講評

審査委員講評(敬称略・五十音順)

  • 石崎 徹

    石崎 徹

    専修大学 教授

     第8回「日経BP Marketing Awards」の審査会に臨んだ。今回の審査も昨年に引き続き、評価の高いものから「グランプリ」「金賞」「銀賞」となった。今回も選りすぐりのエントリー作品ばかりで、純広告、Web、タイアップ、多メディア展開など多様な展開方法が取られていた。個々の作品は丹念に作り込まれていて、内容も濃く、高いマーケティング効果を発揮している。一方で、特にWeb上の記事的な展開に見られたが、ある程度フォーマットが出来上がっているためか、並べてみると似たような印象を受ける。ここからさらにクリエイティブもメディアの使い方も一工夫あると楽しみである。

     グランプリに輝いたのは、「日経ものづくり」に掲載された兵神装備の「ヘイシン モーノポンプ」のシリーズ純広告である。「使えるポンプを、仲間に。」の共通したヘッドラインのもと、1970年代後半のテレビゲームを彷彿とさせる、ドット表示の勇者のキャラクターがモーノポンプを持って活躍するシリーズものとなっている。同誌の読者の中心である50代の技術者をターゲットにした広告とのことであるが、その多くはインベーダーゲームを皮切りにテレビゲームに夢中になった世代である。評者もちょうど小学校高学年で、百円玉を握りしめてゲームセンターへ行った懐かしい記憶がある。ターゲット世代の注意をぐっと引き、心を鷲掴みにするクリエイティブには心憎ささえ感じてしまう。クリエイティブとメディアが一致した、純広告の王道的な展開である。

  • 大越 いづみ

    大越 いづみ

    電通グループ 取締役・監査等委員

     ビジネスパーソン向けコミュニケーションを通じて、マーケティングの課題と手法のトレンドを定点観測する絶好の機会。今回は、中長期的視点に立った事業拡張や事業のドメイン転換が経営課題となる環境下、業務革新から働き方改革のDX推進を「ビジネスチャンス」と捉えた企業の作品が多く見られた。

     日本マイクロソフトは「製造業DXイベント」を存在感醸成の機会と捉えた。潜在顧客に向けてサービスを網羅的にプレゼンテーションするために、短期間に資源を集中投下した情報量と質、機動力に高い評価が集まった。東京海上ディーアールは、新会社設立の企業広告を展開。自社の競争力であるデータやリスク分析力を資源にDX化を促進する戦略の編集企画である。新会社の意図・ねらいを伝えるヘッドラインが秀逸であった。

     純広告の中では、カケハシの電子薬歴「Musubi」は、ターゲットである薬局に寄り添うようにMusubiが果たせる役割を丁寧に紐解くアプローチに好感が持てた。わかりやすい図解、統一されたデザインとカラーにもディレクションが行き届いていた。

     最後に、今回は新たな手法を開発する意欲的なチャレンジには出合えなかったことに触れたい。手堅い手法や見慣れた安心感のある誌面・画面イメージで展開すれば一定の成果は得られる。しかし、時間が止まったような印象もぬぐえなかった。ターゲットインサイトの深い洞察、日経BP資源の最大限の活用で、新たなトレンドを予感させる企画が出ることに期待したい。今年も「兵神装備」にグランプリが渡った。2021年後半、長引くコロナ禍の閉塞感、情報過多の記事広告が続く誌面・画面を見る疲弊感を察し、ターゲット読者が思わず共感するツボを捉えた自社広告を展開する戦略だったとすれば、一枚上手と言わざるを得ない。

  • 小林 弘人

    小林 弘人

    インフォバーン 代表取締役CVO

     昨年に続き、新型コロナウイルスによる感染拡大の勢いは止まらず、また緊迫した世界情勢の不安が覆い、未曾有の歴史的岐路に放り込まれた感がある。そのなかでマーケティングについて語る難しさに直面した審査会であった。

     正直、本年はどの作品も「あともう一歩の跳躍」が足りない印象であった。マーケティングは時代の機微を読み、そこにうまく自社サービスやプロダクトを適応させ、共感を生み出す妙味こそが腕の見せ所だ。しかしながら、「時代を読む」ことができても、その表出(表現)に配慮が足りず、社会全体への眼差しがないと、独善的なものになりかねない。

     たとえば、多く散見されたのは広告内に登場するインタビューイたちのジェンダーバランスだ。これについては男性読者が多い媒体とはいえ、もっと考慮すべきだろう。さらに、典型的なイメージ画像の使用など、表現の濫用からどう逃れるか。

     そのなかで、兵神装備のグランプリについては意見が割れたが、毎年新しい表現への挑戦をやめない同社の姿勢を反映させたものであることは間違いない。ある意味、定番である。ファミコン時代のRPGに思い入れがない人にはまったくかすりもしないオール・オア・ナッシングな思い切りのよさもある。しかしながら、次の課題としては、ニッチなテーマで訴求するばかりではなく、ニッチな視点であっても社会性が横溢し、多くの共感を呼ぶ表現を探求してほしいと期待する。住友林業の作品は、コピーライティングの持つ力を評価したい。脱炭素化における建設セクターの担う役割についての自己言及はよい。

     さて、広告業界でも使われる「エンゲージメント」という言葉は、単にユーザーとブランドとの関係性のみではなくなりつつある。私たちの社会について、どれだけブランドが関わり合いを持つのかといった決意が包含されるようになったと評者は考える。今後に期待したい。

  • 酒井 光雄

    酒井 光雄

    マーケティングコンサルタント

     コミュニケーションがインバウンドに比重を移す中、ビジネスパーソンが抱える課題解決や事業モデルの創造に繋げるコンテンツをいかに発信できるか。B2Bのコミュニケーションでは、この点がなにより問われてくる。

     雑誌の誌面を通じて訴求する純広告は、ページを開いた瞬間に企業が伝えたいメッセージが読者に伝わり理解されることが絶対条件になる。

     その一方ネット空間に読者をいざない、そこで詳細な情報を提供する際は、読み手の視点で平易に理解できるコンテンツに仕上げる翻訳力が問われてくる。この点で日経BPは編集活動を通じて企業の価値を読者に伝える翻訳力を長年磨いており、今日のコンテンツマーケティングに結実させている。

     兵神装備はRPG(ロールプレイングゲーム)にハマった世代の特性を踏まえ、RPGをモチーフにした物語に引き込み、純広告を通じて自社製品の特長を理解させた。また住友林業は建築材から脱炭素の取り組みが可能な木造建築の価値を訴求し、脱炭素を通じた企業ブランディングを行った。

     東京海上ディーアールはサイバーセキュリティや自然災害といったリスクコンサルティング事業とDXへの取り組みを、誌面とネットを連動させたコンテンツにより自社の新たな使命をアピールした。誰が競争相手になるかわからない時代に、従来の保険会社にはない新たな事業領域へ挑戦する姿を打ち出している。

     ニューノーマルの社会が突然到来し、新たな暮らし方と働き方が世界で始動した。旧来のままに事業を続けようとする企業が存在する一方、業界の慣例を打破し、事業モデルを変革していく企業がある。今回の受賞企業からは、そうした先駆者としての気概が伝わってくる。

  • 瀧川 千智

    瀧川 千智

    博報堂DY メディアパートナーズ

     今回初めて審査員として参加した。私は現場のプランナーとしての視点がある一方、現場でのステレオタイプに甘んじていることにも気づかされた。全体を通して感じたことは3つ。【1】SDGs、DX、休み方など、社会性のあるテーマを掲げた企画が増えたこと。そのテーマと生活者インサイトが結び付き、ストーリーとして語ったものほど、読者の理解や共感を受けやすい。企業のコミュニケーションがパーパス型になっている今こそ、日経BPをパートナーにする意義が深まっているし、そのストーリーテリングの力を媒体社や広告会社も磨かねばならない。【2】日経BP総研、日経ID、オンラインイベント、動画制作など、日経BPの資産をフルに活用した統合的な企画が目立ったこと。コロナ禍の環境で、伝え方がより複合的になっている。AGCの案件では日経BP総研がコンサルとなってプランニングの川上から参加。SNSやインフルエンサーが台頭し、出版社の価値が問われている中で、出版社の価値をメディアの面だけではなく、ナレッジやアイデアの面で価値化している。博報堂DYメディアパートナーズの「MATCH」というソリューションもまさに同じ考え方だ。【3】BtoBコミュニケーションこそ「ステレオタイプ」に気づき、見直すべきタイミングであること。登場人物はほとんどが男性で、腕を組んでいる写真、という構図にこれまでは疑問を持たなかったが、今回たくさんの作品を見ながらその違和感に気づけた。企業側は、ジェンダーバランスだけでなく、働き方なども含めて様々な多様性がないと生き残れない時代。日経BP、広告主、広告会社がそれぞれの立場から率先してステレオタイプを脱し、進化した提案ができるようになると、企業の課題解決だけでなく、社会課題の解決につながるはずだ。

  • 田中 知恵

    田中 知恵

    明治学院大学 教授

     ひとの情報処理に対してさまざまなモデルが提唱されているが、心理学で主に検討されてきたのはふたつのルートを仮定する二過程モデルである。処理対象である情報に対して直観的に判断をする「自動的過程」、熟慮を経て判断を下す「統制的過程」。マーケティング活動や作品、すなわち社会的情報の受け手として、どちらのルートでの判断を優先すべきか。事前審査ではこれが課題であった。

     兵神装備によるシリーズ広告「モーノポンプ」は、まさに読者の「自動的過程」に訴求する力を持つ。受け手の視線をとらえノスタルジア感情を導出する。ノスタルジア感情には、自己の連続性の感覚や存在の意味づけを高める働きがあるため、そうした感情が生じる対象へひとは接近し、その内容を深く処理しようと動機づけられる。つまり自動的過程から統制的過程へと向かうのである。まず直観的にポジティブな反応を引き出すという点において本作品は高い効果を持つ。他方、ウォルト・ディズニー・ジャパンや東京海上ディーアールをはじめとしたタイアップにとって重要なことは、記事に対する読者の「統制的過程」の処理を、引き続きそのコンテンツにも向けさせることである。実際、受賞作品はWebや誌面の記事と連続性がある体裁になっており、受け手にとって処理流暢性の高い提示方法という工夫が認められた。深い処理は、内容に対するシビアな判断を導く。この点においても、ウォルト・ディズニー・ジャパン「ヘルシー・テイメント」の訴求は優れていた。なお、日経BP各メディアの特徴と読者属性をとらえ、そのメディアで展開するために計画されたプロジェクトが高く評価されるのは当然であろう。日本マイクロソフトの取り組みはその代表である。

  • 裵 英洙

    裵 英洙

    ハイズ 代表取締役/慶應義塾大学 特任教授

     第8回「日経BP Marketing Awards」は、新型コロナウイルス感染症まん延におけるありし日の日常への郷愁感とデジタル化が加速することで生み出される近未来的な期待感がモザイク状に入り交じった当世におけるマーケティングのあり方を見直す良い機会であった。今回の作品を大きく二つの文脈に大別して眺めてみると、“過去を懐かしみながらも前向きに今を生きる”、“未来に夢を託して現状を打破すべく今を生きる”、の二つの文脈が浮かび上がってくる。いつの時代でも、追憶も希望も人にとっては大事な生きる糧になるということを再認識した機会でもあった。

     そんな中で、グランプリに輝いたのは「兵神装備」。懐かしのロールプレイングゲームをベースにメッセージを伝えていくスタイルであり、ある世代のターゲットにとっては反射的に目を奪うノスタルジー全面推しの妙手と言える。

     ただ、今回の応募作品全体を眺めてみると、伝えたい内容が企業視点を主として押し込まれすぎており、頼んでいない料理を提供されたときの幾分の飽食感を否めない側面が感じられた。だからこそ、売れたらよい、注目を集めたらよい、という売上至上主義ではなく、私的利益と公的利益のバランスを追求する企業側の姿勢こそが作品に接するものの納得度と好感度を上げていくキードライバーとなることにも気付かされた。つまり、マーケティングが企業と顧客の価値共創とするならば、提供主体自身が社会的にどういうものであるかを主題化することは避けられないものであり、本質を伝えるには情報量ではなく一段高い視座が必要なのであろう。

     伝えるべき相手に対して、攻めすぎてもならず、守りすぎてもならず、ギリギリのエッジを追求する姿勢こそがクリエイティブであり、ある意味、マーケティングの永遠の課題なのかもしれない。だからこそ、マーケティングなるものは面白いのである。

  • 本荘 修二

    本荘 修二

    経営コンサルタント/多摩大学(MBA)客員教授

     コロナ禍が広がって2年が経とうという時に、第8回の本Awards審査会に臨んだ。

     世界的に目的(パーパス)の重視など、企業のあり方を根元から考える機運が生まれ、歴史的なパンデミックで、ますます企業の存在意義が問われている。そして、困難と変化に立ち向かうイノベーションが求められている。

     広告をはじめマーケティングのコミュニケーションも、アイデンティティが問われ、イノベーションが期待される世の中になってきた。また、こんな時だからこそ、より一層、共感が大切になっている。

     例えば、熟年男性オンパレードや腕組みした人物のビジュアルに懸念の声もあった。これらは、よくある見慣れたものだが、いまや共感する人も減っている、というよりマイナスの印象すらある。つまり、これからの広告のあり方についても、根元から考えることが重要だ。

     兵神装備は本コンテストの常連であり、またかと思われかねないハンディをはねのけての受賞。兵神装備らしい際立ったクリエイティブは、初期のビデオゲーム世代にも共感されるもので、グランプリを勝ち取った。

     そして、金賞の日本マイクロソフト、ウォルト・ディズニー・ジャパン、東京海上ディーアールの作品は、いずれも個性やチャレンジが見て取れる。

     銀賞のカケハシは、調剤薬局のDXを推進する注目のスタートアップであり、規制が厳しい分野ながら起業家精神を感じる。

     様々な候補作品があったが、全体的には無難にまとめた、あるいは似たり寄ったりの印象のものが散見される。先が見えない時代にこそ、原点に立ち返った自社らしい発信、そして未来をつくろうと挑む姿勢を、期待したい。

  • 水島 久光

    水島 久光

    東海大学 教授

     我々委員が何を、どんな基準で評価すべきか自体が問われた、スリリングな審査会であった。いきなりグランプリの「兵神装備」について、意見が割れた。交わされる委員の言葉のどれもが尤もであった。同社はこのAwardsの常連であり、語弊を恐れずに言えば「手の内」はわかっている。その上で敢えて評価するという行為は、どのような意味をもつのか。

     私は、過去の同社の作品に比べて、ロジカルに優れている点があると考え、積極的に評価した。しかし、そこに他社のエントリー作品と比較しての消去法的視点が入り込んだことは否めない。「日経BPの媒体・ツールを用いたコミュニケーション施策である」という以上の共通項をもたない取り組みを、どうやって同じテーブルの上に並べるか、それ自体に悩んだ。

     まず、その企業自体の取り組みとして優れていても、「日経BP」の名が冠されている以上、媒体上の表現として特筆すべき点を見いだせないものは評価対象から外した。いかに規定フォーマット上の編集企画であっても、クライアントとスタッフが真摯かつ協働的に対象とオーディエンスに向き合い、考え、知恵とアイデアを絞ったか。それがきちんとかたちになっているかが鍵だ。

     人物写真は、お決まりの腕組みのバストショットでいいのか? 専門的な情報を伝えやすいよう、インフォグラフィックに気を配っているか? 視覚表現に制限がある分、言葉選びに細心の注意が払われているか? ―何より、そのメディアの向こうにいる人々の姿と行動がきちんと見えているか。金賞~銀賞が決まっていく中で、選ばれた作品によって、徐々に疑問や躊躇が払拭されていくように思えた。

     結果、「兵神装備」のグランプリは、全顕彰ラインアップが決まったことによって確定した。いい審査会であった。

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