名人の栽培技術をICTとデータで実現

「農業に休日を!」を目標に省力化に挑むITベンチャー

アプリが助ける農業技術の継承

 さらに、栽培ノウハウの獲得や継承にも力を発揮する。

 というのも、ゼロアグリクラウドに入っているアルゴリズムには農学のプロの養液供給技術が計算式となって組み込まれているからだ。佐々木氏が「ゼロアグリのカギを握るところ」と語るこの計算式は、明治大学農学部黒川農場の小沢聖特任教授監修のもと、実際に黒川農場で検証しながら産学連携で作り上げた。ゼロアグリは、この計算式に基づいて各種センサーからの計測値や作物の状況を総合的に判断して、養液の供給量を決めている。つまり、水やりと施肥に関しては、プロの技が凝縮されていると言っていい。

 裏を返せば、新規就農したばかりの生産者でも、ゼロアグリを使えば、最も頭を悩ます水やりと施肥の技が丸ごと手に入るわけだ。経験の浅い就農者にとっては頼りになるツールとなる。

 佐々木氏は、熟練の生産者が自分の栽培技術を後継者に伝えるために、ゼロアグリが力を発揮すると考えている。ゼロアグリのプログラムに自分の補正を加えていけば、独自の生産技術ができるからだ。技術の継承をする際には、栽培方針をこと細かに文書化したり言葉で伝えたりする必要がない。ノウハウを積み上げたゼロアグリをそのまま使ってもらうだけでいい。そこに補足的な言葉や文書がニュアンスとして加われば、継承はずっと楽になる。

 「親子で別々の作物を生産される農家の方の例で、熟練の生産者であるお父さんが自分の技術をこのゼロアグリに蓄えて、いずれ息子さんにそのまま渡すことを考えている方がいます。農業の現場では、親子の間で考え方が違ったりすることも多く、技術の継承は意外に難しいものです。ゼロアグリを経由させることでスムーズに進みます」と佐々木氏は笑う。

 さらに言えば、地域の名人のノウハウがゼロアグリを通じてクラウド上のゼロアグリクラウドに積み上がり、それが地域の生産者の間で共有できるようになれば、地域の特産品などで品質を上げつつ、均一性も保てる。特産品のブランド形成を考える際に、地域の生産者間で品質を保つのは極めて重要な条件だ。ゼロアグリが栽培ノウハウの標準化と、結果としての品質の均一化に一役買う可能性がある。

12県70拠点に広がる

 こうしたメリットを見込んで、ゼロアグリを導入する例は全国にじわじわと広がっている。導入事例は12県にわたり70拠点となった。セットの累計導入数は今年度に入り急激に伸びた。「100を超える見込み」(佐々木氏)だ。

全国に広がりつつあるゼロアグリ(資料提供:ルートレック・ネットワークス)
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 熟練の栽培技術を持つ達人が、ゼロアグリを使って自らの技術を改善。さらに品質と生産性の向上に役立てるケースも出てきている。

 実際に、全国的に有名な高品質いちごの生産者が、自分の技術で生産したいちごとゼロアグリを使って生産したいちごを比べ、糖度を同等に保ちながら全体の収量を上げるのに成功した事例もある。佐々木氏によれば、この生産者は、後に、ゼロアグリの養液供給のノウハウを、自分の生産技術の中に取り入れたという。名人が自分のノウハウに加えたわけだ。ある意味、PDCAサイクルを回しながら、自らの栽培技術を改善していくためにゼロアグリを活用することもできる。

導入費用は一式で約300万円

 気になる導入費用は、工事一式を含めて300万円ほど。クラウドの利用料として月1万円かかる。

 ある程度以上の規模を持つ生産者でないとなかなか手は出せない価格だ。また、実際に導入してみてうまくいかなければ、生産者の受ける打撃は大きい。こうしたリスクを抑えるために、ルートレックでは、スモールスタートできるような仕組みを取っている。「ゼロアグリは、導入後、ハウス6棟まで順次拡大して利用できる。1つのハウスやハウス内の一画から小さく始めて、自分で効果を確認しながら利用を広げていけるので導入時のリスクを抑えられる」(佐々木氏)という。

 価格面については、今後さらに普及が進めば下がってくるだろう。佐々木氏も、国内の協力者と共にコストダウンを目指す考えだ。例えば、現在使っているセンサー類は海外製で1機15万円ほどする。今後、国内メーカーと協同で開発すれば、大幅なコストダウンが図れるとみている。

品質を保ちながら、収量が上がった事例も(提供:ルートレック・ネットワークス)
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ビッグデータと結び付けば生産革命にも

 将来的には、「JAの選果場で蓄積されている収量や糖度などのデータと、ゼロアグリとのデータ連係が図れれば、日本の農業そのものが大きく変わる可能性がある」と佐々木氏は夢を語る。気象条件やハウス内の条件、養液供給の仕方などを、作物の品質・収量に紐付けられれば、より精度の高い条件がクラウド上のサーバーに蓄積される。これをビッグデータとして解析できれば、作物ごとに、誰もが狙いどおりの品質と収量を実現することも、あながち夢物語ではなくなる。ある種の農業生産革命と言っても過言ではない。

 ゼロアグリは、今のところハウス内の点滴栽培という、ごく一部の農法で注目を集める小さな変化かもしれない。しかし、小さな一滴が一部の生産者に広がり、それが地域へ、そして日本中へと伝播すれば、将来の日本の農業は大きく様変わりするかもしれない。