自粛疲れの心を癒やす「おうちでシイタケ」がヒット

老若男女が菌床栽培キットに飛びついた理由

 キノコの菌床栽培に決めた理由はいくつかある。太一郎さんたちの農地は二反ほどで面積は狭いが、菌床栽培ならば原木栽培に比べてスペースを取らず、収穫までの期間も数カ月と短い。横浜という大消費地に近いが市内でも専業者は多くなく、菌を入れる時期をずらせば、シーズン中は毎日収穫できるなど、新事業としての利点も多かったのだ。

 「研修で実感したのは、サラリーマン家庭で育った僕が、農業を一からやる以上、人の2倍、3倍やらないと追いつかないということです」という太一郎さんは、栽培技術を身につけながら、菌の特長をつかむために一通り試し、この環境、この農園のハウスに合う種類を試行錯誤していった。

 一般的にシイタケは直射日光を遮って栽培するが、永島農園で使っているのはもとが花用のハウス。太陽光を取り入れるつくりを活かし、光を浴びることで味が濃厚になる菌種「大峰」を、より自然に近い環境で育て、独自のブランド「おひさまシイタケ」として販売している。

⽣で出荷できなかったものは天⽇で⼲したあと、乾燥機にかけて⼲しシイタケにして販売している(写真︓佐々⽊睦)

「どう作るかも大事だが、どう売るかも同じくらい大事」

 「おひさまシイタケ」は、ほとんどが飲食店や小売店への販売と、オンラインショップや直販店などでの直接販売だ。

農園内にある直売所。体験学習に来た⼦どもたちが書いたポスターも飾られている(写真︓佐々⽊睦)
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 横浜市内や近郊の小売店であれば、地元であることを活かし、朝収穫して午前中には店頭に並べられる。飲食店では昼に届ければ、夜のメニューで朝採りシイタケとして使ってもらえる。肉厚で旨味が濃い特徴を理解してもらったうえでの取り引きが可能な相対取り引きを中心に販路を開拓した。成田の研修先の社長から「同じ作物でも市場に出る価格は2~3倍違う。どう作るかも大事だが、どう売るかも同じくらい大事」という教えがあったからだ。

 当初は、地物の野菜を求めている知り合いの飲食店から始まり、紹介やつながりで広げていった。夜は飲食店に顔を出し勉強会があれば積極的に参加。インプットもしつつ、意識してネットワークを広げていった。

楽しい、おいしい体験で始まれば農業のイメージが変わる

 現在は、父から譲り受けた花用ハウスのほか、もう1棟キノコ用のハウスを造り、2018年夏には生産者や料理人の仲間と横須賀にもハウスを1棟持って栽培している。

 「横浜でも港北区のあたりには若い農家の方もいらっしゃいますが、金沢区周辺は宅地化が進み、40代以下の若手の農家がほとんどいません。でも、地元の農業を僕らの代で終わらせてしまいたくない。そのために大事なことは、最初にワクワクするとか、楽しいとか、おいしいと感じてもらうこと。大変だ、儲からないで始まるより。楽しい、おいしい体験で始まったら農業のイメージが変わるんじゃないかと思うんです」

 ワクワクする体験として農業に出会ってほしい。そんな思いから、永島農園は、社会科見学や職業体験は、断らずに受け入れ、毎年10校くらい受け入れている。シイタケ狩りや、キノコをとったその場でのBBQなども企画・運営してきた。

 今後は、野菜の集出荷の拠点をバス停のように設けて、産地と消費地を結ぶ「やさいバス」のような物流の仕組みをつくれないかと模索している。

 「シイタケだけで1kgを買う人はそういませんが、ほかの農産物とセットにすることで輸送コストをリーズナブルに押さえることができます。大消費地でもある横浜の立地を活かして、未来志向の仲間と一緒にWin-Winになることができる方法を構築して、おいしいを多くの方に感じていただきたいですし、今回の「おウチでシイタケ育てよう!」販売の経験で得た、通販の運営ノウハウや、スタッフさんとのチームワークを新しい販路開拓にも活かしていきたいと思います」