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これがプロサバンナだ

池上

まずは「プロサバンナ」の全貌を、モザンビーク在住のJICAの宮崎明博さんに説明していただきましょう。

ちなみに今、私は宮崎さんと一緒に、ナンプラの街から農業地帯へとランドクルーザーを走らせています。ナカラ回廊の幹線道路から一歩入ると、あっというまに舗装道路はなくなりました。未舗装のがたがた道です。

宮崎

これでも、日本で言うと「県道」クラスの、立派な公道なんですよ。

池上

え、そうなんですか。では、車に揺られながら、「プロサバンナ」について教えていただきましょう。

宮崎

「プロサバンナ」は、前回の物流開発の記事で池上さんが解説してくださったモザンビーク北部の「ナカラ回廊」開発プロジェクトの中核をなす、重要な事業なんです。

池上

ナカラ回廊の開発の中で最も重要な事業?

宮崎

ええ。まず、幹線道路と港湾設備の物流インフラの開発。こちらの話を前回レポートいただいたのですが、この物流インフラの開発と並行して「プロサバンナ」による総合的な農業開発、さらには地域の農民の社会開発――――具体的には教育と医療水準の向上を目指したプロジェクトを組み合わせることで、地域経済の持続的かつ包括的な開発と発展を目指しているわけです。なぜ、物流と農業と教育や医療をセットで開発する必要があるのか? その理由、こうやって実際に未舗装の道路を走っていただけるとおわかりいただけるかと(笑)

池上

はい。ただいま身をもって理解している最中です(笑)。道路が未舗装で貧弱なままだと、たとえ農業生産を拡大しても、作物の出荷もままならないですね。大型トラックは入れませんし、普通のワゴンでも、雨期には足をとられて立ち往生しかねません。また学校に行くのにも一苦労ですし、医療機関に行くのも容易ではない。農業も含め、経済開発と社会発展は物流インフラがセットじゃないと機能しない、ということがよくわかります。

宮崎

本当にそうなんです。物流インフラを整えておかないと、農業開発も成就できないんですね。せっかくつくった作物を市場に流通することが物理的にできないわけですから。そこでJICAでは、現在、道路、橋梁や港の改善事業を行うナカラ回廊の物流インフラ整備と、農業開発であるプロサバンナ事業を同時並行して実施しているわけです。ここでできた農産物が国内でスムーズに流通することになり、将来的には輸出産業に育つ可能性も出てきます。

池上

では、プロサバンナについて詳しく御聞かせください。

宮崎

この計画の目的は、大きく分けて2つあります。1つは、モザンビークの農業、とりわけ主食となる穀物の生産性を上げて、主食の自給体制を確立し、貧困の削減と栄養の改善を図ること。もう1つは、大豆のような商品作物の生産性を高めることで現金収入への道を開き、さらに規模拡大を目指して、将来的には、穀物を含む商品作物の輸出も可能となる生産大国となることです。

池上

モザンビークの農業人口はどのくらいですか?

宮崎

モザンビークでは、国民の8割が農業に従事しています。人数は多いんですね。ところが、ほとんどの農民がトラクターなど農業機械を所有しておらず、農業技術も低く、また現金収入が少ないため、高価な輸入肥料などを使うことができません。このため、人力で耕した耕地で作物を育て、広大な土地を延々移動しながら、農業を営んでいます。しかしながら、数年経つと土地が痩せて使い物にならなくなるため、生産性が低く、自給自足型で焼き畑を行う伝統的な農業が主流となっているのです。

池上

車窓からも手作業で開墾された耕地が見えました。庭ほどの規模の土地に、キャッサバやトウモロコシを適当に植えているだけ。あれでは、自分たちの食べるものを栽培するのに精一杯でしょうね。

宮崎

その通りです。従来型のモザンビークの農業事情が続く限り、主食となる穀物の生産性の向上は難しいと言わざるをえません。しかも未舗装の道路が象徴するように、物流インフラが整っていないため、物流コストが農産物の価格に上乗せされます。結果、モザンビークでは、物価に比して食費が高くなっています。さらに人口増加が著しく、今後は個々の農家が新しい農地を確保することが難しくなっていくでしょう。

池上

課題山積ですね。

宮崎

「プロサバンナ」がスタートする直前の2008年のデータを見ると、モザンビークは、国連開発計画(UNDP)の人間開発指数が177カ国中172カ国。最も後発の途上国の一つに数えられています。農業開発を実現し、国民が主食を低コストで手に入れられるようになり、農民が現金収入を得られ、栄養の改善を図り、充実した教育や医療へのアクセスが可能になることで、貧困から脱却し、一刻も早く経済成長を促す。モザンビークの農業の課題です。

池上

とはいうものの、今まで小規模な自給自足農業しかなかったところに、一気に近代的な農業を導入するのは、なかなかハードルが高そうですね。

宮崎

日本では、ブラジルと一緒にモザンビークの農業の近代化に協力することにしました。

池上

なぜ、ブラジルと一緒に国際協力を?

ブラジル セラード
宮崎

ブラジルこそは、日本の国際協力によってアメリカと並ぶ世界トップクラスの農作物輸出国に変身した、成功事例なのです。現在、穀物でいえば大豆の輸出量は世界第1位、トウモロコシも世界第3位です。

そのブラジルも90年代前半までは穀物輸入国でした。きっかけは1970年代半ば。当時第一次オイルショックやアメリカが大豆の禁輸などを行ったために、世界的に穀物不足が叫ばれました。当時の田中角栄首相がブラジルを訪れて資金援助を決定し、ブラジルの熱帯サバンナ地域セラード地方を一大農業地帯にするプロジェクトが1979年から立ち上がったのです。

セラードは典型的な熱帯サバンナ地帯で、農業ができるような場所ではありませんでした。資金に加えてJICAが100人以上の専門家を派遣した結果、20年後の90年代までにセラードは1200万ヘクタールの巨大な農業地帯に生まれ変わり、トウモロコシや大豆、コーヒーや綿花、野菜までが栽培されるようになりました。かくしてブラジルは農業大国そして輸出国へとなったのです。

池上

日本の国際協力で、ブラジルが穀物大国に変身したんですね。

宮崎

もちろん、ブラジルのセラードで実現した農業開発の経験が、そのまますべて、政治や社会の条件が異なる現代のアフリカで使えるとは限りません。それでも、セラードでの農業開発はアフリカ農業の近代化に大きなヒントと教訓を与えてくれる可能性が高い、と私たちは考えています。

池上

どうしてですか?

宮崎

まず、ブラジルのセラードは熱帯サバンナ気候ですが、アフリカもまた熱帯サバンナ気候にあたる地域が非常に多いのです。

池上

なるほど。ブラジルとアフリカでは気候が似ているんですね。

宮崎

気候が似通っているだけに、ブラジル・セラードでの経験なり教訓なりがアフリカでの農業開発に活かせることがいくつもあるだろう、と考えています。かくして、2009年から日本とブラジルで共にアフリカの農業開発を援助しようという「三角協力」がスタートしました。

池上

モザンビークのプロサバンナ事業は、日本とブラジルによる「三角協力」の最新事例、というわけですね。

宮崎

モザンビーク北部では、ブラジルのセラードでの経験や教訓がとりわけ活かせるのではないかと考えています。ブラジル:セラードとほぼ同緯度に位置し、熱帯サバンナ気候でもあります。環境条件が似ているのです。また、ブラジルとモザンビークはどちらも母国語がポルトガル語のため、ブラジルの専門家とモザンビークの農家の間で意思の疎通に困ることがありません。

池上

課題はありますか?

宮崎

ブラジルとモザンビークでは社会・経済環境が大きく異なるので、セラードでの開発方式をそのまま導入するわけにはいきません。農民の土地利用に関する風習など、モザンビークの社会経済状況にあった開発方法が必要です。セラードの農業開発でもさまざな制度的イノベーションがありました。モザンビークでも地域住民のためになるさまざまな制度的なイノベーションが必要になるでしょう。

池上

プロサバンナはどれほどの規模の地域で行うのですか?

宮崎

モザンビークの国土の約7割にあたる54万平方kmが、熱帯サバンナ気候にあたり、かつ耕作可能な地域です。このうち、プロサバンナの優先地域が日本国土の約3分の1、11万平方km。ただし、実際に農地となっているのは私たちの現時点での調査結果によると、約2.5万平方kmにすぎません。この広大な耕作可能地で、近代農業を立ち上げていきます。

池上

プロサバンナの進め方を教えてください。

宮崎

この事業は3つのアプローチで実施します。すでに日本からやってきた専門家がはりついて、それぞれプロジェクトを立ち上げています。

[1] 研究能力・技術移転能力向上支援プロジェクト=ProSAVANA-PI
それぞれの土地にマッチした作物をつくるための品種改良や栽培技術の開発、それに試験場の研究能力の向上のための技術協力を行っています。2011年からスタートし、2016年まで継続します。のちほど日本の専門家が現地で詳しく解説します。

[2] 農業開発マスタープラン策定=ProSAVANA-PD
ナカラ回廊沿線の19郡を対象に、農業開発の可能性を調査して、小規模農家と中大規模の農業投資家が共存できるモデルを作り、土地収奪等の問題を引き起こさない農業開発計画をつくります。こちらは2013年秋までで完了します。こちらの現場もこのあと見学いたします。

[3] 実証事業・農業技術普及プロジェクト=ProSAVANA-PEM
[1]と[2]の成果を活用し、小規模農家が市場にアクセスできるような開発モデルを構築したり、農産物の増産支援をするなど、具体的な農業開発を行います。2013年からスタートして、2019年まで継続する予定です。

池上

日本のチームは、ブラジルとどう役割分担して協業しているんですか?

宮崎

それぞれの長所を活かす、というのがポイントです。

日本は、長年アフリカの農業に協力してきた歴史と経験があります。プロジェクトの事業管理にも長けています。きめ細かな技術指導にも定評があります。

一方、ブラジルは熱帯農業の先進国であり、多様な作物の生産国であり、豊富な知見を有しています。小規模農家支援についても農地改革省という担当省庁を設て、さまざまな農業政策を展開して成果をあげています。

池上

お互いのよいところを組み合わせて、最大の効果を上げようというわけですね。では、プロサバンナを遂行するうえで一番のハードルはなんでしょう?

宮崎

土地問題ですね。モザンビークの土地は基本的にすべて国有地で、国民には使用権が認められています。が、この土地の登記が曖昧なために、誰が借りている土地なのかが役所のデータを見てもわからず、結果としてさまざまな問題が生じています。これまでにも、国が農地開発を行おうとしたら、地元で土地を持つ小規模農家と利害関係が相反してしまうケースもあるようです。また、土地を利用する権利を持っていても個人ベースで貸し借りの契約が困難であることも問題のひとつです。

池上

土地使用権が曖昧、土地の取引が困難というのが農地開発のネックになっている、と。

宮崎

モザンビークの小規模農家のほとんどは、肥料を使わずに転作を繰り返しているため、一見ただの荒地に見えるところが実は誰かの畑だった、というケースが少なくないのです。しかし、人口の増加で各農家が活用できる農地がどんどん狭くなっていきます。

池上

どう対応しようとしているんですか?

宮崎

モザンビークでは大規模農家はほとんどいないので、まずは中規模農家に声をかけて、小規模農家を巻き込んだ契約栽培や近代的な農業を拡げていく――――それがプロサバンナの一つの方法だと考えています。あるいは地域の農業組合や企業に声をかけて、地元の小規模農家を束ねてもらい、集約的に農業を営むことも検討しています。

池上

農家を束ねて、経営規模を大きくするわけですね。

宮崎

また、農地面積を拡大するには、トラクターなどの機械の導入や肥料の使用が欠かせません。それぞれの農地に適した品種を導入し、農業技術を改善して生産性を上げていく。また、小規模農家が集まった農業チームに融資をしたり機械を貸したりすることで営農規模を拡大して生産量の増加を見込みます。

技術移転をして、農耕機械を貸して、肥料も投与すると、それまでより各段に収穫量が増えます。そうなれば、成功した農家はやはり周囲に自慢したくなります。どうだ、俺の畑は、と。それを見ていた周囲の小規模農民が、うちも真似したい、教えてくれないか、となればしめたものです。いずれにせよ、本格的な農地開発は、まさにこれから、といったところです。

モザンビークナンプラ州農業局長に聞く
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