古い仕組みをなくすことが
ITモダナイゼーションではない
2024年にIBM Institute for Business Valueが行った調査(※1)では、約60%の組織が企業戦略としての生成AIへのアプローチを持てていないことが明らかになった。表面的な導入は進んでいるものの、多くの組織が断片化したテクノロジーやツールの活用にとどまっており、本質的なITモダナイゼーションを進められていない状況だという。
「既存システムの維持に多くのリソースが割かれており、モダナイゼーションのリソース確保が難しくなっています。また、実際に新システムへ移行しようとした際、移行方法や計画に無理があることが発覚して計画の後ろ倒しや保守切れが発生するケースも多いようです」と日本IBMの小野 奈海氏は指摘する。
この状況において大事なのは、ITモダナイゼーションの本質をあらためて見直すことだ。同社によれば、重要なのは「既存データの新たな仕組みでの活用」だという。
「現在も、重要なビジネスデータの多くがメインフレームなどのレガシーシステムの中に存在しています。つまり、必要なのは古い仕組みをなくすことではなく、そこで現在も使われ続けているデータを、いかにして新しい仕組みで使えるようにするかということです。これこそがITモダナイゼーションを成功させるための重要な視点といえるでしょう」と小野氏は強調する。
多様なインテグレーション手法を
統合的に扱える基盤を提供
そこでカギを握るのは、過去の資産と未来の可能性を橋渡しするインテグレーションだ。考え方自体は新しいものではないが、現在はそのための新たな手法が多数登場している。
「ただし、多様なインテグレーション手法を個別に利用していってしまうとまた別の問題が生じます」と小野氏は付け加える。メインフレーム上のアプリケーション連携はEAI、オープン系システムではSOAやESB、SaaSやパブリッククラウドではAPI連携と、個別最適で手法を選択することで、連携可能な領域がそれぞれに閉じてしまう。結果、組織内のデータと最新サービスを連携させにくい状態が残ってしまうという。
そこでIBMは、この問題を解決する仕組みを提供している。それが「IBM Hybrid iPaaS(※2)」だ。多様なインテグレーション手法を1つのプラットフォームに統合することで統一したアプローチを提供する。インテグレーションの複雑さを軽減し、迅速なモダナイゼーション、ツール/ベンダーの乱立の抑制、デリバリー期間の短縮、運用効率向上などのメリットをもたらすものだ(図1)。
図1 IBM Hybrid iPaaSによるITモダナイゼーションのイメージ
多様なインテグレーション方法を1つのプラットフォームに統合することで、開発・運用の効率化、ガバナンス強化を図りつつITモダナイゼーションを加速できる
「オンプレミス上のメインフレームや、オープンフレームのシステム、複数のパブリッククラウド、SaaSサービスなどを一元的に連携できます。連携手法も、EAIやSOA、ESBといったオンプレミスシステムで利用されてきたものから、API連携、メッセージング、ファイル連携までに対応。取引先とのスムーズなEDI連携も行えます」(小野氏)。さらにインテグレーションの処理・実施状況を管理する機能も備えているため、開発効率化だけではなく運用フェーズの障害処理にも迅速に対応できるようになるという。
IBM Hybrid iPaaSを用いて
製造業のCXを向上
海外では多くの企業がIBM Hybrid iPaaSを活用してITモダナイゼーションを具現化しており、また国内でも多くの企業が活用検討を進めている。
一例が、グローバルにビジネスを展開する建設機械メーカーのケースだ。この企業は建設機械の販売/レンタルサービスを主な事業としている。取引はECサイトで行えるが、従来は配送費用などの計算に多くの時間がかかっており、顧客体験(CX)が低下しがちな状態だったという。
「そこでこのお客様は、ECサイトで建機がショッピングカートに追加されたタイミングで見積もりを行い、スムーズな支払い、納品につなげる自動化の仕組みをインテグレーションによって構築しました」と小野氏は紹介する。
まず顧客である建設会社の位置情報を収集し、最寄りの自社倉庫の情報を取得する。次に地図情報を参照して距離計算を行ったら、配送会社のシステムとの自動連携に基づき配送可否の確認やコストの計算を行う。これらの情報をまとめて顧客に見積もりを提出し、顧客が注文を完了したところで手配を開始、スムーズに納品できるようにしたのである。「顧客企業のシステム、外部の地図情報、配送会社のシステムを、IBM Hybrid iPaaSを用いて連携しています。これにより、このお客様が提供するCXは大幅に向上。納品までの期間も短縮し、自社のみならず顧客のビジネス拡大にも貢献しています」と小野氏は述べる。
なお、このような仕組みを構築する際は段階的に進めることがポイントだ。この企業の場合、次の4つのステップで進めていった。
ステップ1はオンプレミスのシステム間のデータ連携だ。従来はERP、在庫管理、購買管理など、複数のオンプレミスシステムが社内に存在しており、相互にデータをやり取りする際に個別対応や手動処理が必要だった。まずはこの基盤を整理し、フローサービスや共通データモデルへの変換、マッピング、トランザクション管理・監視機能を導入することで、在庫情報や受注情報をリアルタイムに共有できるようにした。
ステップ2はハイブリッド統合基盤の確立。IBM Hybrid iPaaSを外部とのやり取りの受け皿とすることで、フロントシステムとバックシステムを分離した。これにより業務停止リスクを減らすとともに、大規模なレガシーシステムが残っていても段階的にクラウドへ移行できるようにした。
ステップ3はデータ活用の仕組みの高度化である。IBM Hybrid iPaaSが提供するストレージアダプタ、データ移行ロジックのテンプレートなどを活用することで、従来は5日かかっていたレポート作成のためのデータ準備を1日、1週間程度かかっていた新規データソースのインタフェース開発期間を2日へとそれぞれ短縮した。
そしてステップ4が取引先の統合だ。ステップ3までで社内システムの連携を整備し、その後に外部連携を進めた形である。これによりサプライチェーン全体の可視化と取引の効率化を実現。管理コストや納期遅延リスクも低減させている。
「IBM Hybrid iPaaSを利用することで、レガシーシステムが保有するデータや価値を最新テクノロジーで活用できるようになります。複数の連携機能を1つのプラットフォームでシンプルに管理できるため、運用の手間も極小化できます」と小野氏は話す。
図2 IBM Hybrid iPaaSを活用したITモダナイゼーションのメリット
レガシーシステムと最新テクノロジーを同時に生かしながら、シンプルな構成でITモダナイゼーションを実現できる。GUI開発が可能なことや、安定稼働に寄与できる点も重要なメリットだ
勘違いしがちだが、「レガシーシステム=悪」ではない。多くのビジネス価値を内包するレガシーシステムを生かしながら、最新テクノロジーをいかに組織に浸透させるか。これを考えることこそが、ITモダナイゼーションの本質といえるだろう。IBMの提案は、そのためのアプローチを検討する上で重要な参考になるはずだ。
(※1) 「CEOのための生成AI活用ガイド-総集編」 IBM Institute for Business Value、2024年1月
(※2) 「IBM Hybrid iPaaS」は、2025年5月のIBM Thinkにて「IBM webMethods Hybrid Integration」と発表されました。
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