基幹産業を支えるため、
「やらない」という選択肢はない
国内のものづくりにおける生産管理のコンピュータ制御は、1960年代の鉄鋼業が始まりとされる。製鉄所には24時間365日稼働する高炉や鋼材加工設備などが多数あり、その多くは止めることが許されない。しかし、長年の運用を経てシステムが老朽化する中で、的確な制御と運用をどう維持していくかが大きな課題となっている。
システムを知る社員は定年退職し、技術継承が難しい。システムのブラックボックス化も進み、障害対応や機能追加も思うようにいかない。メインフレームの提供・サポート終了に踏み切るメーカーも相次いでおり、いつまでもレガシーなIT資産にしがみついているわけにはいかない。
また、ビジネスを加速する上では現在の社会の要請にも応える必要がある。一例が脱炭素化の潮流だ。製造時のCO2排出量を抑制した低CO2鋼材へのニーズが高まる中、鉄鋼業界には製造プロセスの変革が求められている。「我々が担っている製鉄は日本の基幹産業の1つです。これを支えるシステムに刷新が必要ならば、『やらない』という選択肢はありません。システム刷新により、膨大なデータや先端テクノロジーを機動的に活用し、競争力向上につなげられるようにすることが不可欠でした」とJFEスチールの西 圭一郎氏は話す。
巨大かつミッションクリティカルな同社の基幹系システムの中でも、“最難関”だったのが西日本製鉄所(倉敷地区)の基幹系システムだ。サポート終了を打ち出した国産メインフレームとCOBOLで構築した5000万ステップを超える大規模システムである。
これを自社リソースだけでモダナイゼーションすることは不可能に近い。そこで、パートナーに選定したのがアクセンチュアだ。「モダナイゼーションを推進する独自のフレームワークや大規模プロジェクトの完遂実績、レガシーとオープン両方の技術に精通したケイパビリティや多彩なツール群などを評価しました」と西氏は言う。
MAJALISの自動変換で工期を短縮
予定を2年も前倒し
準備段階で、西氏は様々な失敗事例を収集・調査した。失敗の原因を分析し、同じ轍を踏まないためだ。そこで見えた原因は2つ。1つは、失敗企業の多くがベンダーに作業を丸投げしていたこと。もう1つは、業務に詳しくない人間だけで推進していたことだった。「これを踏まえて当社では、自分たち業務出身の人間が主導権と責任をもって取り組むことを肝に銘じました」と西氏は述べる。
アクセンチュア株式会社
テクノロジー コンサルティング本部
レガシーモダナイゼーション・
オプティマイゼーション日本統括
マネジング・ディレクター
西尾 友善氏
なお、アクセンチュアにとっても、この規模のプロジェクトは前例のないものだったという。調査・分析、全体スケジュールや支援体制の構築などを慎重に行い、JFEスチールとともに全体方針を策定した。
「基盤はしっかりとつくり、メインフレームはオープン化します。ただし、システムの各機能は現行で問題ないと判断し、COBOLで構築された既存システムを基にJavaにリライトすることにしました」とアクセンチュアの西尾 友善氏は説明する。
リライトにはアクセンチュアのソースコード自動変換ツール「MAJALIS」を採用。MAJALISは、COBOL/JCLなどのレガシー言語をほぼ100%の変換率でJavaやPythonに変換するほか、資産棚卸/分析、テスト自動化、データ移行などの多彩なツールや実行環境も備えている。「直近5年で20以上の国内企業に採用されている実績のあるツールです。これにより、ソースコード変換から現新比較テストまでを完全自動化できると考えました」と西尾氏は語る。
アクセンチュア株式会社
テクノロジー コンサルティング本部
インテリジェントソフトウェア
エンジニアリングサービスグループ
マネジャー
松枝 幹大氏
JFEスチール 西日本製鉄所(倉敷地区)の基幹システム刷新プロジェクトは2020年10月よりスタートした(図1)。まず行ったのが、形鋼(断面が一定の形をしている鋼材)の生産にかかわるシステムの刷新だ。「ここをスムーズに進められたことが自信につながりました」とアクセンチュアの松枝 幹大氏は振り返る。その後、薄板、電磁鋼板、製鋼、棒線などにかかわるシステムの刷新を順次実施していった。
「昨今はプログラムコードの変換に生成AIを使う動きも出始めていますが、あえて使わなかったこともスムーズにいった要因と考えています。実際、生成AIで8割以上を変換できたとしても、今回の規模の場合、1000万ステップ近くが残る計算になります。精度や効果をしっかり見比べて手段を選ぶことが肝心です」と西尾氏は付け加える。結果、プロジェクトは予定より大幅に前倒しで進行し、2025年2月に完了した。
モダナイズ以外、
欲張らなかったことも成功の要因
また両社は、ほかにもいくつかの成功要因があると分析している。1つは「欲張らなかったこと」。目的を脱メインフレームに特化し、改修や新たな機能追加は行わなかった。「欲張りすぎて『解けない方程式』になるケースは多くあります。目的を明確化し、首尾一貫して目的の達成にフォーカスしたことが成功につながったと考えています」と西氏は言う。
パートナーとユーザー企業が密にコミュニケーションを行い、一体となって活動したこともポイントだ。「コロナ禍で対面する機会を持つことが難しい時期もありましたが、JFEスチール・JFEシステムズ・アクセンチュアの、いずれも特に若い社員の活躍や、各社の社員同士のスムーズかつ活発なコミュニケーションもプロジェクトの成功につながった要因です」(松枝氏)。
脱メインフレームの手法としてCOBOL to COBOLを選択する企業は少なくない。既存資産の継承や移行を安全に進められるというイメージが強いからだ。しかし、COBOLエンジニアは今後減少し、技術継承や新しいテクノロジーの活用がますます難しくなる。「我々はMAJALISをベースとした手法と人材の力で、安全かつ効率的なJavaリライトを実現します。この強みに加え、お客様のビジネスと目指す姿を深く理解し、成功に向けて伴走支援します」と西尾氏は語る(図2)。
図2 西尾氏が生成AIで作成したプロジェクトのイメージ
「JAVA隊は急峻な山を登り切り、頂上に旗を打ち立てた。一方のCOBOL隊は途中で力尽きた」。レガシーモダナイゼーションに挑む多くの企業に示唆を与えてくれるイメージだ
また西氏は「約5000万ステップのメインフレームのオープン化をわずか4年5カ月で完了できた。望外の大成功です」と満足感を示す。プロジェクトを通じて得た知見やノウハウは、求めに応じて積極的に外部に公開していくという。
脱メインフレームによって、時代に即したビジネス基盤を構築したJFEスチール。アクセンチュアとの歩みに引き続き注目だ。



