日経BP 総合研究所

調査から見えた日本の製造業DXの現状と今後DXの進展と浮上する課題
加速に向けて意識改革が重要に

日経BP 総合研究所
客員研究員
三好 敏

今回の「製造業DXサミット」のテーマは「真価が問われる“X”への意識改革」。DXの機運が製造業で顕在化してから十数年が経ったが、国内の状況を見ると「X(トランスフォーメーション)」に至る成果を出している企業は一部にとどまっている。

この状況は、日経BP 総合研究所と日経クロステックが、2024年7~8月に国内製造業393社を対象に実施した調査からも分かる。この調査では、企業が事業変革を実現し、新たな事業価値を創出する取り組みを支える環境を「DX推進基盤」と呼び、これをベースに、日本の製造業におけるDXの現状と今後の動向を調べた。

結果を見ると約9割の企業がDXを進めている。ただし、多くの企業が部門内および企業内の取り組みにとどまっており、社外の企業・組織を巻き込んだDXに取り組むという企業は、今後取り組むという企業を合わせても全体の6割程度にとどまる。

DX推進基盤を構成する要素のうち、経営や業務プロセスをデータ駆動型に転換するエンジンの役割を担う「データ基盤」を、今後の整備の重点に挙げる企業が多かったが、一方で人材の不足、一元的なデータ収集・管理システムの未整備などの課題があることが分かった。

製造業が発展を続ける上でDXがもはや不可避である以上、こうした課題の解決に、企業は本腰を入れざるを得ない状況にある。

アルファコンパス

世界はノンルーティン業務の生成AIシフトも視野少子高齢化進む日本は壁を越える時
根本的な変革の成果を現実のものに

アルファコンパス
代表CEO
福本 勲氏

福本氏は、「日本企業におけるDXやAIへの取り組み状況」「インダストリー4.0の現在地」「デジタルテクノロジー活用の最新動向とハノーバーメッセ 2025のショーケース」「日本企業はいかに取り組むべきか」という4つのポイントに言及した。

2023年度のIPA「DX動向」調査では、DXに全社的に取り組んでいる日本企業は37.5%。2022年度から10ポイント以上増加も、その多くが実際はデジタイゼーションやデジタライゼーションにとどまっていた。DXによるビジネスモデルの根本的な変革の成果が出ている割合は高くない。また日本企業はAIの導入状況も2割弱と世界と比べて進捗が遅い。

「インダストリー4.0」は元々、ドイツの国家戦略として発表されたが、現在ではドイツを中心にEU全体の幅広い分野でデータベースが構築され、活用段階にある。福本氏が毎年参加している「ハノーバーメッセ 2025」ではこの活況を背景に、生成AIの様々な活用事例やデジタルツインを活用したスマートファクトリーの実現事例など、最前線の情報が結集していた。

未来的な技術が現実に使えるようになってきた。欧米ではルーティン業務だけでなく、ノンルーティン業務の一部も生成AIシフトが進み、次の段階を見据える。世界に先駆けて少子高齢化が加速する日本は生成AIほか新技術に対する壁を越え、企業全体のあり方を見直す時なのは明らかだ。

日立製作所

不確実性の時代に、大みか事業所はどう取り組む「Lighthouse」認定後の工場経営DX
環境経営と技能伝承、2大課題の克服へ

日立製作所
社会ビジネスユニット
インフラ制御システム事業部
生産統括本部 本部長
赤津 裕一氏

日立製作所の大みか事業所が世界経済フォーラムから、第4次産業革命をリードする先進工場として「Lighthouse」に選出されたのは、2020年1月。日本企業の国内工場では初の選出だ。

電力や鉄道ほか社会インフラ中心に情報制御システムを提供。設計、開発、製造、品質保証、運用保守を一貫提供する総合システム工場として操業開始以来50年以上社会インフラシステムを支え、協力会社含め約4000人が勤務する。

「Lighthouse」選出の評価ポイントの一つ、高効率生産モデルを日立製作所の赤津氏は紹介する。「収集・蓄積した現場のデータを分析し、立案した解決策を現場にフィードバック。『Sense-Think-Act』のサイクルを回しながら成熟度を高めます」

そして選出から5年が経った今。同社は不確実性の時代を生き抜く工場経営DXに取り組む。

例えば、環境経営に資する排水処理設備の高度化だ。「排水設備は運用が熟練者頼み。AI活用による自動監視やデータ分析による最適制御を実現し、技能伝承のほか、処理品質の向上や環境負荷の低減も実現しました」(赤津氏)

生成AI活用の技能伝承にも挑む。鉄道システムの顧客・問い合わせ対応では誰もが正確に回答できる暗黙知の継承が求められる。「想定質問に対する回答やヒアリングを通じて熟練者の対応を形式知に置き換え、AIに学習させました」と赤津氏はその要点を紹介した。

安川電機

ロボットの「フィジカル対応力拡大」で新たな自動化へ「曖昧な判断」がAIで可能に
判断力と作業力を兼備するロボットとは

安川電機
執行役員 技術開発本部
AIロボティクス統括部長 兼
エイアイキューブ 代表取締役社長
久保田 由美恵氏

安川電機は自動化とデータ活用で新たな産業自動化革命を目指す「i3-Mechatronics」を、2017年から推進している。3つの「i」は「Integrated(統合的)」「Intelligent(知能的)」「Innovative(革新的)」の頭文字だ。

自動化の難しい作業はまだ多い。その中心は「曖昧な判断を必要とする作業」にある。工業部品は基本どれも同じだが食べ物、例えば唐揚げやブロッコリーなどは1つとして同じものはない。「おいしそうに盛りつける」といった、人間が暗黙知で行う作業の自動化も難しい。

しかし「判断さえできれば、自動化は可能です」と久保田氏はいう。同社が推進している自律ロボット「MOTOMAN NEXT」は唐揚げやブロッコリーの位置、大きさ、形、向きなどをカメラとAIで認識。ロボットが弁当箱の中に同じ向きで盛りつけていく。判断力と作業力を兼ね備えたロボットによる新たな自動化が始まっている。

もう1つ難しいテーマが「バーチャル環境の進化によるフィジカルの拡大」だ。これもデジタルツインによるシミュレーションが進み、より高度な自動化が可能になっている。

「フィジカルの対応力をさらに高めていく必要があります」(久保田氏)。AIやバーチャル環境の進化に合わせ、安川電機はロボットのフィジカル面を強化していく。

サッポロホールディングス

グループ全体で利用率7割超、頼れる「サッポロ相棒」内製開発した生成AIを活用し
部門横断のビジネスプロセス改革を目指す

サッポロホールディングス
DX企画部リーダー
山下 春来氏

サッポログループはITテクノロジー環境整備の一環として、2024年9月から4カ月かけて内製開発した「SAPPORO AI-Stick(通称:サッポロ相棒)」と「Microsoft 365 Copilot Chat(旧Bing Chat Enterprise)」という、2つの生成AIツールを全社展開している。サッポロ相棒は社内データを参照して回答するRAG機能を持つ生成AI。Microsoft 365 Copilot ChatはWeb検索と組み合わせ、最新情報を取得するために活用する。

ツール導入前にサッポロホールディングスは2段階のPoCを実施。効果があると判断し、全社展開に踏み切った。同社の山下氏はその過程を述べる。「ガバナンス強化のため利用規程を制定し、Microsoft 365 Copilot Chatを先行展開しつつ、サッポロ相棒の稼働性を検証してUIやRAG運用の最適化、eラーニングなどを実施していきました」

またサッポロ相棒の利用状況をBIに連携し、データドリブンなアクションを実現できる環境を整備。2025年7月時点で総利用回数約54万回、利用率76%、RAG利用率62%という結果につながった。社内FAQをサッポロ相棒と連携し、問い合わせ対応業務の変革も目指している。

今後は利用率の低い営業や工場ほか、あらゆる業務プロセスでの活用促進を目指す。社内の優良事例を横展開し、部門横断で業務改革を推進していく。

ミスミグループ本社

「第9回ものづくり日本大賞」で内閣総理大臣賞調達のボトルネックを乗り越えよ!
「Why・Who・How」3つの問いで考える

ミスミグループ本社
常務執行役員
吉田 光伸氏

ミスミグループ本社の吉田氏はいう。「製造業に必要な部品は当社でほとんど揃います」。同社は「世界最大級の品揃え(3000万点超の品揃えと800垓のバリエーション)」、「確実短納期(受注生産で標準2日)」、「グローバル(世界107拠点、顧客数32.3万社)」という3つの特徴を持つ。

「人手不足と時間不足が製造業の最大の課題です」(吉田氏)。設計、製造、販売などはDXが進むが、ボトルネックは調達にある。その課題意識から生まれた、同社の機械部品調達プラットフォーム「meviy(メビー)」は経済産業省の「第9回ものづくり日本大賞」(2023年)で内閣総理大臣賞を受賞している。

meviyは2つの面で変革をもたらす。1つは「AI自動見積もり」。調達したい部品のCADデータをAIが読み取り、価格と納期を即答する。もう1つは「デジタルものづくり」だ。CADデータから製造プログラムを自動生成し、無人で製造。「最短1日出荷」を実現した。

同社は3つの問い「Why・Who・How」を重視する。「なぜやるのか=量から質への転換」のWhy、「誰とやるか=新しい組み合わせ」のWho、「どう育てるか=大きなものから速いものへ」のHowという視点で、新たな価値を模索。「日本発でグローバルNo.1の『ものづくりプラットフォーム』を目指します」(吉田氏)

※1垓…1兆の1億倍。すなわち800垓は1兆の800億倍

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