味する。取締役として重要な部門を率いることになった記念に、シンガポール出張の際に購入したという。右は、かつてポーラが持っていた宝飾部門の最高ライン、「ラヴィドール」のジュエリーウォッチ。華やかなパーティに参加する際にも、時間をしっかりと確認できる上、アクセサリー使いできる点が重宝するそう。

「当社の創業80周年記念に作った時計なので、18Kホワイトゴールドのケースが八角形をしています。宝飾を含めたファッション関連部門の担当役員になった際、自分で購入しました。パーティなど華やかな場所を訪れる時に使用します」

この時計を手にした2年後、当該事業部は廃止されることになるが、実はそれを決めたのは及川氏自身だった。

「当時、頑張ってくれていた社員や協力会社の方々の存在、宝飾事業が当社にあったという事実を、これを着けるたびに思い出します。今自分で気づきましたが、振り返ってみれば私の仕事人生の節目とともに、いつも腕時計がありますね」

創業95年を迎えたポーラが目指すのは、「美と健康を願う人々および社会の永続的幸福の実現」だ。その企業理念に基づき、近年心身の健康や幸福を重視するウェルビーイング経営に一層注力する。

「社員が精神的に追い詰められていたり、チームが良い状態でなかったりすると、心理的安全性が保たれず、例えばわからないことを教えてほしいと声を上げられないということも起こる。結果、1人1人の成長が遅れます。また上司に言われたことを遂行するだけだと、スキルは上がるかもしれないけれど、能動的な成長にはつながりません。苦手なことを誰かに補ってもらいながら、自分の得意技を伸ばしてチームの成果を上げる。それによって個人も組織も成長していく。今もまだもがいている最中ですが、それが当社の目指すウェルビーイング経営です」

まずは自分の思いを表に出せる社員を増やすことを目標に「WILL(意志)」の表明を促す試みを開始。同じWILLを持つ仲間とつながった結果、社内に多数のワーキンググループが誕生した。例えば、産育休や子育てをしながらも社員の能力を伸ばすために、情報をシェアし合い、ともに考えるプロジェクトなど。そんな中「ポーラの組織風土の基盤を作りたい」という思いから自身で立ち上げたのが「ポーラ幸せ研究所」だ。

「そもそも幸せって何だろうと考えていたら、研究したくなったんです。最初は5、6人でしたが、今では31人の社員が自主的に参加しています。研究成果は定期的に社内で発表し、商品開発やマネジメントなどの分野で活用されています」

全国約2600の販売店舗で働く約2万3000人の「ビューティーディレクター」を調査し、そこから導き出された「幸せなチームを作るために必要なこと」を発表する書籍を昨年発売。今年11月には、定年・再雇用後も幸せに働くことをテーマに、研究成果をまとめた書籍も発売に。

「『WILL』が、着実に形になっていますね。こうした取り組みが社外からも高く評価され、ブランドイメージが向上。新卒採用の応募者数も急伸しています」

美を通して幸せを実現することを使命の1つとする企業のリーダーらしく、ビジネスにおける装いの重要性も熟知する。

「装いには自分のプレゼンスを高める効果もあると思います。自己抑制ができる人なのか、大勢を率いてリーダーシップを発揮できる人なのか。そうした自己イメージを装いで表現することを、特に海外のエグゼクティブなどは重視します。腕時計も、そのための重要なアイテムの1つ。加えて近年、メークも性別差なく楽しむ方が増えてきました。自分を表現し鼓舞するためにも、属性にとらわれずにチャレンジしていただきたい。そうしたことが、究極的にはウェルビーイングにつながると信じています」

写真=吉澤健太、三木匡宏 文=いなもあきこ、中村真紀

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