アズビル
一人ひとりにそれぞれ快適な体感温度を提供したい――。大型ビルでも個別に温度調整できるセル型空調システム「ネクスフォートDD」を発売したのがアズビル。大型高層ビルの空調の常識を打ち破り、省エネと快適性を両立できた。快適な体感温度を実現したことで、生産性向上にも寄与できている。
■ネクスフォートDDの活用風景
吹出口近くにセンサを取り付けスマートフォンで操作すると吹出口の内部のLEDが緑色に光り温度が変わる。自分の操作に対する反応が見えることで満足度が高まる
最近、空調や計測制御機器を手がけるアズビルの社員の間で働きやすいと話題の施設がある。神奈川県藤沢市にある研究開発拠点「藤沢テクノセンター」内の実験棟にあるカフェ型ワークスペースだ。
2022年9月に完成した真新しい施設は、1人で集中して思考できたり、グループワークで協創したりできる。ビルシステムカンパニーマーケティング本部プロダクトマーケティング部コンポーネントグループの水高淳課長は「私もよく利用するが自宅で作業するよりも、集中でき効率よく働きやすい」と話す。
■ネクスフォートDDの操作画面
スマートフォンで自分の快適な温度に設定可能
生産性が高い職場づくりに大きく貢献しているのがアズビルのセル型空調システム「ネクスフォートDD」だ。一般的に大型高層ビルの空調は温度や風量を集中制御し、数人の執務者に向けた個別の温度調整がしづらい。この点、ネクスフォートDDは吹出口ごとに異なる風量と室内温度を可能にし、誰もが快適な環境で働けるのだ。
大型高層ビルの空調と個別の温度調整――。この相反する手法の利点だけを採用するために、アズビルが蓄積してきた計測制御技術とICTを組み合わせた。ネクスフォートDDは、吹出口付近で働く4人ほどにとって快適な状況をつくり出せる。従来、制御単位は約30人で最大公約数の快適さしかできなかった。「既存技術を新しい発想で組み合わせた。誰もが快適な体感温度で過ごせる」(吉田公彦課長)。
吹出口ごとに風量を調整して室内温度を変えることは、空調制御の常識を疑わないと実現できなかった。1つ目の常識は安定した風量制御の実現には風速センサが欠かせず、正しく計測するためにはダクトにある程度の長さが必要となる。このため吹出口ごとに風量調整用ダンパの設置スペースの確保が難しい、と考えられていることである。2つ目の常識はセントラル空調ではファンの電力を節約するために、冷房時にはできるだけ低温で低風量の風を吹き出すべき、とされていることである。ネクスフォートDDでは、風速センサをなくしても安定した風量制御を可能とする新しい制御方式を考案して、ダンパを設置するスペースを確保することに成功した。また、あえて通常よりも高い温度で高風量の風を吹き出して、十分に空気を混合させ、温度の低い空気が落下して執務者が寒気を感じるドラフトを徹底的に防止することで数人の執務者に向けた個別の温度調整を可能とした。
この解にたどり着くまでには開発部門が試行錯誤を繰り返した。検討期間を短縮するため、空調制御をCFD(Computational Fluid Dynamics)上で再現させる「連成解析シミュレーション」を活用し、何度もシミュレーションを重ね最適解を探った。その中で吹出口同士で風量を融通し合う「アシスト制御」などの全く新しい制御方式を組み合わせる、などの試行錯誤も重ねた。こうしてネクスフォートDDは空調制御の常識を打ち破ったのだ。
■ネクスフォートDDの機器構成
吹出口ダンパに計測機能を装備し、卓上に設置したワークプレースセンサから温度・湿度と照度の計測値を吹出口ダンパに送信することで居室内環境を管理する
吹出口ごとに温度を制御できることで、オフィスワーカーにとって長年抱えていた大きな2つの課題を解決している。
1つ目がオフィスワーカーのウエルネス向上の推進だ。人によって体感温度が異なり、快適な室温に違いがある。特に夏場は帰社したての外回りの担当者は暑くて早く涼しくなりたい。一方で経理や総務部門といった内勤担当者は急激に寒くなると冷えてしまう。これをネクスフォートDDの空調ゾーンの細分化と執務者の代謝に合わせた温度調整方法により解決している。「快適な空間を実現するためにコストをかければ、生産性向上に寄与し、長い目で見ると会社の業績に貢献できる」(水高氏)。
アズビルが実施した実証試験とシミュレーションの結果、空調に不満を持つ執務者割合を10%に抑制するには室温に1.5度のばらつきが必要となる場合があることが分かっている。ネクスフォートDDは吹出口ごとに執務者の体感温度に合わせることで室温のばらつきに対応することができる。
■ウエルネス向上の推進における客観的説明*1
慶応義塾大学との共同実証試験の結果、その場で働く人々の満足度が高まり、知的生産性も向上した
慶応義塾大学との共同実証試験の結果、執務者の代謝に合わせて温度を調整するオフィスでは、知的生産性が2.5%向上した。人件費に換算すると、7万6800円/㎡/年*2に相当する。ネクスフォートDDはこの考えを取り入れている。実際の利用シーンを見てみよう。外回りから帰ってきた営業担当者が自席に座ると、スマートフォンを取り出しネクスフォートDDのアプリを立ち上げる。「すぐに涼しく」をタップする。外回りの営業担当者の代謝が下がるまでの15分程度強い風が吹く。ただしここで近くの内勤者が寒く感じる前に風は普通に戻る。このように執務者の体感温度の違いなどに伴う温冷感の問題を解決して、ワーカーのウエルネスの向上を推進できる。
ネクスフォートDDのもう一つの効果は温暖化ガス排出量削減だ。吹出口別に風量を制御でき、無人の場所は風を止められる。必要なときには強く、不要な場所はオフにし、メリハリをつけることで省エネにつなげる。ネクスフォートDDは大型ビルの空調制御の限界に挑み、空間・温熱環境に新たな価値を与える。空調制御が快適な職場をつくり出すことで満足度と生産性が高まり、業績にも貢献する。
azbilグループは、新型コロナウイルス感染拡大や気候変動・カーボンニュートラルへの対応など様々な社会課題に対し、空間の質・生産性の向上とともにエネルギー量抑制の両面の実現を目指す。
*1 右グラフの参考文献:上田悠,伊香賀俊治,三浦眞由美ら:執務者の温冷感申告操作・温熱満足度・知的生産性に関する温冷感申告型空調の実測調査(第1報)温熱満足度・知的生産性とエネルギー評価;空気調和・衛生工学会大会学術講演論文集,2020.9 *2 人件費に換算し、週5日勤務の場合
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