兵庫県篠山市「集落丸山」に見る農泊の成功法則

消滅寸前の集落を救った古民家宿泊ビジネス

「消滅集落」という言葉をご存じだろうか?  合併や編入によって集落そのものがなくなってしまったり、高齢化や転居などで住人がゼロになってしまったりする集落のことを指す。過疎化に悩む地方では、農村や漁村の限界集落化が猛スピードで進んでいる。こうした限界集落では、里山の景観は放置され、農地の維持など望むべくもない。そんな窮状を救うものとして「農泊」が注目されている。ここでは約10年前から「農泊」を手がけ、農村再生を見事に成功させた兵庫県篠山市の「古民家の宿 集落丸山」の成功とその奥にあるものを見ていく。

新緑の丸山集落。里山の中に古民家が絶妙のバランスで配置されている。日本の原風景とも言える美しさだ(写真:高山和良)

「農泊」は農山漁村を再生するか!?

 高齢化・過疎化で農山漁村の限界集落化が進む中、こうした集落を再生する目玉として注目を集めているのが「農泊」だ。

 農泊とは、「農家民宿や古民家の宿などに宿泊して、日本の伝統的な暮らしぶりを体験したり地域の人と交流したりして、農山漁村の魅力を味わう滞在型の旅」とでも言えばいいだろう。農林水産省はこの「農泊」を地域振興や集落再生の切り札と捉え、大きな金額の予算を振り分けている。今年度も「農泊の推進」に対する交付金は5億円以上にのぼり、その期待のほどがわかる。

 もし各地域で農泊がうまく機能すれば、訪問する人は増え、その魅力が外部に伝わっていく。結果としてインバウンド(訪日外国人旅行客)の増加や、若年層、青年層のUターンも期待できる。同時に空き家や耕作放棄地なども有効に活用されれば、衰退していた集落が息を吹き返す可能性がある。農地や担い手の減少傾向に歯止めが利かない農村にとっても、農泊は未来の農業振興にとって重要な役割を占める。

 こうした期待感もあって、各地で農泊の取り組みが進んでいる。この6月15日には「住宅宿泊事業法」、いわゆる「民泊新法」が施行された。各地域によって違いはあるものの、空き家などを使った農家民泊への規制も緩和されるため、農泊への動きは今後さらに活性化すると見られている。

 一方で、「農泊」の取り組みを成功させることは口で言うほど簡単ではない。最初は規制緩和や補助金の取得を弾みにうまく回せたとしても、それを持続可能な形にできる地域はごく一握りだ。ヒト、モノ、カネを上手に使い、収益を確保しながら長期にわたって継続できる仕組みづくりが求められる。

 「農泊」事業のロールモデルとして広く知られているのが、兵庫県篠山市にある「古民家の宿 集落丸山」だ。ここでは集落の住民と、行政との間に立つ中間事業者が緊密に連携して農泊事業を成功に導き、集落の活性化につなげている。里山は美しく維持され、耕作放棄地も有効に利用されている。ここでは、そもそもの始まりから現在に至るまでを振り返り、成功のカギに迫ってみたい。

「集落消滅」を食い止めた古民家宿泊

 丹波黒豆や丹波栗で知られる兵庫県篠山市の中央部、そのやや北側に、260年以上の歴史を持つ小さな集落がある。それが丸山地区、この土地では丸山集落と呼ばれる谷あいの農村だ。

 丸山集落では10年ほど前に空き家となっていた古民家をリノベーションして、2009年10月に宿泊事業「古民家の宿 集落丸山」をスタートさせた。丸ごと一棟貸しする古民家が2戸あり、すぐ隣にはやはり古民家を改装したフランス料理店「ひわの蔵」、また集落内には「ろあん松田」というミシュランに載るほどの蕎麦懐石の店があって、この2店には集落の外からも広く客が集まる。「集落丸山」の宿泊に夕食は付かないが、客はこの2店で夕食を楽しむことができる。里山の美しい景色と堂々たる造りの古民家、そして集落内で美食が味わえるレストランという、景色、宿、食の三拍子が揃った宿泊スタイルが人気を博している。

上:「古民家の宿 集落丸山」の宿泊棟2戸のうちの1戸で、「明かり」と名付けられている。下:もう一つの宿泊棟「ほの穂」の土間。宿泊するとそれぞれの土間で作られた朝食が提供される(写真:高山和良)

 もともと丸山集落は、里山の中に築150年という古民家が絶妙のバランスで建ち並ぶ美しい景観で知られた所だった。しかし、2009年時点の世帯数は5戸。集落にある家屋12戸のうち7戸が空き家で、人口はわずか19人という、まさに限界集落だった。当時は、自慢の景観も十分に手入れできないため、あちこちにほころびが生じるような状況になっていた。

 その後、集落と中間事業者が有限責任事業組合*(以下、LLP:Limited Liability Part-nership)を作って事業を運営する仕組みや、集落の住民自らが受付や宿のサービスといった運営に当たるスタイルが話題を呼び、農泊や農村再生のロールモデルとして注目を集めるようになった。

丸山集落の景観は美しく、まるで里山に抱かれているような感覚を覚える(写真:高山和良)

 集客は年間で800人ほどになり、存続の危機に瀕していた集落には活気が戻った。わずかではあるが、住民の数も増え、耕作放棄地もなくなった上に新たな農地も開墾されている。活気が戻ることで里山の景観もより美しく保たれるようになった。集落の外からは、のどかな風景の中で農業体験をしに訪れる人も増えた。こうして、今では、明るい未来を描ける状況にまで回復している。

*注 有限責任事業組合:有限責任事業組合契約に関する法律に基づいて組成される組合で、法律が施行された2005年8月から利用できるようになった事業を目的とする組織体。1)構成員全員が有限責任で、2)損益や権限の分配が自由に決めることができるなど内部自治が徹底し、3)構成員課税の適用を受ける(利益があった場合には組合ではなく、その構成者である出資者に課税される) という3つの特徴を兼ね備えている。LLPと略されることが多い

丸山集落の世帯数などの推移 ~消滅の危機から維持、そして未来へ~
空き家 宿泊棟 世帯数 人口 耕作地 放棄地
2009年 7戸 0戸 5戸 19人 2.1ha 2.1ha 4.2ha
2017年 3戸 2戸 7戸 26人 4.2ha 0.0ha 4.2ha
2020年 0戸 3戸 9戸 30人 5.0ha 0.0ha 5.0ha
「古民家の宿 集落丸山」事業によって集落の世帯数は増え、耕作放棄地も復活した。わずかではあるが新しい農地が開墾され始めているため、2020年の農地は5㏊に広がる見込み。表は2018年2月現在の数値。2020年は計画値
田植えがすんだばかりの水田。奥に見える小屋は灰屋(はんや)と呼ばれるもので肥料置場などに使われていたものだ(写真:高山和良)

 なぜ「集落丸山」は成功できたのだろうか。そもそもの始めから事業の成功に至るまでの経緯を振り返ってみる。そこから「農泊」事業を成功させるための要件が浮かび上がってくるはずだ。