日経ビジネスオンラインスペシャル

INTERVIEW2021.03.19

ANOTHER FACE ― 腕元に光るもう一つの顔

時計も映画も周りの意見には耳を貸さず、直感だけを頼りに選ぶ

俳優竹中 直人 さん

竹中 直人さん

俳優としての実力は広く知られるところだが、映画監督としてのキャリアも長い。高校時代から自主制作映画を撮り始め、初めての劇場公開作品が公開されたのは1991年、34歳の時だった。それから30年の節目となる今春、竹中直人さんが、山田孝之さん、齊藤 工さんの2人と共同監督を務めた最新映画作『ゾッキ』が公開される。

監督業といえば、大勢のキャストやスタッフを束ね、全体を引っ張っていくリーダーシップも問われる仕事。難しさはないかと訊ねると、幸せそうな笑みを浮かべて言った。

「難しさはまったくないです。監督は、脚本作り、ロケハン、キャスティング、美術、衣装をすべて決定して、最初から最後まで現場にいられる。こんな贅沢な仕事はないですね」

監督としては、実に8年ぶりとなる作品。その間、何本か自分で企画を出したが、資金が集まらなかったりタイミングが合わなかったりして、結局どれも形にならなかった。内心、「今後はもう撮れないんじゃないか」と諦めの気持ちも生まれかけていたそうだ。

だが2018年4月、東京・シアタークリエで上演された舞台『火星の二人』に出演中、運命の出合いが訪れる。ある日、いつものように共演者である前野朋哉さんの楽屋を訪ねると――。

「彼の楽屋の冷蔵庫の上に、大橋裕之さんの漫画『ゾッキA』『ゾッキB』が置いてあったんです。『何、これ?ちょっと貸して!』と、自分の楽屋に戻ってその本のページをめくっていくと……大橋さんの描く世界にどんどん引きずりこまれ、『絶対に映画にしたい』と思ったんです」

フランク・ミュラー「ロングアイランド」
フランク・ミュラー「ロングアイランド」。もともと付属していた文字盤と同系色のベルトは、4年間愛用するうちにボロボロに。取材の撮影では時計に合わせ、ヴィヴィアン・ウエストウッドの衣裳を自ら選んだ。

『ゾッキA』『ゾッキB』は、気鋭の漫画家、大橋さんの初期作品集。そこから数々のエピソードを取り出し、「秘密と嘘」をキーワードに、どこにでもありそうだけれど、ちょっと不思議な日常を描く1本の物語を練り上げた。

作品自体が短編なので、1人で監督するのはつまらない。誰かを呼んで、複数の監督によるオムニバス作品にできないかと考えた。そこでまず浮かんだのが齊藤 工さんだった。共演も多く、プライベートでも仲の良い友人の1人だ。

「あともう1人、誰かいないか……と考えた時、直感的に山田孝之の顔が浮かんだ。山田くんと工の並びは完璧だと思いました。そして『映画の企画があるんだ』とお2人に声をかけて、3人で会ったんです」

7年の間、あらゆる企画を出しては潰れ、諦めかけていた『夢』が、嘘のように動き出したと回想する。そして完成した作品はオムニバスではなく、一本の繋がったストーリーになった。

「大橋さんの作品を2人ともとても気に入ってくれて『これを形にするんだ』という気持ちや価値観がみんな同じだった。だから3人で刺激し合いながらも互いに余計な口を挟まず、進められたんだと思います」

竹中 直人さん

圧倒的な存在感を放つ竹中さんに負けず劣らず、その左腕で個性を主張するのは、フランク・ミュラー「ロングアイランド」。美術大学在籍時はグラフィックデザインを専攻していたというだけあって、以前からフランク・ミュラーのインデックスの美しさに惹かれ、「あの文字を腕に置いておきたい」と思っていたそうだ。

「店頭でこのゴールドの文字盤を見た瞬間、『なんてきれいな色だろう』と心惹かれ、すぐに決めました。ズシッとくる重さもたまらない。出かける時は、基本的にこの時計をつけています。最初に付属していたベルトはボロボロになっちゃったのでこの黄色のものに替えたんですが、もともとは文字盤に近い色でした。色合いのバランスがとても良かったんです。溶け込むような感じで」

購入したのは4年ほど前、ちょうど60歳になるタイミングだった。齢をとったことで無理がきかないことも増え、体の様々な部分にガタがきていると感じることもあった。同級生の中には、すでに亡くなってしまった人も多い。将来に対して、漠然とした不安を感じていた頃だった。

「だから、『よし、60歳を生きるためのエネルギーとして、思い切って買っちゃえ!』って。時計は、僕にとっては鎧というか、お守りみたいな感じです。弱い自分を支えてくれる、常にエネルギーを与えてくれる存在ですね。秒針が静かに動いて時を刻んでくれているのも、とてもロマンチックだと思います」

竹中 直人さん
中に着たジャケット 17万円、上に着たジャケット 11万5000円、パンツ8万3000円 /以上すべてVivienne Westwood(Vivienne Westwood information TEL03-5791-0058)

振り返れば、監督デビュー作となった『無能の人』を作り上げた時も、記念としてカルティエの「パシャ」を買った。その3年後、2作目の『119』、さらに3年後に第3作目『東京日和』が完成した際には、やはりそれぞれカルティエを手にしたという。それらの時計は、監督した映画の記念として、今も自分の机の上に飾ってある。

「時計を選ぶのは、いつも直感です。でも、『直感』がなくなっちゃったら、つまらないですよね。『いいね』数が多いとか、有名人が『良い』と言っているからとか、情報に振り回されて生きるなんてなんだか切ないです。映画作りでも、それは同じ。自分の『直感』に集まってくれた人たちを信じて生きたいです。誰もが知っているものではなく、まだ誰も知らないもの、その面白さにまだ誰も気づいていないものを自分の目で探したい。それは昔から変わらないし、きっとこれからも変わらないな……。あっ、フランク・ミュラーは大メジャーですが!」

たけなか・なおと
1956年生まれ、横浜市出身。83年にコメディアンとしてデビュー後、俳優として映画、ドラマ、舞台で活躍する。映画『Shall we ダンス?』(96年)で、日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞。91年、主演も務めた監督第1作『無能の人』が、ヴェネチア国際映画祭で国際批評家連盟賞などを受賞。主な監督作は、『東京日和』(97年)、『連弾』(2001年)、『サヨナラ COLOR』(05年)、『山形スクリーム』(09年)など。本作は監督として長編8作目となる。

ゾッキ

ゾッキ

©2020「ゾッキ」製作委員会

監督/竹中直人、山田孝之、齊藤 工
脚本/倉持 裕
原作/大橋裕之『ゾッキA』『ゾッキB』(カンゼン刊)
出演/吉岡里帆 鈴木 福 森 優作 九条ジョー(コウテイ) 竹原ピストル 松井玲奈/石坂浩二(特別出演)/松田龍平/國村 隼 他

*4月2日から全国で上映予定。3月20日から愛知県蒲郡市で先行、3月26日より愛知県で先行公開

文=いなもあきこ 写真=阿部 了 スタイリング=伊島れいか ヘアメイク=和田しづか

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