AIで大きく変化する
モダナイゼーションの常識
いかに老朽化したレガシー環境から脱却するか。これは多くの企業にとって重要な課題だ。しかし、膨大なコストを投じてまで「今」、本当にやるべきなのだろうか。
「様々なテクノロジーの進化によって、この数年の間にモダナイゼーションの常識が大きく変わってしまう可能性があります。にも関わらず、高いリスクを負ってまで、今の方法やソリューションでモダナイズすることが最適解なのでしょうか。この点を多角的な観点からよく吟味する必要があります」とアイディーエスの柴田 達真氏は指摘した上で、3つの観点を提示する。
1つ目は「外部環境」の観点だ。例えば、メインフレームの保守切れに対しては早急な対応が必要だ。これをやっておかないと、最悪の場合ビジネスが止まってしまいかねないからだ。しかしその一方で、市場競争力の維持という点では、必ずしも「モダナイゼーションが必須」とまでは言い難い。「他社がモダナイゼーションを行うことで、自社の市場競争力は本当に削がれてしまうのか。きちんと考えてみるべきではないでしょうか」と柴田氏は説く。
2つ目が「自社経営」の観点だ。ここでは投資効率の低さが大きなハードルとなる。基幹システムのモダナイゼーションには相当な費用がかかるが、その後のビジネスモデルが今と変わらないのなら、得られるものは何もないからだ。ただし、COBOL人材の確保は今後さらに難しくなるし、業務継承をどうするかという課題もある。「この人材の問題については、どの企業もしっかりと考えておく必要があります」と柴田氏は語る。
3つ目が「IT」の観点だ。ここでは今後のAIの進化が重要なカギとなる。「AIは現時点でも相当な生産性向上を成し遂げており、この先5~10年スパンで考えたときには、脱COBOLを実現してしまっているかもしれません」と柴田氏は話す。モダナイゼーションに失敗するプロジェクトも多い中、今までの手法で多大な労力とコストをかけてモダナイゼーションを行うことが正解なのか――。確かに疑問がわいてくるところだ。
グローバル人材活用で
エンジニア不足の課題を解決
とはいえ、こうした状況下においても、「今やっておくべきこと」は存在する。それは「ハードウエアメーカーによる保守期限への対応」と「業務ノウハウの社内継承」の2点だ。
現行のプログラム資産をCOBOL to COBOLでオープンCOBOL化しておけば、ハードウエアの終息にまつわる問題を解消できる。インフラ保守の継続性をきちんと確保するという点では、クラウドへのリフト/シフトも有効だ。また、業務知識のドキュメント化やAIを活用したナレッジデータベース構築、継続的な社内教育体制の整備などの取り組みを行っておけば、業務を知る人がいなくなった後も、ノウハウを継承し続けることが可能になる。
「近未来にAIによる圧倒的な生産性向上が見込める中で、今すぐマイグレーションを行う必要性は高くありません。それよりも、今後必要となる『業務継承を担い、かつAIを使いこなす人材の確保』にこそ手を打っておくことが肝心です」と柴田氏は強調する。例えば、仕様書へのリバースや変更影響範囲の調査、コーディング規約の適用チェック、テストデータ/テストケースの生成などの作業は、今のAIでも十分カバーできる。しかし、これで安心するのは早計だ。
「仕様書へのリバースやプロンプトからのコーディングなどを行うためには、業務への理解力やプロンプト設計の能力が必要になります。従って業務継承の担い手となる人材は、こうしたAIを使いこなす能力も持っておく必要があります」(柴田氏)
しかし、ここで課題となるのが深刻な人材不足だ。COBOLエンジニアは高齢化が進んでおり、今からAIの担い手になってもらうのは難しい。かといって、新規エンジニアの採用も簡単ではないのが実情だ。特に若手エンジニアはキャリアアップ志向が強く、COBOLにアサインすると転職してしまうことも少なくない。
こうした中、業界内で注目される1つの動きがあった。国内大手SIerのSCSKとベトナムのFPTグループが、COBOL専業の「COBOL PARK」を共同で設立すると発表したのである。ここでは高度な業務知見を有するSCSKのベテラン人材とFPTの若手人材を集約し、ナレッジの継承とレガシーシステムの革新を支援していく。つまりグローバル人材の活用によって、現状の課題解決を図ろうとしているのである。
もちろん、ベトナムをはじめとするグローバル人材の活用においては、コミュニケーションの障壁や品質のばらつき、プロジェクト管理の難しさなど、様々な課題もある。加えて、オフショアでのCOBOL開発についても、若手エンジニアの離職やCOBOL経験不足、業務理解不足といったCOBOL特有の課題もある。
しかし、ベテランのCOBOLエンジニアがまだしばらくは現役である今のタイミングであれば、若手グローバル人材に対する業務知識教育を行うことができる。また、オフショア開発会社単体では難しい部分についても、日本のSIerが補完することで然るべき体制を組むことができる。さらに業務知識のRAG(検索拡張生成)化やプログラム資産のAIナレッジ化などを進めれば、AIを最大限に活用した業務伝承の仕組みづくりも可能になる(図1)。
図1 グローバル人材を有効に活用
経験豊富なシニアエンジニアが現役である今ならば、業務伝承はまだ間に合う。AIを活用できるグローバル人材を活用し、モダンな技術も使いながら戦力を高めることが現時点での最適解となる
「エンジニア不足を国内だけで解決するのは非常に困難です。AIの技術進化が著しい今こそ、これまで難しかったグローバル人材活用を積極的に検討すべきです。シニア+若手+AIで経験とノウハウを維持・蓄積し、将来のCOBOL開発・保守体制の維持と変革に備えることが、現時点での最適解と考えます」と柴田氏は強調する。
COBOLシステムを延命させつつ
将来の変革に備える
アイディーエスでも、ベトナムを舞台とするオフショアCOBOL開発・保全サービスを提供。「当社では、継続性のある体制を構築するとともに、AIを活用したモダンな方法論をベースに、基幹システムのサステナビリティ向上に貢献します」と柴田氏は話す。
まず人材面では、日本語対応が可能なCOBOL経験人材をベトナム国内で集約。加えて、現地の大学と提携して情報系学生へのCOBOL教育を行うことで、永続的に優秀なCOBOL若手人材を採用できるスキームを構築した。また、同社では日本国内とのシニア人材会社とも連携し、各業務領域に精通したベテランエンジニアを確保することで、初期に必要なエンジニアへの業務教育にも対応が可能だ。
さらに体制面では、柔軟な体制とオフショア管理・教育ナレッジを提供。「ベトナムだけで教育を完結させるのは難しいので、まずは橋渡し役となるブリッジエンジニアを日本に常駐させてノウハウを習得してもらいます。現地では、ベトナムローカル企業との合弁による機微な人材マネジメントのほか、全エンジニアへの日本語基礎教育や業務知識教育も実施。現実的に動ける人的資産づくりを進めています」と柴田氏。AI活用も積極的に推進し、各種AIツールを用いた開発環境で高い生産性と品質を担保していく(図2)。
図2 アイディーエスのCOBOLオフショア開発・保全サービスの概要
アイディーエスでは、ベトナムの開発会社や大学と提携し、若手COBOL人材の確保から教育、開発品質・生産性の担保までトータルにカバーするサービスを提供。基幹システムの持続的な活用を支援する
こうした同社のサービスを利用することで、COBOL延命を図りつつ将来に備えるという新たな選択肢が見えてくる。同社では、ベトナム現地への合同/個別視察会も実施している。関心がある企業は一度問い合わせてみるとよいだろう。



