日経ビジネスオンラインスペシャル

LEADERS INTERVIEW2025.06.27

リーダーが語る「経営と相棒時計」

“独立”という意思が生んだ、次世代のスポーツウォッチ

ノルケイン 副社長 トビアス・カッファー氏

株主に縛られず、情熱で意思決定をする──そんな経営哲学を土台に、ノルケインは次世代スポーツウォッチの開発に挑み続ける。素材開発から顧客との関係まで、そこには“語る理由”がある。

“独立”という経営思想と「My Life, My Way」

ノルケイン 副社長 トビアス・カッファー氏
ノルケイン 副社長 トビアス・カッファー氏

「独立しているということは、私たちにとって何よりの財産です」。そう語るのは、ノルケインの副社長、トビアス・カッファー氏だ。その言葉には、経営理念を実践する者としての矜持がにじんでいる。

ノルケインは、2018年にスイス・ニドーで創業された家族経営の独立系機械式時計ブランド。グループにも属さずに、短期的なリターンに追われることがない。そのことが、ブランドの判断基準を「情熱」や「信念」に置ける最大の根拠になっているという。

「市場に迎合するのではなく、自分たちの信じる時計をつくること。それができるのは、経営判断の自由があるからです。“My Life, My Way”という私たちの哲学は、単なるスローガンではなく、実際に日々の事業判断の拠り所になっています」。

独立性を保ちつつ、革新に挑み続けるその姿勢には、ジャン=クロード・ビバー氏の存在も大きく影響している。ウブロ、タグ・ホイヤー、ゼニスなど名門ブランドの復活を手がけてきた、スイス時計界の超重鎮である。2020年、パンデミック下にビバー氏自らがCEOのベン・カッファーへ連絡を寄せ、「次世代ブランドに自らの経験を還元したい」と申し出た。以後、ノルケインの開発や商品哲学において「若いブランドこそ革新に挑戦すべきだ」と、継続的に刺激を与えている存在だという。

「製品であれ、組織づくりであれ、立ち止まることは許されない。ビバー氏はそういう意味で、常に“挑戦”を突きつけてくる存在です」。

ノルテック®と“語れる構造”を持つスポーツウォッチ

2025年の最新作「ワイルド ワン スケルトン 39㎜」のパープル・アイスブルーモデル。独自素材ノルテック®製の外装ケージとチタンインナーケース、さらにラバー製ショックアブソーバーによる三層構造が、耐衝撃性と快適な装着感を実現している。全4色展開。自動巻き、ノルテック®×ラバーケース、径39㎜。 92万4000円 (問)ノルケイン ジャパン TEL.03-6864-3876

ノルケインの代表作である「ワイルドワン」は、2022年に発表されたフルカーボンケースのスポーツウォッチだ。同モデルの哲学と構造を受け継ぎつつ、ケースサイズを小径化し、鮮烈なカラー展開で進化させたのが、2025年の新作「ワイルドワン スケルトン 39㎜」である。

このプロジェクトの起点には、カッファー氏自身の「究極のハイパフォーマンス・スポーツウォッチを開発したい」という強い意志があった。開発にあたって求めたのは、軽さ、耐久性、柔軟性、審美性という、相反する条件の同時達成。そこで着手したのが、自社独自素材の開発だった。

そうして誕生したのが、カーボン複合素材「ノルテック®」である。軽量で硬く、かつ柔軟性を持たせるという難題に、パートナー企業であるBIWI SA社との2年にわたる共同開発で応えた。また、素材全体に色を浸透させる製法を採用し、色剥がれのない鮮やかな発色を実現。2025年の新作には全4色の多彩なカラーバリエーションがあるが、特に象徴的だった「パープル・アイスブルー」と名付けられたモデルは本誌時計特集でも取り上げた。

「素材を“語れるもの”にすることで、時計というプロダクトにブランドの思想を込めることができる。開発にはコストも時間もかかりましたが、ブランドにとってはむしろその“投資”自体が価値のある判断でした」。

25のパーツで構成されたケース構造が、新作「ワイルドワン スケルトン 39㎜」の革新性を物語る。
25のパーツで構成されたケース構造が、新作「ワイルドワン スケルトン 39㎜」の革新性を物語る。

さらに「ワイルドワン」は、1本のケースを25個のパーツで構成するという、業界でも異例の構造を持つ。サイズダウンした39㎜モデルのリリースにあたっても、すべてを最適化し直す必要があり、決して簡単な決断ではなかったという。

「プロダクトの完成度を優先するためには、構造の再設計にも、素材開発と同じくらいの覚悟が必要でした。効率ではなく、価値で判断する。それが私たちの選び方です」。

顧客と描く未来──“語る理由”があるブランドとして

ノルケインの活動には、製品を届ける先の“顧客”との関係も重視されている。

「ノルケインをきっかけにスポーツを始めた方や、人生を変える挑戦に踏み出したという声を聞くことがあります。時計が人の行動を変えられるのだと実感しています」。

こうした関係性を体現する例が、同ブランドのアンバサダー戦略にも表れている。元サッカーイタリア代表GKジャンルイジ・ブッフォンや、元イングランド代表DFガリー・ネヴィルらは、単なる広告契約ではなく、ノルケインの現地法人に出資し、経営に参画する立場にある。「“顔”だけでなく“声”を持ち、意思決定に関わる関係性を築きたい」。その言葉どおり、ガリー・ネヴィル氏は現在、ノルケインUKの取締役を務めている。

元サッカー界の名手、ブッフォン(写真左)とネヴィル(写真右)も“語れる時計”の哲学に共鳴。
元サッカー界の名手、ブッフォン(写真左)とネヴィル(写真右)も“語れる時計”の哲学に共鳴。

2025年初頭には、ブランドの中長期ビジョンを共有する全社合宿を実施。全社員が部門ごとに「2028年に向けた目標と進化」を発表し合ったという。「どこへ向かうか」という指針を全員で定め、そのうえで「どう行くか」は変化に柔軟に対応する。そうしたチームの思想と行動様式が、ブランドの成長を支えている。

「私たちが語り続ける理由は、プロダクトが“語れる存在”であるためです。ただのモノではなく、信念や価値観を託せるもの。だからこそ、手に取ってくださった方にとっても、その時計が“人生の相棒”になると信じています」。

文・編集=安部 毅

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