2020.06.05
文=中城邦⼦
2月27日に小中高校の臨時休校要請が出た時点で、コロナウイルスによる影響がこれほど大きく長期的なものになるとは、多くの人が予想していなかっただろう。さまざまな需要が落ち込み打撃を受ける中で、神奈川県横浜市のキノコ農家、永島農園もコロナ禍が直撃。主要な取引先である外食産業向けの出荷は、例年の9割減まで落ち込んでいた。
シイタケを収穫しても出荷先がない。干しシイタケにしても、乾燥能力以上にとれてしまう。そんな状況に活力を与えてくれたのが、自宅でできるシイタケの菌床栽培セット。その名も「おウチでシイタケ育てよう!」だ。SNSなどで話題となり瞬く間に大ヒット。「多いときには1日に500カ所に発送しました」と永島太一郎さん・陽子さん夫妻。
きっかけは、子どもたちの会話だった。永島さん夫妻には、小学4年生から2歳まで4人の男の子がいる。2カ月に及ぶ休校で、家で時間を持て余している子どもたちが興味を持つかもしれないと、農園からシイタケの菌床を持って帰ったのだ。
すると、見慣れているはずのシイタケに子どもたちが大興奮。小さいころはシイタケが大好きだったが、最近は食傷気味になっている長男まで、「昨日よりこんなに大きくなっている」「こっちにも出てきた!」と毎日、成長ぶりにきょうだいが盛り上がっていた。
実際、コロナウイルスの感染が拡大、休校や在宅勤務が広がった3月から4月にかけての時期は気温と湿度がシイタケ栽培に最も適した時期。4月頃は朝と夜で大きさの違いが見てわかるほど、育ちがいい。
「毎日シイタケを見て、見慣れているはずのうちの子どもたちがこんなに喜ぶなら、初めて見る子は喜ぶんじゃない? 子どもの体験学習としてもいいよね」という陽子さんのひと言がヒントになった。
もともと2015年から、一般消費者向けに家庭で育てる菌床シイタケの栽培セットを販売していた。とはいえ、当時は知り合いとその知り合いくらいに口コミで販売していた程度。販売数はごくわずか。積極的にアピールしたり、商品の情報を発信したりするということもなかった。
「どこにも出かけられないこの時期に、ちょっとしたワクワクが届けられる。育つのを見て、採れたてを味わって貰えばキノコ好きだって増えるかもしれない」と、すぐに永島さんたちは実行に移した。
菌床のサイズは幅20cm×奥行12cm×高さ14cmほど。春先はシイタケにとって気温・湿度ともに好環境なので、ときどき霧吹きなどで水をかけるだけでよく、肥料や農薬は一切不要でニョキニョキと育つ。価格は税込み1100円(ケース入り2800円)
今回は永島農園のオンラインショップで販売を開始し、SNSで告知。農園入口の看板にも掲載、電話での受付もスタートした。すると、閉じこもりの日々の中で、目に見えて成長する、自然観察ができる、収穫を楽しめるなど、さまざまな点が心を掴んだのだろう。またたく間に話題になり、メディアにも取り上げられると、注文が殺到した。
「急激な変化で毎日がジェットコースターに乗っているかのような2週間でした」と太一郎さんは当時を振り返る。当初は、オンラインショップで使ってきたゆうパックの伝票に手書きして発送していたが対応しきれなくなり、新たに宅配会社と契約するところから始めて宛先をエクセル入力に変更。段ボールが足りない、出力するためのインクが足りないという日々をやりくりした。ネット注文ができない人には電話対応しながら代わりに必要事項を入力、質問に答え続けた。