セキュリティー戦略のフレームワークも変化している。これを象徴するのが、2024年2月にNIST(米国立標準技術研究所)が公開した「サイバーセキュリティーフレームワーク(以下、NIST CSF)バージョン2.0」だ。
NIST CSFは事前対策だけでなく、事後対策のプロセスまで定義した、非常に実践的なフレームワーク。NIST CSF2.0では「識別」「防御」「検知」「対応」「復旧」というプロセスのほかに、新たな機能として「ガバナンス(統治)」が追加された。ガバナンスは全プロセスに適用される。「リスクマネジメント戦略やポリシー、組織内における役割や権限を確立し、これらを監督することで全体としてバランスを取ることを重視しています」と吉田氏は説明する。
ガバナンスを効かせることで、脅威の進化やそれに伴う対策の不備に早く気づくことができ、リスクを埋める実効力のある対策をよりスピーディに行えるようになる。しかしPDCAサイクルは入念な計画と遂行を重要視するため、戦略の見直しや対策の変更を早いサイクルで回していくことが難しい(図1)。
「セキュリティー戦略のメソッドやフレームワークが変化する中で、PDCAサイクルによるアプローチは、もはや時代遅れなものになりつつあります」と吉田氏は話す。
それではどうやってリスクマネジメント思考でセキュリティー戦略を立てればよいのか。新たなアプローチとしてIIJが提唱するのが「OODA(ウーダ)」ループである。「Observe(観察)」「Orient(方向づけ)」「Decide(意思決定)」「Act(行動)」のプロセスからなる、素早い意思決定・行動のためのフレームワークだ(図2)。
もともとはアメリカ空軍ボイド大佐が提唱したもので、航空戦に臨むパイロットの意思決定を支援するために策定された。変化の速い状況において強みを発揮する手法であるため、現在はセキュリティー戦略にも応用されつつある。「PDCAサイクルと異なり、各プロセス間を行き来して進めることができる柔軟さが、新しいセキュリティー戦略とマッチしています」と吉田氏は述べる。
注意点は2つある。1つは常に最新の脅威を識別できるよう臨戦態勢であること。もう1つは意思決定者を統一すること。意思決定にバラつきがあるとループが停滞する恐れがあるからだ。「OODAループは脅威の識別を軸に、統一した意思決定者によって判断・実行していくことが重要です」と吉田氏は語る。
現在、サイバー攻撃には多様な手法が存在するが、OODAループならそれぞれの攻撃に適切な対応を迅速に行えるという。
「例えば、脆弱性を狙う攻撃があっても、最新のセキュリティーパッチを継続的に適用する仕組みがあれば、攻撃は不発に終わる。そのことを確認できれば、脅威度は下がったと判断できます。一方、クラウドサービスの設定ミスは、情報漏えいのリスクがあります。認識していない脅威は優先度が下がりがちです。個人情報を取り扱うクラウドなら対策の優先度を高めてまずは設定チェックから始めましょう。
一方、ランサムウエアは手口を変えて攻撃を仕掛けてきます。常に最新の手口を把握し、狙われやすい箇所に重点的にセンサーを配備し、早期に識別・検知・対応できる環境と体制を整えるべきです。また、サイバー攻撃を意識したバックアップ環境の整備も必要でしょう。大切なことは、差し迫る脅威から具体的なリスクを見抜くこと。そのリスクに応じて対策の要否や優先度を判断するわけです」と吉田氏は強調する。