日経ビジネスオンラインスペシャル

INTERVIEW2020.03.13

ANOTHER FACE ― 腕元に光るもう一つの顔

時計はテンションをがらりと変え、役に入り込むための最良の道具

俳優草刈 正雄 さん

草刈正雄さん

左腕で存在感を放つ美しいフェイスに見入って、言った。

「いいですね、この時計。なかなか洒落ているなあ」

この日、草刈正雄さんが腕に巻いたのは、衣装のうちで自身の好みに近い1本、IWCの「ポートフィノ・ハンドワインド・エイトデイズ」。18Kレッドゴールドケースにスレートグレーの文字盤が、クラシカルで上品な印象を漂わせる。個人的にも、IWCの「ポルトギーゼ」や独自機構であるスプリングドライブ搭載のグランドセイコーなどを所有しているというから、お目が高い。

IWC「ポートフィノ・ハンドワインド・エイトデイズ」
IWC「ポートフィノ・ハンドワインド・エイトデイズ」。192時間のパワーリザーブを誇る手巻きムーブメントが、18Kレッドゴールドのケースに品よく収まる。

「僕はよくものを落としてしまったりするので、怖くて、時計を普段着けて歩くということはあまりないんです。でも、ものとしての時計のデザインは好き。コレクションみたいに自分の部屋に並べて、ときどき眺めたりしますよ」

普段、着けないものだからこそ、着けたときには特別なパワーを醸し出す装置にもなる。

「役者っていうのは、時代ものなら鎧を、ビジネスパーソンや政治家の役ならスーツを着ます。鎧はもちろん、スーツも僕はプライベートで着ることはほとんどないのですが、だからこそ身にまとうとテンションががらりと変わる。時計なんかは、そういった道具の最たるものの一つだと思いますね」

3月15日(日)からWOWOWプライムで放送が始まる、「連続ドラマW オペレーションZ ~日本破滅、待ったなし~」でも、その時計の効果が表れている。政府債務が1000兆円超という日本が現実に抱える財政問題をテーマに、デフォルト=国家破綻が目の前に差し迫った状況で、いかに危機を乗り切るかを描いた、全6話にわたる緊迫の政治経済エンターテインメントドラマだ。

草刈さんが演じるのは、主人公の内閣総理大臣、江島隆盛。その腕で、オメガの「デ・ヴィル トレゾア」が、次々と難しい判断を迫られる総理を冷静な顔で支える。

「総理大臣役は、実は初めて。昨年秋に公開された、三谷幸喜監督の映画『記憶にございません!』では官房長官役をやらせていただいたものですから、『昇格したな』と(笑)」

社会保障費などの歳出が拡大の一途をたどる反面、税収は伸び悩み、現在、日本の債務残高は国内総生産(GDP)の2倍超。このままだと日本は近い将来、デフォルトに直面する恐れがある。

この危機を、ドラマの中の江島は「歳出を半減させる」という大胆な施策で回避しようと計画。財務省のエリート4人を招集して特命プロジェクト「オペレーションZ」を密かに組織し、実現に向けて動き出す。刻一刻と“Xデー”が迫る中でのミッションの遂行は、まさに時間との戦いだ。そうした江島の姿は、ビジネスの最前線で、厳しい経営戦略を断腸の思いで実行せざるをえない、リーダーの姿とも重なる。

草刈正雄さん
スーツ4万9000円(税別)/MEN'S BIGI(メンズビギ) その他スタイリスト私物

原作と台本を読み、草刈さんが江島という役に対して感じたことは、2つあるという。1つは、「猪突猛進型」。限られた時間の中ですばやく決断し、周りが絶対にできないと言うようなことでも断行する強さだ。そしてもう1つが、「下品さ」。

「といっても、単に下品な男というわけではありません。たとえば、2016年のNHK大河ドラマ『真田丸』で僕が演じさせていただいた、幸村の父、真田昌幸。明晰な頭脳を駆使して策略を練り、生き延びるためならば手段を選ばない武将で、実にいろんな面を持っているんです。江島は、この昌幸に似ている部分があると僕は思う。国家危機を回避するためなら、どんな手でも使ってやるぞ、と。

周囲を説き伏せて難局を乗り切るには、時によって押したり引いたり、強硬に突破したり柔らかく理解を求めたりと、さまざまな手法を駆使する必要がある。この役を演じながら、リーダーには硬軟両面を使い分ける能力が不可欠なのだなと感じています」

そう語りながらも、「ちなみに実は僕、この人と真逆で、優柔不断なんですけどね」と苦笑して付け加える。

「人に批判されたら、『ああ、そうだね。そしたら、こっち行こうか』って、そういうタイプですから(笑)。ただ、自分とかけ離れているからこそ、かえって演じていて楽しいのかもしれません」

草刈正雄さん

原作は『ハゲタカ』シリーズなどの骨太な経済小説で知られる、真山仁氏。原作者自身が「映像化は無理」と諦めていたという超大作の世界が、今春、いよいよ現実のものとして幕を開ける。

「この作品を通して、今こそぜひ、幅広い世代の方々に日本の財政の抱える問題を知っていただきたいと思います。俳優として、とてもやりがいのある仕事ですね。ただし、難解かつ膨大な政治用語、経済用語の嵐で、セリフを覚えるために寝る間もないほど。本当に、現場は大変です。ここ、強調して書いておいてください(笑)」

くさかり・まさお
1952年生まれ、福岡県出身。70年、男性化粧品のCMでモデルとしてビューし、74年に映画『卑弥呼』への出演を機に俳優としても活動をすすめる。以降、映画、ドラマ、舞台などで幅広く活躍する。代表作は、映画『沖田総司』、NHK大河ドラマ『真田丸』、NHK連続テレビ小説『なつぞら』、NHK BSプレミアム「美の壺」の案内役など多数。

連続ドラマW オペレーションZ ~日本破滅、待ったなし~

連続ドラマW  オペレーションZ ~日本破滅、待ったなし~

原作/真山仁『オペレーションZ』(新潮文庫刊)
脚本/櫻井武晴
監督/村上正典、都築淳一
出演/草刈正雄、溝端淳平、高橋メアリージュン、堀部圭亮、丸山智己、岩松了、きたろうほか

3月15日より毎週日曜夜10時から、WOWOWプライムで放送予定。全6回。[第1話無料放送]

文=いなもあきこ 写真=森 康志 スタイリング=九(Yolken) ヘアメイク=横山雷志郎(Yolken)

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