リホスト/リライトでDX Readyの環境へ移行
多くのメインフレームベンダーが市場から撤退する状況となった今でも、日本企業のレガシー刷新は思うように進んでいない。
レガシー刷新が思うように進まない要因について、「脱レガシーシステムには莫大なコストがかかる反面、必要性や緊急性が"見えづらい”ため、経営層の判断が先送りになっていること、加えて業務・ITを理解した技術者不足によりブラックボックス化した仕様に触りづらく、現場からの協力が得られないことが脱レガシーが思うように進まない大きな要因であると言われています」とキヤノンITソリューションズの井上 充氏と言及する。
キヤノンITソリューションズ株式会社
デジタルサービス統括本部 デジタルサービス推進本部 事業企画部
事業企画第二課 課長
井上 充氏
また井上氏は「脱レガシーが正解かどうかではなく、技術者の高齢化やブラックボックス化、維持費の高騰といったリスクを今後も許容できるのかを見極めることが重要なので、リスクを費用対効果として受け入れ、現状のままメインフレームを使い続けるという判断も十分に考えられます」と語る。しかし、未来価値を創造するためにはDXの力が重要なカギとなり得る中、メインフレームのオープン化についての検討からは目をそらすことはできない。そこで必要となるのは「Future」「Reliability」「Timing」という3つの視点だ。
1つ目のFutureは「オープン化の未来価値」を指す。メインフレームのオープン化には大きくリビルド、リホスト、リライトの手法がある。リビルドは業務の拡張性や大きな変革などに有効な手段となるが、コストや期間・業務影響などのリスクが大きい。一方、リホストやリライトはアプリケーションには手を加えず、システムをオープン環境に移行するため、低コスト・短期間での移行、保守性と運用性の向上などのメリットがある。
「リビルドを前提にせずともオープン化の未来価値は得られます。私たちはリホスト/リライトによってシステムをオープン環境にした状態を『DX Ready』と位置付けています。『DX Ready』の状態では業務の形は変わりませんが、AI、BI、パッケージ、API、クラウドといったDXを推進するツールを、必要になったタイミングで使うことができます。DX推進ツールを活用することで、大きな変革ではなくても、それに近い強みや付加価値を低いリスクで生み出すことができるのです」と井上氏は説く(図1)。
図1 オープン化することによる未来の価値
短期間に安心・安全・確実な移行が可能となるリホスト/リライトで、まずはDX Readyの状態をつくることがポイント。AI、BI、パッケージ、API、クラウドといったDXツールを活用することで様々な改善を行い、強みや付加価値を生み出していく
その一例として井上氏が挙げるのが、次世代EDIサービス「EDI‑Master Cloud」を活用したシステム間のクラウド連携だ。「これによりEDI運用を標準化して担当者への依存を減らしたり、通信・変換・監視といった運用業務をサービスに任せたり、自社でEDIサーバーを管理・維持しない構成にすることが可能になります」と井上氏。その結果、メンテナンスの負荷を大幅に削減できるだけでなく、インターネット回線による運用でデータ処理も高速化するという。
DX Readyの状態になれば、新業務に対応したシステム開発も効率化し、改善スピードそのものを大きく引き上げることができる。開発言語を自由に選ぶことができるほか、多様なフレームワークやライブラリを使えるからだ。
「例えば当社の『WebPerformer』というローコード開発ツールを使えば、Webアプリケーションを自動生成したり、生成AIと連携したアプリケーションも短期間で構築できます。実際に導入されたお客様からは、『開発経験の少ない人材でも活躍できた』『スマートフォンアプリなどの新しい領域にも挑戦できた』といった声をいただいています」(井上氏)
このように、リホスト/リライトによるDX Readyの価値は、現行システムを生かしながら様々なツールを適材適所で活用することで技術革新を柔軟に取り込み、効果の高い改善を積み重ねていける点にある。このポイントを踏まえれば、競争力向上に向けてオープン化を急ぐ必要があることを経営層にも強くアピールできるはずだ。
安心・安全・確実な移行に求められる要素とは
DX Readyの価値を最大限に引き出すためには「安心・安全・確実な移行」が求められる。それが2つ目の「Reliability」という視点だ。
「リホストやリライトは、比較的リスクを抑えて進められるマイグレーション手法ですが、安心・安全・確実に移行するには3つのポイントを踏まえることが大切です。まずは事前検討段階での『綿密な計画』。次に移行作業における『高品質な資産変換』。最後に移行後の『業務継続性』です」と井上氏は説明する。
実行計画の綿密さは棚卸しやアセスメント、PoCといった事前検討の質によって大きく左右される。そのため調査対象となるライブラリを正確かつ網羅的に把握して、特殊条件で動くプログラムなどを洗い出すことが重要だ。古くから使われていて複雑化しているプログラム、実行時に手修正が伴うプログラムなど、システムの特色も押さえておきたい。さらに移行先の要件や優先度を明確にしておくことも欠かせない。
高品質な資産変換においては、テストの長期化を招きやすい手修正を排除した、機械変換の活用がポイントとなる。機械変換を活用すれば一定品質で結果を再現しやすくなり、大規模資産でも短期間かつ低リスクで変換できるためである。
移行後の業務継続性とは移行前と同様に業務が滞りなく行えることを指す。オープン環境への移行でシステムの起動・終了方法、パスワード変更手順などの基本操作に加え、アプリケーション開発手法やリリース手順、障害監視・対応方法なども変わる。このため様々な運用の変化を事前に把握した上で、習得に向けた準備をする必要がある。
こうした要素を一貫してカバーするために、キヤノンITソリューションズが提供しているのがマイグレーションサービス「PREMIDIX(プレミディックス)」である。まず「綿密な移行計画」という点では、30年にわたるマイグレーションの実績を背景としたITコンサルタント、PM、エンジニアからなる専門チームが、顧客と共に綿密な移行計画を立案していく(図2)。
図2 マイグレーションサービス PREMIDIXの概要
30年にわたるマイグレーションの実績と自社製ツールによる徹底した機械変換、プロジェクトの安定推進を実現するマネジメント力をベースに、マイグレーションの計画から新システムの保守/運用の代行に至るまでをワンストップでサポートする
次に「高品質な資産変換」については、プロジェクトを通して変換ツール自体を成長させ、最終的にほぼ100%まで精度を高めることができるという。これによりテスト工数を大幅に削減しながら、資産凍結期間も極小化。さらにリテラル値に日本語説明を付与したり、ハードコーディングされたロジックのプロシージャ化、デッドロジックの排除など、移行後の保守性まで見据えた変換も行う。
「PREMIDIXでは移行だけでなく移行後の保守・運用までを含めてサポートしています。ご要望に応じて、業務アプリケーションの保守・運用も代行し、システム仕様変更のサポート、ユーザー教育や保守担当者向けの教育も行います。これにより、システム維持要員の高齢化や人材不足といった課題に対応しながら、お客様が本来注力すべき戦略領域にリソースを集中できる環境を支援します」(井上氏)
経営層に求められるのは未来価値を見据えた判断
こうした脱メインフレームに向けた取り組みを自社のリソースに合わせ、どのようなプロセスで進めていくべきか。それが3つ目の視点である「Timing」だ。
「将来のモダナイゼーションに備えるために、脱メインフレームを検討する場合、マイグレーションの場合は短くても2年、さらに調査・検討・稟議に向けた機関として1年程度を見ておく必要があります。例えば、2030年のシステム更改を見据えるのなら、今から少しずつ準備を始めておくことが重要です」(井上氏)
ただ、マイグレーションの必要性を感じながらも「どこから着手すべきか」「工数や費用はどの程度か」と迷っている企業も少なくないはずだ。そこでキヤノンITソリューションズは、現行システムを客観的に整理し、移行の可能性・リスク・必要な作業を事前に評価・分析する「移行性診断サービス」を展開。簡易なヒアリングシートに記入するだけで、マイグレーション方式の適合性や費用感と想定スケジュール、潜在する技術的リスクなどをまとめた診断書を無償で提供している。
マイグレーションは単なるシステムの移行ではなく、未来価値を見据え、持続可能な競争力を維持するための経営投資だ。マイグレーションプロジェクトの検討を進めるのにあたり、今回紹介した「Future」「Reliability」「Timing」のフレームワークに合わせて、迅速な決断を行っていくことが肝要だ。





