アプリモダナイズは「今進めるべきこと」
長年使われてきたアプリケーションは重要な情報資産である一方、古い言語や仕組みのままではAIやクラウドといった新技術に対応しづらい。その結果、新サービスの開発や改善に時間がかかったり、運用コストと人的負担が増大し、変化への対応が後手に回ってしまう。
「アプリモダナイズは『いつかやること』という先の話ではなく、『今進めるべき』喫緊の課題になっています」とレッドハットの森 和哉氏は説く。実際、レッドハットが世界の主要企業1000社を対象に行った調査では、約95%がアプリモダナイズを重要な経営課題として捉え、約51%が今後1年でのアプリモダナイズを予定している。「つまり、多くの企業にとってアプリモダナイズは『将来検討するテーマ』ではなく、既に着手が始まっている現実的な経営課題となっています」と森氏は話す。
レッドハット株式会社
技術営業本部
シニアスペシャリストソリューションアーキテクト
森 和哉氏
ただし、必要性は分かっていても、アプリモダナイズの前で立ちすくむ企業も少なくない。そこにはいくつかの壁があるからだ。まず、古いシステムほど現状理解や影響範囲の調査に時間がかかり、手を付けづらいことはその一例だ。IT部門も人的な余裕があるわけではないため、新規案件の対応、既存改善、保守運用といったことが重なると「何を優先すべきか」という判断が難しい。また、モダナイズの途中で、新しいセキュリティー設定や運用面の課題が見えてくるケースも多い。
こうした課題を解消し、アプリモダナイズを前に進めるためには、どうすべきなのか。それには「ピープル(人材)」「プロセス」「テクノロジー」という3つの要素が重要になるという。
「まず『ピープル』という面では、新旧技術を理解し、業務要件を踏まえて判断・推進できる人材をアサインし、チーム組成することが肝要です。次に『プロセス』では一度にすべてを変えようとせず、優先度を付けて段階的に進めていきます。3つ目の『テクノロジー』では、既存アプリの基本機能は大きく変えずに、インフラや一部構成を最適化する『リプラットフォーム』が有効です。生かせる既存資産はできるだけ生かすことで、リスクもコストも最適化できるからです。重要なのは、密接に関連しているこの3要素を三位一体で進めることです」(森氏)
静的解析で「どこを、どう修正するか」まで示唆する
こうしたアプリモダナイズの取り組みを具体的に前へ進めるため、レッドハットは静的解析ツール「Red Hat Migration Toolkit for Applications」(以下、MTA)を提供している。これは、プログラムを実行せずにソースコードを解析し、アプリケーションの構造やロジックを把握した上で、移行に伴う課題を洗い出すツールだ。「既存アプリの見える化から評価・解析・修正支援まで、アプリモダナイズを一気通貫で支援します」と森氏は説明する。
MTAを活用することで、アプリモダナイズには様々なメリットが生まれる。1つ目は、全体像を把握した上で、着手すべき対象と優先順位を明確にできることだ。
企業が保有するアプリ群を見える化し、依存関係や潜在的なリスクを整理することで、変更に伴う影響範囲や想定作業量を把握できる。業務内容や技術要素、重要度といった観点でアプリを分類できるため、「どこから手を付けるか」という初期判断が容易になる。
2つ目は、移行の難易度や適性を事前に見極められる点である。アセスメント機能を使い、開発者がアンケート形式の設問に回答することで、アプリの現状を定量的に評価できる。「クラウド化とコンテナ化のどちらが適しているか、あるいはどれほどの難易度になるのかを事前に把握できます。利用状況や運用実態を踏まえ、移行の優先度や工数見積もりに反映できるため、より早く、適切な判断が可能になります」と森氏は語る。
3つ目は、具体的に「どこを、どう直すべきか」まで踏み込んで示される点だ。MTAはソースコードやバイナリを静的解析し、最新のミドルウエアやフレームワーク上で動作させるために必要な修正箇所を洗い出す。例えば、古いバージョンのJBoss EAPやOpenJDK上で動くアプリケーションを最新環境に移行する場合、置き換えが必要な箇所と対応方針が示される。
4つ目は、修正作業を計画的に進められること。分析結果はレポートとしてまとめられ、移行時に想定される問題点をカテゴリー別に整理して表示される。移行に必要な作業規模も把握できるため、対応すべき課題の優先順位付けがしやすくなる。「豊富な分析ルールによって、移行上のリスクや修正が必要な箇所を体系的に洗い出せます。アプリサーバー移行、コンテナ化、フレームワーク移行など、複数の移行パターンに対応できる点も特徴です」と森氏は補足する。
さらにMTAは、分析で終わらせず、修正フェーズまでを支援する。分析レポートを基に、どの箇所をどのように修正すればよいのかを示す修正ガイダンスを提供し、参考となるドキュメントへのリンクも表示される。
このように、MTAにあらかじめ整備されたルールとツールを使うことで、モダナイズ作業を標準化された手順で進められるようになる。「人のスキル不足を補い、作業のばらつきを抑えながら、リスクの少ない効率的な移行を進めやすくなります」と森氏は強調する。
学習した生成AIが修正コードを自動で生成
静的解析によって修正すべき箇所が明確になっても、その後の修正作業には依然として工数とスキルが求められる。そこでレッドハットは、モダナイズ作業をさらに加速させる仕組みとして、MTAのVSCode向け拡張機能「Red Hat Developer Lightspeed for MTA」を提供している(図1)。
図1 Red Hat Developer Lightspeed for MTAの特徴
MTAの解析結果と過去の修正知見を学習し、生成AIが修正コード案を生成する。その採用・却下・編集の判断をIDE上で行える。「分析」「修正」「再解析」のサイクルを高速に回すことができる
Developer Lightspeed for MTAは、MTAの解析結果をそのまま修正フェーズにつなげる点が特徴だ。解析で検出された課題(issue)を基に、生成AIが必要なコード修正案を自動で提示する。「どこを、どのように修正すべきかを理解した上で、実務に近い修正案を示します」と森氏は説明する。
また、この修正提案は、過去に採用された修正知見を学習することで精度が高まっていく。解析結果と実績データを組み合わせることで、LLM(大規模言語モデル)がより現場に即した判断を行えるようになる。
修正案の確認やレビュー、採用・却下の判断、必要な編集まではIDE上で完結する。Visual Studio Codeなど既存の開発環境に拡張機能として組み込めるため、開発フローを大きく変えずに活用できる点も特徴だ。利用するLLMも特定モデルに縛られず、自社の方針や環境に合わせて柔軟に選択できる。
静的解析で判断材料を整え、生成AIで修正作業を支援することで、分析から実装までを切れ目なくつなぐ。AIを組み合わせることで、アプリモダナイズはより現実的なスピードと再現性を持って進められるようになる。
アプリモダナイズのスキルと人材育成も幅広く支援
MTAとDeveloper Lightspeed for MTAの活用でアプリモダナイズは大きく変わっていく。「対象のアプリを選定し、どの環境や方式で移行するかを決める。ソースコードを静的解析し、変更箇所やそれに伴うリスクや問題点を洗い出す。それを踏まえて修正案を生成し、差分を確認した上で採用・却下を判断する。こうした一連のプロセスをワンストップで行えるようになるからです。アプリモダナイズの開発ライフサイクルを大幅に効率化し、リスクとコストも低減できます」と森氏は強調する。
アプリモダナイズには「分析」「修正」「再解析」のサイクルが欠かせない。「まずできるところから小さく始め、このサイクルを回し続けていくことが成功のカギです」と森氏は話す。
このように方法論や環境が整ったとしても、「どこから手を付けるべきか」「どうやって組織内にスケールさせるか」悩む企業もあるだろう。そこでレッドハットはアプリモダナイズを伴走支援するサービスも提供している(図2)。
図2 レッドハットのAIモダナイズ支援サービス
ワークショップを通じて最新トレンドとツールの習得を支援。計画策定からAI実装、技術検証まで可能なスターターキットも提供する。標準アーキテクチャーによる開発やCI/CD、DevOps統合など開発手法の定着や横展開も支援可能だ
「レッドハットのコンサルタントが伴走者としてプロジェクトに深く入り込み、幅広く支援します」と森氏は強みを述べる。アプリモダナイズをけん引する人材を育成し、プロセスやテクノロジーの運用定着まで幅広く支援できるという。もしアプリモダナイズに課題を抱えているなら相談してみるとよいだろう。





