トマトの超多収栽培の可能性を探る

理論的には10アールで200トン! オランダに追いつけ

技術の下方展開で、全体をレベルアップ

農研機構の津市安濃町拠点におけるトマトの長段栽培。(写真:高山和良)

 高品質でオランダ並みの55〜75トンという多収量を達成した報告がある一方で、日本全体におけるトマト生産の収量が大きく上がったわけではない。今のところ、多収量を実現しているのは、ひとにぎりの研究機関や生産法人に限られている。

 こうしたトップデータをたたき出しているところはどこも大型・軒高の最先端ハウスでトマトを作っている。そこでは、土に植えられる土耕ではなく、肥料成分を含む液肥を使った養液で育てられ、高いところから吊される「長段栽培」という方式が採られている。ハウス内の室温や二酸化炭素(CO2)濃度などの環境やトマトに与えられる養液の成分・分量などは精密にコントロールされる。ハウス栽培と言うよりは「太陽光型植物工場」と呼んだ方がふさわしい、きわめて高度な施設で栽培されているのだ。これらの手法はオランダの技術がベースとなっている。

 一方で、日本の施設栽培の大半は中規模や小規模のハウスを使っている。環境制御どころか、空調機能を持っているところも少ない。栽培方法も養液栽培ではなく、トマトを土に植えて栽培する土耕によるものが多い。

 今後は、トップデータを出しているような太陽光型植物工場で培った技術をさらに進化させながら、中小のハウス栽培に応用できるようにして日本のトマト生産全体の底上げを図っていく必要がある。中野さんは、こうした流れを「先端技術の普遍化」というロジックで語る。

 「今後やらなくてはいけないのは技術の下方展開です。次世代施設園芸拠点と言われる1棟当たり1ヘクタール以上の大規模施設はきわめて少ない。その下にある施設の水準を引き上げたいですね。大規模施設で得られたデータや知見は、ごく普通のビニールハウスの生産改善にも使えます。日本の施設生産のほとんどはビニールハウスですが、気温やCO2などの環境制御はほとんど入っていないのが現状です。暖房でさえ半分以下だと思います。こうしたところを牽引する必要があります。

■植物工場と施設園芸の構造とターゲット
トマトをはじめとする施設園芸(ハウス栽培)の技術的なヒエラルキー。頂点にあるのは植物工場などの高度な技術を取り入れた大規模施設だ。これらの大規模施設は面積ベースで見ると0.1%以下でしかないが、ここで磨かれた技術や研究成果を、その下にある中小規模のハウスに下方展開していくことで、日本の施設園芸全体の底上げを図ることができる。(資料提供:中野明正さん)
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農研機構を中心に進む技術革新

 国内で、トマトの高品質・多収栽培技術の研究・開発を牽引しているのが、農研機構 野菜花き研究部門だ。茨城県・つくば市や三重県・津市安濃町の研究拠点を中心に様々な研究・開発を進めており、「戦略的イノベーション創造プログラム」(SIP)の「収量や品質を自在にコントロールするための太陽光型植物工場」プロジェクトでも中核を担う。

 農研機構のつくば拠点では、東出忠桐さん(野菜生産システム研究領域 施設生産ユニット長)が中心となって主に生産技術や環境制御技術の方向から開発を進めている。その中で最も重要なものの一つが「生育・収量予測ツール」の開発だ。

 このツール、簡単に言うと「気温や日射量、CO2の量などから収量を計算できるソフト」のこと。「葉の数や、気温、積算日射量、CO2などから、どれだけ光合成したのか、何グラム作られたのかが、毎日ずっと自動計算されていくツール」(東出さん)。

 同機構ではこのツールと、高品質・多収性の両立を目指して農研機構が開発したオリジナル品種「鈴玉」(りんぎょく)を使い、シミュレーションをしながら栽培することで、糖度5度と年間収量55トンを両立させることに成功した。「鈴玉」は品質の高さで定評のある「桃太郎8」(ももたろうエイト)という日本の品種と、「ジェロニモ」というオランダの多収量品種を掛け合わせて作ったもの。2016年9月に品種登録された農研機構発の新しい品種である。

東出忠桐(ひがしで・ただひさ)氏
農研機構 野菜花き研究部門 野菜生産システム研究領域 施設生産ユニット長。主に、施設栽培における生産技術や環境制御技術などを担当し、トマトの超多収栽培技術を現場レベルで完成させることを目指す。(写真:高山和良)

 「従来の品種・栽培方法のままでは30トンを切るくらいですが、このツールを使ってシミュレーションをすれば、元々の日本の品種でも50トンは達成できます」と東出さん。続けて「多収化に向けての大きい一歩」とこのツールの意義を語る。

 このツールには、もう一つ「今日何トン採れるかを予測する」という大事な役割がある。「例えば、今週何ケースのトマトを出荷するのかは、温度管理をきちっとしている施設でもかなりブレる。300と思っていたのが100しか採れないということがある」(東出さん)。収穫量を正確に予測できれば人員計画や販売先への配荷計画が精密にできる。生産者にとって収益に直結する部分だけに、予測精度の改善はきわめて重要な課題になってくる。