渡邉 誠氏
兵神装備株式会社
企画・管理部
SP企画グループ
グループ長
河井 広告賞の時代を含めて通算8回目の受賞となりました。
渡邉 こんなに何度も賞をいただけると思っていなかったので、率直に嬉しいです。
河井 今回はドット絵を活用した非常に面白いアイデアの広告でした。かなりチャレンジングなデザインですが、制作過程で苦労されたことはありますか。
渡邉 広告の切り口については、いつもメンバーで考えてアイデアを出し合うのですが、今回「RPG風にしたらどうか」というアイデアを出したのは土田でした。ドット絵という初めての試みだったので、デザイナーさんから最初のデザインが上がってくるまでは、どういう仕上がりになるのか、正直不安でした。
土田 春奈氏
兵神装備株式会社
企画・管理部
SP企画グループ
土田 最初の私の案は本当にざっくりとしたものだったのですが、最初にデザイナーさんからイメージ通りのものが上がってきて、これはいけるなという感触がありました。ドット絵に慣れているデザイナーさんだったので、かなりスピーディーに進めることができました。悩んだのは、製品であるモーノポンプをゲームのアイテムとしたときに、「高粘度液を移送できる」「吐出量を自在に制御できる」などの特長を見せつつ、違和感なく成り立たせるシーン設定です。でも、進めていく中で、モーノポンプが意外とRPGの世界観によく馴染むな、と思いました。
河井 全6回のシリーズでストーリー仕立てになっていますが、登場人物のキャラクター設定も細かくなさったのですか。
土田 はい、それはかなり楽しみましたね。私も含め、チームにはテレビゲーム世代が多かったので、どんどんアイデアが出てきました。キャラクター設定だけでなく、「場面設定を井戸にしたらどうか」「こんなアイテムがあったら面白いのでは?」と、みんなで話して最初の段階からどんどんイメージが広がっていきました。
河井 確かに、ゲーム世代にピタリとハマるデザインですよね。この広告を出した後の、周囲の反応はいかがでしたか。
土田 お客様の声までは聞けていませんが、社員からは新しい広告が出たときに「次が見たかった」「待っていました」といった声が届きました。社員からそんなふうに言われるのは初めてのことでした。みんなも楽しんでくれているんだな、と思ってすごく嬉しかったです。
河井 ストーリー仕立てにしたのが功を奏したのかもしれませんね。
渡邉 ホームページでもこのシリーズでコンテンツ化しており、ネット上ではJavaScriptの機能を使って絵を動かしているんです。我々のような産業機械系の会社でここまで表現にこだわっている会社は珍しいと思います。このサイトをメディアに取り上げていただきました。それも一つの効果だと感じています。
河井 一つベースとなるクリエーティブがあって、そこからウェブなど立体的に展開できるのはいいですね。紙媒体の広告だと効果が分かりづらかったとしても、ウェブに展開するとお客様の反応が変わることもありますよね。
渡邉 派生といえば、今キャラクターのノベルティもいろいろ作っているんですが、これもなかなか好評です。
河井 保博
日経BP
技術メディアユニット長
河井 最近は純広告からタイアップ広告などにシフトしている企業も多い印象ですが、御社は長年純広告を出稿し続けていますね。
渡邉 雑誌広告とオンライン広告とでは、役割分担があるような気がしています。もともと当社は、「我々の会社の名前も製品名も知らない人たちとの接点を探しにいこう」という意図で、2009年に日経ものづくりさんに純広告の出稿を始めました。当時はリーマン・ショックの直後だったので、表2の広告ページが空いていたんですね。それから長年その位置でやらせていただいています。雑誌がなくならないということは、やはり意味があるはずなんです。そこで出会えた読者の方々との接点といったものは、捨てがたいものがあると感じています。
河井 日経ものづくりはターゲットがはっきりしていますし、ずっと読んでいただいている馴染みのある読者がいます。それをうまく活用していただいているという意味では、他のメディアへの露出とは違う意味合いがあるような気がしますね。今後の展開はもうお考えですか。
土田 まだ発表はできませんが、次の企画を温めているところです。ぜひ楽しみにしていてください。もっともっと、いい広告を作って日経ものづくりの読者の方に届けられたらと思っています。
渡邉 2020年以降、人と会うな、密になるなという状況の中で、展示会にも人が集まらず我々も苦労しました。ただ、クリエーティブの領域を見たときに、人と会えなくなったことで、イラストの力がすごく見直された2年だったのではないかと感じています。それはAdo(アド)さんやYOASOBI(ヨアソビ)さんなどのミュージックビデオの影響も大きいと思います。音楽以外でも、テレビのマラソン中継の間にイラストが差し込まれたり、リアルとイラストが融合して使われるのが最近の特徴ですよね。イラストの持つ力強さが見直されている中で、当社もイラストの表現の形の一つとして今回このような広告を作ることができました。今後この動きがどうなっていくのか。メタバースも浸透し始めているので、アバターを使った広告などもそろそろできるかもしれません。また新たな世界観の中で、それをうまく広告に生かしていけたらと思っています。
※所属・肩書はインタビュー時点