コシヒカリを超えるおコメ!? 新潟で急拡大する「良食味多収米」

中食・外食向け業務用米として人気高まる

 新潟県の稲作振興を担当する 新潟県農林水産部 農産園芸課 参事の石田正雄(いしだまさお)さんは、市場動向を踏まえた上で県の米戦略について次のように語る。

 「全国的に家庭内での食事が減っています。こうした変化に応じて需要に応じた米作りをしていこうということです。県としては家庭食だけでなく業務用を含めた米作りに対応していきます。特に中食・外食用についても食味の高さが求められています。多収米品種もかなり美味しくなっているので、こうしたニーズにしっかり応えられます。県としてはこれまであまり取り組んでこなかったところであり、伸びしろがあると考えています」

新潟県農林水産部 農産園芸課で稲作振興を担当する石田正雄参事。(写真:高山和良)

 新潟県が現時点で推奨する多収品種は、「ゆきん子舞」「つきあかり」「あきだわら」「ちほみのり」「あきあかね」の5品種だ。用途と収穫できる時期(作期)という、二つの観点から複数の多収品種を用意している。

 用途の面では、あっさりとした味で炒飯や丼ものに合う「ゆきん子舞」や、粒が大きくオールマイティに使える「つきあかり」、食味と外観品質に定評のある「あきだわら」など、多様な使い方に対応できるように選択肢を広く取っている。温かい白いご飯として出されるのか、お弁当やおにぎりなど冷めた状態で出されるのか、はたまた炒飯や冷凍米飯なのかなど、提供されるスタイルによって向き不向きがあるからだ。

新潟県農林水産部が今年1月に発行した『新潟米図鑑』の表紙には、新潟を代表する「コシヒカリ」「新之助」「こしいぶき」と並んで、5つの多収品種「ゆきん子舞」「つきあかり」「あきだわら」「ちほみのり」「あきあかね」が写っている。
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 もう一つ重要なポイントが田植えから収穫の時期、つまり作期の分散だ。水稲品種の作期は、大きく「早生(わせ)」「中生(なかて)」「晩生(おくて)」の三つの時期に分かれる。一つの品種だけを作っていると、田植えも栽培管理も稲刈りもすべて一つの時期に集中して行わなくてはならなくなる。小規模農家であればそれでも対応できるが、大規模生産者は農機や労働力を一時期に集中させられない。早生の中で一段早い極早生(ごくわせ)から、晩生までの多品種をうまく時期をずらしながら作り分ければ、農機や労働力の投入時期を分散できる。適正管理もでき、収穫適期も逃すことがなくなるため、コスト・品質の両面で大きなメリットになる。

 新潟県が推奨する多収品種の作期は、早生と晩生に分かれる。極早生の「ちほみのり」をはじめ、早生の「ゆきん子舞」「つきあかり」、晩生の「あきだわら」「あきあかね」となっている。ここに中生の品種が含まれていないのは、県主力のコシヒカリが中生だからだ。コシヒカリを昨期の中核に据えてその前後で多収品種を生産できるようにしている。

上越地区を中心に生産が急拡大している良食味多収米「つきあかり」の圃場(新潟県上越市)での様子。(写真提供:農研機構)

 こうした県の指導もあってか、新潟県の良食味多収米の生産量は大きく伸びている。現時点では早生の「ゆきん子舞」と「つきあかり」が多く、晩生の「あきだわら」が続く形になっている。特に「つきあかり」の伸びは著しい。中には「JAえちご上越」のように、管区内で生産量を大きく伸ばし、平成30年(2018年)の出荷契約数量では3198トンと、対前年比1000%超で増やしている例もある。JAえちご上越は2018年産から「つきあかり」の生産を本格化しており、今年度は1300ヘクタール分もの種子を用意している同品種のパイオニアだ。

■新潟県で生産された水稲うるち米玄米の検査数量
品種 総計値(トン) 1等米比率(%) 2等米比率(%)
コシヒカリ 24万2900 79.0 19.9
こしいぶき 9万0877 79.4 19.9
★ゆきん子舞 2万0691 87.3 12.1
新之助 1万0266 95.8 3.5
★つきあかり 7035 36.6 58.8
みずほの輝き 6752 84.1 15.1
★あきだわら 3438 42.9 52.4
ゆきの精 1081 78.3 21.0
ミルキークイーン 927 73.4 23.6
ひとめぼれ 767 80.6 17.1
表中の★印を付けた「ゆきん子舞」「つきあかり」「あきだわら」といった「良食味多収米」とされる品種が広く作られるようになっていることがわかる。データは農林水産省が今年1月31日に発表した「平成30年産米の農産物検査結果(速報値)」より抜粋したもの。

魚沼コシヒカリの大生産者も多収米を拡大

 大規模な生産者ほど、良食味多収米の作つけ面積を急拡大している。

 魚沼コシヒカリの産地として知られる新潟県十日町市の農業生産法人、株式会社千手はそうした法人の代表と言えるだろう。千手は自社の水田だけでも100ヘクタール以上、受託分を含めると約230ヘクタールで生産している大規模法人だ。

 主力はもちろんコシヒカリだが、同社では作期を分散させるために、晩生の「あきだわら」と早生の「つきあかり」の栽培面積を増やしている。同社代表取締役の櫃間英樹(ひつまひでき)社長はその内訳をこう説明する。

 「つきあかりは一昨年はゼロだったのですが、昨年16町歩(約15.9ヘクタール)に増やしました。どうせやるならたくさんやろうということで思い切って拡大しました。あきだわらは一昨年と同じ19町歩(約18.8ヘクタール)。これに対してコシヒカリは57.7町歩(約57.2ヘクタール)です」。同社では、このほかに、餅米や飼料用米、蕎麦などを生産している。

 商談や打ち合わせなどで東京を訪れることが多い櫃間さんは、様々な付き合いの中でブランド米の消費について見聞きするうちに、特Aブランド(日本穀物検定協会が毎年行っている『コメの食味ランキング』で、最高評価を獲得した銘柄)のコシヒカリや他の銘柄米が実際どれだけ必要なのかと思い悩むようになった。「消費動向を見てみると、特A米ができたといっても産地の自己満足ではないのかと思うこともある」と櫃間さん。ブランド米偏重の傾向を問題視している。

 「実際に東京での飲食店を見ると、旨い国産米を使っていると言う店はあっても、どこの、何をというところまで言っている店はそれほど多くない。わりとぼんやりとしていると思いました。また、一般のお客さんがそれを見ているかというとそうでもない」と言う。であれば、「本当にそれにこだわる必要はあるのか?」というのが櫃間さんの思いだ。

 そんな中、米卸の会社から「あきだわら」を魚沼で作れないかという話があり、それをきっかけに多収米の生産に取り組むようになった。「そもそも作業分散がしたかった」という櫃間さんにとっては渡りに船でもあった。5年ほど前に5~6反ほどの広さであきだわらを栽培してみたところ、コシヒカリの1.5倍の収量が獲れ、食味も評価された。「それと同時に、作期分散することでコストダウンが図れるということで、そこから倍・倍で増やしてきた経緯があります。あきだわらは昨年、19町歩(約18.8ヘクタール)やりましたが。今年も同じくらいやります」と意気込みを語る。

大規模生産法人、株式会社千手(せんじゅ)代表取締役の櫃間英樹さん。大学で機械工学を学び、科学的な方法論を米作りにも取り入れている。同時に、米づくりの現場は、消費地の情報を密に取り込むマーケティングが大事だと考えている。(写真:高山和良)