2020.03.31
文=高山和良
最近、いろいろなところで「金のいぶき」という玄米品種名を見聞きするようになりました。そもそもどんな経緯でこの品種に注目することになったのでしょうか?
尾西:最初は、宮城県古川農業試験場で開発者の永野邦明先生(現在は東北福祉大学感性福祉研究所特任教授)にお会いしたことです。私は当時、尾西食品という非常食の会社を経営していまして*、その事業所が古川農業試験場から歩いて行けるような近い距離にありました。
私が玄米に手を出した理由は単純でして、非常食を扱っていたので、常食も取り扱いたかったのです。非常食は万が一の時のための商品で、お客様にお渡しした時に「食べないでください」と言わなければなりません。作っている側としてはせつないところがあります。ですから、私は常々、常食をやりたいという思いを持っていました。
当時の尾西食品では、発芽玄米の商品を取り扱っていて、健康食品のファンケルさんや他の何社かで「日本発芽玄米協会」(現・一般社団法人 高機能玄米協会)という組織を作り、発芽玄米に適した品種がないか探していました。その流れの中で、永野先生が東北胚202号という品種を持ってこられたんです。胚芽が大きくて、玄米として食べられて、かつ、もち系のものを開発されていた。普通のお米の胚芽は3パーセントぐらいしかないんですが、この品種は12パーセントもある超巨大胚芽米だったんです。
それを見てどう思われたのですか?
尾西:その時は、見てくれが悪いので正直「使えない」と思ったんですよ。お米の形が貧相で、胚芽が大きくてかっこ悪い。だから、2年ぐらいほったらかしにしてしまいました。今から考えると永野先生には誠に申し訳ないことをしました。
その後、米の需要を伸ばしていくためにどうしたらいいかということで、いろいろ調査した時に、植物性油脂が伸びているということで東北胚202号に着目しました。ぬかの量が普通の倍取れるので、米ぬか油の原料にしようとして米油プロジェクトを作ったんです。「水田の油田化計画」なんてことを考えました。こちらは3年ぐらい一生懸命やりましたが、経済的には成立しませんでした。
たまたま何かの会議で永野先生と同席して、自分で食べてもいないのに「東北胚202号は、見てくれ悪いからまずいんでしょ」というようなことを言ってしまったんです。そうしたら、怒られまして。「そんなことありません。食べてみてください」と。実際に食べてみたら、「何だこれ?」というぐらいおいしかった。普通に炊けて食べやすいし、甘くておいしい。胚芽が大きいので、ゴマみたいに食感がプチプチしている。驚きました。そこからの変わり身は早かったんです。米油プロジェクトを急遽中止にして、「主食でいく」と宣言して切り替えました。