廃棄される野菜から生まれた「着る野菜Tシャツ」

専門商社の豊島が農業女子と連携

廃棄されることになる野菜を農業女子が提供し、その野菜から抽出した染料でつくった「着る野菜Tシャツ」。再活用への視点が盛り込まれたコンセプトや、ニンジンやネギなどのイラストがあしらわれたかわいいデザインなどが好評で、多くの農業者から賛同の声を集めた。しかしビジネスとして展開するには多くの課題があることも分かった。今回のプロジェクトおよび、その前身となった「FOOD TEXTILE」の取り組みから見えてきた、廃棄される野菜の活用の可能性を探る。

 形や大きさが規格外という理由で、出荷されずに廃棄される野菜は膨大な量に上っている。これらを少しでも減らすため、直売所で販売したり、ジャムやピクルスなどの加工品として販売したりする農家も少なくない。また、廃棄される野菜を粉末にして、クレヨンの色として使った「おやさいクレヨン」など、環境に配慮した安全性の高いプロダクトの生産に活用する動きなども出てきている。

 そんな中で話題を集めているのが、廃棄野菜でTシャツをつくるという「着る野菜Tシャツ」だ。専門商社である豊島が、農林水産省が推進する農業女子プロジェクトとコラボレーションして制作した。

廃棄される野菜を使って染めたTシャツ(写真提供:豊島)

特許技術を使って野菜から染料を抽出

 「着る野菜Tシャツ」は、野菜からつくった染料で染めた、野菜本来のやさしい色合いが特長。流通の過程で市場に出回らず廃棄されてしまう野菜、形や大きさが基準に満たないことで捨てられてしまう規格外の野菜を、少しでも活用するために生み出されたプロジェクトだ。

 この「着る野菜Tシャツ」を展開した背景には、豊島が、平成27年(2015年)から取り組んでいる「FOOD TEXTILE」というプロジェクトがある。「FOOD TEXTILE」では、キユーピーやカゴメ、生活の木などの食材を扱うメーカーとコラボレーションし、メーカーから提供された野菜の残渣(ざんさ)を国内外の特許を取得している技術で染料化している。

 染料には天然染料を80%以上使用、堅牢度(色の丈夫さ)を証明する試験も実施し、自然由来でありながら色落ちしにくく、野菜のやさしくナチュラルな色合いが長く楽しめるというメリットがある。製品としては、バッグやエプロン、ベビー用品などを中心にラインナップしている。

 「FOOD TEXTILEでは、法律に基づいて産業廃棄物として食材の残渣を出しているメーカーとの協力関係を大切にしています。食品を大量に扱うメーカーのみなさまも、廃棄される野菜やフードロスの問題には非常に心を痛めています。私たちが活用できている残渣は問題となっているフードロスのほんの一部でしかありませんが、異業種の企業同士が一つの問題に取り組み、一つの製品として形にすることで、少しでも世の中の意識に働きかけていければと思っています」

豊島・営業企画室の平沢希久子氏

 そう話すのは豊島の営業企画室の平沢希久子さん。「FOOD TEXTILE」のプロジェクトに中心的に関わり、残渣の流通や管理、染色方法などの仕組みづくりを担当し、数人のチームで製品開発を進めてきた。発売当初は、ファッションアパレル向けの展示会に出展していたが、特殊な技術を使うため、一般的な製品と比べると価格が高くなることから、ビジネスとしては苦戦が続いていたという。

 「平成28年(2016年)からパリや上海などの海外の展示会に出展するようになり、少しずつ評価を得られるようになりました。海外では、エシカル(倫理的)な考え方や背景に物語や意志のあるものづくりを認める土壌があるため、受け入れられやすいのだと思います。また国内でも雑貨を中心として展示会に出展すると、興味を持つ方が多く反応が良いと実感しています。ここ数年、いろいろな展開を試みることで、徐々に知っていただいていると感じています」と平沢さんは語る。

FOOD TEXTILEの商品。左は小松菜を染料にしたバッグ、右はムラサキキャベツによるエプロン(写真提供:豊島)

発信力の高い農業女子とのコラボレーション

 そんな中、企画されたのが「FOOD TEXTILE」の技術を活用した「着る野菜Tシャツ」だった。プロジェクトを担当する豊島の森本浩光さんは次のように話す。

 「FOOD TEXTILEの技術や仕組みを応用し、農家の方が直面している問題に、安く売ることや食べること以外の違った視点からお手伝いできるのではないかと考えました。FOOD TEXTILEの新しいチャレンジとして展開していくため、まずはクラウドファンディングを利用し、どのくらいニーズがあるかを探ってみることからスタートしました」

豊島・十四部三課の森本浩光氏

 農業のプロの意見を聞くため、農林水産省が推進する農業女子プロジェクトで農業女子と一緒に「着る野菜Tシャツ」の企画を始動。SNSの利用やマルシェの開催などを積極的に行い、高い情報発信力をもつ農業女子とコラボレーションすることで、より広い層にプロジェクトを知ってもらいたいという狙いもあった。

 このプロジェクトに協力した農業女子は、高木智美さん(北海道、ニンジン)、野見山絵美さん(北海道、トマト)、實川真由美さん(千葉県、カボチャ)、吉川文さん(三重県、白ネギ)、浅川元子さん(兵庫県、ナス・カボチャ)の5人。5種類の野菜を使って、Tシャツのラインナップを揃えることになった。

 5人の農業女子は、廃棄された野菜の提供だけでなく、実際に豊島のオフィスに集まって廃棄されてしまう野菜の現状やプロジェクトへの思いを議論したり、Tシャツのデザインなどについて意見交換したりと、さまざまな形でプロジェクトに参加。SNSなどでプロジェクトの概要を積極的に拡散した人もいたという。

 Tシャツには、使用している野菜のイラストや刺繍を配し、どの野菜で染めたのかということが直感的に分かるようなデザインに仕上げた。これは、農業者が作業するときに着るだけでなく、道の駅やマルシェなどに出向いたり、野菜を直販したりする時など、お客さんと接するときに着用するユニフォームのようなニーズも見込んでいる。

5種類の野菜を使ってTシャツを制作した(写真提供:豊島)

 「生産者の方がフードロスの問題に心を痛めていることは知っていましたが、今回のプロジェクトで北海道の畑を訪ね、ニンジンが廃棄されている現場を目の当たりにして、その規模の大きさに愕然としました。農業女子のみなさんにも積極的にご協力いただき、SNSを通じて、自分も参加したいという農業者の声も数多くいただきました。農業者や消費者の生の方の声を聞く機会が今までなかったので、そのつながりができたことは有益だったと思います」と森本さんは今回のプロジェクトを振り返る。