高砂熱学工業
創立以来100年の歴史を重ねる中、開発者、設計者、施工者として空調技術を提供してきた高砂熱学工業。「ないものは自分たちで創る」の精神でエンジニアリング力を発揮してきた。様々な先端産業の製造環境が変化する中、環境クリエイター®として、顧客の求める「空間環境」を提供するとともに新事業に乗り出す。
代表取締役社長COOの小島和人氏(左)と理事・設計統括部長の田中雄造氏
クリーンルームの革命児――。100年企業である高砂熱学工業が2006年に市場に送り出した次世代クリーンルーム空調「TCR-SWIT®」は、そう呼びたくなる斬新なシステムだ。
2015年、清浄度や温湿度の条件が厳しい半導体製造の前工程で採用されると、一気に市場を広げた。2022年12月現在、半導体・電子デバイス関連工場を中心に42件の実績を持つ。
何が「革命」なのか。同社理事・設計統括部長の田中雄造氏はこう言い切る。「お客様の製造環境の高度化に対して、従来とは全く異なる発想で応えた空調システムです。これにより、省エネ・省コストを実現します」。
今は、脱炭素社会の実現に向け産業界にサプライチェーン排出量の削減が求められる時代。製造装置の技術革新により増大する熱負荷に対応しつつ、省エネを図り、CO₂の排出を抑えたい。
この課題をどう乗り越えるか。そこで目をつけたのが、「熱上昇気流」と「旋回流」と呼ばれる2つの空気の流れだ(図1)。
■図1 成層空調システム「SWIT®」の仕組み
次世代クリーンルーム空調「TCR-SWIT®」の基になる成層空調システム「SWIT®」の仕組み。熱上昇気流と旋回流を利用して省エネを実現
熱上昇気流は、暖かい空気は上に、冷たい空気は下に向かう、自然の原理が生み出すもの。室内下部側面から温度調節された清浄空気を吹き出せば、工場内の熱を帯びた浮遊微粒子を含む空気は自然と上昇する。
旋回流は、周囲の空気を巻き込む流れ。例えば冬場に室内空気を20度にしたいとき、旋回流を利用すれば、工場内ですでに暖められている空気を巻き込むため、それより低めの温度で空気を送り込んでも狙った効果が得られる。
この2つの空気の流れを生み出す「TCR-SWIT®」は、クリーンルームに全く新しい世界観をつくり上げたのである。
それが、成層空調。工場のような天井の高い空間で床に近い作業域だけ空調する方式をいう。一方、従来の方式は、混合空調と呼ばれ、上部から空気をかき回し、空間全体を均一に空調する。クリーンルームではこの混合空調が一般的だった。
その違いは、比較対照実験の結果から明らかだ(図2)。「TCR-SWIT®」は作業域にあたる保証領域に限り温度や清浄度を制御し、要求水準を満たす。「そこには、最小限のエネルギーで済ませる設計力も欠かせません」(田中氏)。
■図2 従来型と「TCR-SWIT®」の比較
温度を可視化すると、従来型では空間全体で温度が均一であるのに対し、「TCR-SWIT®」では作業域にあたる保証領域の内外でその分布が異なっていることが分かる。保証領域内に絞って温度や清浄度を制御する成層空調の特徴でもある
省エネのポイントは、熱上昇気流や旋回流の利用にある。熱上昇気流が換気効率を高め、旋回流が吹き出す空気量を抑え、搬送動力を低減する。その結果、CO₂の排出削減が可能となる。
「旋回流は当社独自の技術。それを最大限に生かした成層空調の実現には、システム全体の設計力が必須となります。クリーンルーム空調のデファクトスタンダードを目指します」。田中氏は意気込む。
製造環境が高度化した空間には、「ドライルーム®」と呼ばれる超低露点環境もある。超低露点環境とは、気体が結露する温度が極めて低く、水分がないに等しい環境だ。空気中の水分が生産性を左右するリチウムイオン電池の製造には欠かせない環境である。
そうした環境を生み出すのが、除湿機である。除湿ロータで除湿した空気を超低露点環境に供給する一方、ロータで取り除いた水分を蒸発させて外部に排出する仕組みだ(図3)。
■図3 「ドライルーム®」の除湿機の仕組み
除湿ロータで空気中の水分を取り除いたり、取り除いた水分をヒータで加熱蒸発させて排出したりする。「ドライルーム®」は、この図で言えば、除湿ロータの右手に位置する
「ドライルーム®」では、この除湿機が莫大なエネルギーを消費する。除湿を続けるには、取り除いた水分を随時蒸発させるためのエネルギーが必要なのだ。
「ドライルーム®」の開発に取り組んだのは約40年前。そして約30年前、世界で初めてリチウムイオン電池が商品化された際、その製造環境で「ドライルーム®」構築に成功し、その5年後にはそこで用いる除湿機によって省エネを実現した。以降、改良を重ね、現在は顧客の要求に対応した3機種をラインアップしている。省エネのポイントは、除湿のために水分を蒸発させる処理温度や空気を送り込む風量などの最適制御にあるという。
近い将来、自動車のEV化の進展に伴い、製造環境のさらなる高度化の対応に迫られるとみる。「全固体電池などの二次電池の技術革新により、材料や技術に見合う環境が求められます。私たちは、自社開発の除湿機と『ドライルーム®』構築に精通した設計力で挑んでいきます」。田中氏は持ち前の技術力への自負を見せる。
創立以来100年、数々の空調技術で社会に貢献してきた高砂熱学工業は今、培ってきた技術を基に、カーボンニュートラル事業の創出に挑戦している。新たなエネルギー源となり得る水素に着目し、水素製造装置の開発をはじめ、エネルギーマネジメントシステムの提供により、再生可能エネルギーの利活用を促進する方針だ。
その第1号として、北海道石狩市では、太陽光・グリーン水素による小規模マイクログリッド(電力供給システム)を構築し、2022年4月から10年間、運営を担う。
世界初を目指す民間月面探査プログラムに参加
またその事業はブランド構築にも生かす。代表取締役社長COOの小島和人氏は「民間月面探査プログラムに参加し、当社の水素製造装置で水から水素・酸素を取り出すことに挑みます。100年企業としての技術検証にもなるはずです」と、意欲を見せる。
環境クリエイター®として、空調事業とカーボンニュートラル事業の両輪で、地球環境に貢献していく。
Contents
総論

アズビル

荏原製作所

新菱冷熱工業

新晃工業

東洋熱工業

高砂熱学工業

日立ジョンソンコントロールズ空調/日立グローバルライフソリューションズ

三菱重工サーマルシステムズ
