自粛疲れの心を癒やす「おうちでシイタケ」がヒット

老若男女が菌床栽培キットに飛びついた理由

ミスや意見・感想から学んだことが次に生きる

 子どもたちに喜ばれるのではとの予測通り、「毎日子どもがシイタケに話しかけています」「ニョキニョキ生えてくるのが可愛い」などの反響も多かったが、予想外に年配の購入者も多かった。「この春は、孫に会えないので、一人暮らしの楽しみになっています」「昔を思い出して楽しんでいます」など、多くの人の心を癒やした。

 太一郎さんは、「ミスもありましたが、学んだことは山ほどあります」という。

 例えば、当初入れていた栽培キットの説明書がそうだ。「キノコ農家の私たちにとって当たり前だと思うことは書いていなかったのです。質問を頂いて、菌床はどちらを上にして置けばいいのかなど、みなさん知らないことに気づきました」

発送を待つ菌床栽培セット。SNSで話題になり、ネットニュースで取り上げられたことで全国から注⽂が殺到した(写真︓佐々⽊睦)
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 永島農園はFacebookでこれまでもマルシェやイベントのお知らせ、新作レシピなどさまざまな情報発信してきた。今回はさらに、菌床栽培について購入者からの質問に答えたり、感想にコメントしたり、即興で栽培の仕方を解説する動画を作り掲載したりした。

 FacebookなどSNSでのやりとりは活況を呈したが、高齢者など普段あまりインターネットを使っていない人への情報提供は盲点になっていた。「インターネットでの情報収集やSNSで疑問を尋ねることに不慣れな方にも多く興味を持っていただいた。説明書が頼りのおじいちゃんおばあちゃんには、紙1枚の説明書では情報が全然足りていないということにも気づきました」と陽子さん。

 春のシイタケ菌床栽培セットの販売は終了したが、夏場には暑さに強いきくらげの販売を予定している。さらに10月から再開を予定しているシイタケ菌床販売に向け、「今回の体験で、さまざまな改善ポイントのマスデータを得られたと思っています」(太一郎さん)

シイタケ菌を注⼊して培養した菌床を仕⼊れてハウスで育てる。秋〜初夏までがシイタケ。夏はキクラゲを栽培する(写真︓佐々⽊睦)

外資系銀行から農業研修、キノコ農家への転身

 もともと太一郎さんは、外資系金融機関に勤めていた銀行マン。陽子さんとは社内結婚だった。この地で500年続いた農家の跡取り娘である陽子さんとの結婚に際し言われたのが、いずれ農家を継いでほしいということだった。

 太一郎さんは、農業を勉強するために社会人向け公開講座に通い、講師に招かれていた方に事情を話して直接アタック。千葉県成田の農業生産法人で農業研修を開始した。26歳のときだ。「会社員勤めを終えてからやるより、始めるなら早く飛び込んだ方がいい」と考えての決断だった。

「通年で空調が必要になるシメジやマイタケは、⼤規模に展開する会社さんにかないませんが、シイタケならこの地域では真冬に暖房がかかるだけで栽培できます」と太⼀郎さん(写真︓佐々⽊睦)

 成田での農業研修は3年間に及んだ。「学ぶことはたくさんありましたが、農薬を使わずに100人近い規模で展開する農業法人で、面積が大きいし、技術もすごい。神奈川の住宅地にあるウチでは、そのままでは真似できないと思っていました」

 何ができるのかを考えているときに、キノコ栽培をしているメンバーから、その場で採れたてを食べさせてもらい、こんな美味しいキノコはたべたことがないと衝撃を受けた。その経験から2012年10月、いよいよ横浜に戻ってキノコ栽培を始めた。

 父が手掛ける花用のハウスを1棟、転用させてもらってのスタートだった。新たな栽培へのチャレンジには反対もあった「スピード感を取りたかった。最初からゴリゴリ行くつもりで、初年度はシイタケだけを栽培し、翌2014年からは夏場は暑さに強いキクラゲを栽培することにしました。同じ菌床棚を流用できるため、二毛作になるうえ、どちらもほとんど空調が必要ないので、ランニングコストが抑えられる。早めに初期投資を回収しやすいとの思いもありました」