コシヒカリを超えるおコメ!? 新潟で急拡大する「良食味多収米」

中食・外食向け業務用米として人気高まる

 十日町はブランド米の頂点に立つ魚沼コシヒカリの産地でもある。当然、櫃間さんも自らの強みであるコシヒカリを捨てるつもりは毛頭ない。しかし、魚沼コシヒカリという大看板を持つ産地ならではの悩みを次のように説明する。

 「昔はこの辺でも他の品種も作っていました。でも魚沼コシヒカリの価格が他の倍となると、いきおいそちらに引っ張られる。トップブランドの魚沼コシヒカリは品質がよくて当たり前です。でも全部がトップの品質というわけではありません。米作りの現場としては品質の高いものをどのくらい作れるかというところからスタートしないとけない。水田の面積が100ヘクタールを超えるようになると同じ品種だけだとどうしても限界が出てきます。稲の刈り取り適期は10日からせいぜい2週間。その一時期に機械や労力を投入しなくてはいけないというデメリットが、徐々に顕在化してきました。それを解消するには品種を分けなくてはいけません」

 さらに、「何がベストの品種かはまだわかりませんが、つきあかり、コシヒカリ、あきだわらだったら作期を分散できます」と続ける。このほか、極早生の多収品種で注目している品種があるという櫃間さん。米づくりと真正面から向かい合うために、流通関係者と密な連携を取り消費動向を丹念に見ながら、ベストの品種を追求していく考えだ。

実需と生産、両方のニーズに応える品種開発の現場

 新潟県で生産量が拡大している良食味多収米の「つきあかり」や「あきあかね」「あきだわら」といった品種を開発したのが国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)だ。これら良食味多収米の品種開発を担当した同機構 中央農業研究センター北陸研究拠点の稲育種グループ長、前田英郎(まえだひでお)さんは、こうした品種開発の背景を次のように語る。

 「米の消費量が下がる中で業務用米の需要が増えています。われわれとしてはこうした業務用米の品種開発に注力しています。一方で農地の集約化が進み100ヘクタールを超えるような大規模生産法人が増えている。こうした法人では何百トンという米の販路を確保していかなくてはいけません。単価の高いものから安いものまで組み合わせながら販路を確保して経営を安定させる必要に迫られている。そのためには、中生のコシヒカリだけではなく、早生や晩生の品種にも取り組まなくてはいけない。中には10品種くらい扱うところもあります。品種を開発する側としてはこうした実需側と生産者側、両方の要望に応えていく必要があります」

中央農業研究センター北陸研究拠点の稲育種グループ長、農学博士の前田英郎さん。新品種の開発は非常識への挑戦と語る。「研究はすべてそうですが、いわゆる常識の先に存在するものはありません。どこかで非常識に挑戦しないと新しいものは出てこない」と前田さん。(写真:高山和良)

 前田さんは、こうした業務用米にはこれまでのブランド米とは違った特性が求められるとみている。例えば、現在、新潟県で急速に栽培面積が増えている「つきあかり」について、長所と短所を併せ持つ米であり、業務用米だからこそ日の目を見たのではないかと分析する。

 「つきあかりの長所は食味です。穀物検定協会に評価をお願いしたところ非常に高い評価をいただきました。さらに実需の皆さんが求める粒の大きさがある。しかも早生で、多収性を持っています。一方で弱点は、胚芽の付いている部分、米の一部が白く濁る腹白というものが多く出てきやすいところです。米の品質検査では1等米比率が重視されますが、つきあかりの場合は2等米に分類されてしまう米が多くなります。ブランド米ではあり得ない弱点ですが、業務用として使われる分には全然問題はないわけです」

 このように、業務用が強く求められる市場では、新しい性質を持った品種が頭角を現す可能性がある。

 前田さんが開発してきた良食味多収米の中で、今後大きく広がると見ているのが「にじのきらめき」という平成30年(2018年)に登録されたばかりの新しい品種だ。「中生で、高温耐性を持っている。それから大粒で良食味。しかも多収量で1反(約10アール)あたり12俵(約720キログラム)くらいは獲れます。しかも耐病虫性も揃っている」。すでに種子が欲しいという声に対して対応しきれないほどの反響があるという。今年以降どれだけ伸びてくるのか、注目のニューフェースと言っていいだろう。


 ここまで見てきたように、米どころ新潟県において良食味多収米の生産はこれまでになく活発なものとなっている。こうした動きは同県だけに限らない。米商品のトレンドを大きく動かすのは「もはや家庭食ではなく中食・外食だ」というのが米づくりの関係者に共通した見立てだ。今後、良食味多収米がどのような動きを見せるのか、そして、どのような新品種が出てくるのか、興味は尽きない。