既存資産の維持・拡張では新しい世界に対応できない
「近未来は多種多様なAIエージェントが乱立し、一人ひとりが“自分だけ”のAIエージェントを持つようになるでしょう」と語るのは、アビニシオソフトウェアの早瀬 勝氏だ。
アビニシオソフトウェア株式会社
シニアアカウントマネージャー
早瀬 勝氏
自分だけのAIエージェントが稼働する近未来とは、どのようなものだろうか。例えば、休暇中に旅行に行きたいと思ったら、AIエージェントは期間や予算などを基に、お勧めの旅行プランを提案してくれる。それは人気の観光地や見所を教えてくれるだけではない。外部のAIエージェントと連動して予約可能な電車や飛行機の座席、レンタカー、宿泊先やレストランまでリストアップしてくれるのだ。依頼すれば、その場で予約まで行う。もし予約できなければ、すぐに代替案を提案し、別の電車や宿泊先まで予約してくれる。
つまりAIエージェントが人の消費行動や決済傾向に関与するようになるわけだ。購買タイミングもエージェント側が決定するようになる。「条件に合わなければ、すぐに代替案を探すので、人は待たなくなる。即時に“求めるもの”を提供しないと商機を逸してしまうことになりかねません」(早瀬氏)。
これに伴い、サービス提供側のシステムには、人を介さない迅速な判断・対応が求められる。従来のように、人の判断や事前調整を前提としたシステム設計では、この要求を満たすことはできない。「AIエージェント同士が連携して複雑なタスクを実行していくようになると、既存システムの維持や拡張では追いつけない。そういう世界がすぐそこまで迫ってきているのです」と早瀬氏は説く。
モダナイゼーションの前にやるべきことが山積
新しい世界に対応するためには、古いままのアプリ構造やデータ構造を変えていく必要がある。開発スタイルの見直しも必要だ。しかし、現在の開発スタイルは、いまなおメインフレーム時代から続くウォーターフォール型の発想が色濃く残っている。
ウォーターフォール型の開発は綿密に準備し、基本的に後戻りせずに計画を推進する。これでは技術の進化や顧客ニーズの変化に機敏に対応することは難しい。「状況に応じて計画を変動し、必要な資源はオンデマンドで手に入れる。クラウドなら必要なサーバーリソースを5分で使い始められます」(早瀬氏)。
アプリの開発も大がかりなプロジェクト中心の進め方から、少人数かつ短いサイクルで開発を回す軽快なものに変えていく必要がある。アジャイルやCI/CD、DevOpsの考え方を取り入れ、自動化も進めながら、よりスピーディで機敏な開発にシフトしていくべきだという。
「モダナイゼーションをプログラミング言語の刷新やプラットフォームの変更と捉えてきた経緯に問題があります。それは本質ではありません。COBOLをJava化してもエンジニアが若返るだけで構造物は同じ。結果的に『JaBOL』に手を焼くことになります」と早瀬氏は警鐘を鳴らす。
メインフレーム時代の開発と現代の開発には大きな「ギャップ」がある。「モダナイゼーションは、長年放置されてきた近代化要求に追いつく取り組みでもあるのです」と早瀬氏は続ける。
モダナイゼーション成功のカギは「メタデータ」
こうした大改革を実現する上で、カギを握るのが「データ」および「メタデータ」である(図1)。メタデータとは、実データの特性や条件などを定義し、整理・検索・活用しやすくするための情報だ。データや処理の構造、意味、関係性を明らかにし、開発やデータ活用の土台となる。
図1 メタデータとその階層構造
階層構造の構築とともに、抽象度の高いデータから実データまでリンクさせる。業務的なルールの意味を定義することで、そこから実装を導き出せる。メタデータとその階層構造は、AIを効果的に利用するために欠かせない情報だ
メタデータは複数の階層構造で成り立っている。最下層にあるのが「物理メタデータ」だ。レコード形式やフィールド形式、データの値の範囲やその参照関係、処理の前後関係、依存関係、データ品質などを定義するデータや処理の実装に最も近い層といえる。
その上位にあるのが「業務的なメタデータ」だ。これは、データが業務上どのような意味を持つのかを明らかにするためのもので、受注や在庫、契約といった業務上の概念や、その構成条件、判断ルールなどがここに含まれる。
さらにその上位に「抽象度の高いメタデータ」がある。業務用語で説明された情報であり、どのデータが個人情報なのか、どれが顧客情報なのかといった分類や、データ同士の意味的な関係を整理する層だ。
メタデータは「どこで、どんな処理を行っているか」をデータの観点から機能分解したものでもある。「これは業務を説明することにほかなりません。メタデータによって業務と処理の関係が可視化されて初めて、AIは理解した上でデータを活用できるようになるのです。さらにメタデータの階層構造を実現すれば、メタデータ群がLLMのRAGとして機能するようになります」(早瀬氏)。
AIが業務データとロジックの関係性を把握できるようになれば、既存処理の最適化や自動化も進めやすくなる。抽象度が高い状態で定義したロジックやルールを一度定義すれば、適用箇所ごとに個別実装する必要が減る。結果として、実装量を抑えながら、管理すべき既存IT資産をスリム化・シンプル化できるという。
これを発展させていくと、データの追加・拡張への対応も容易になる。メタデータを投入することで、データ書き換え前後の照合に使う自動テストを作成・実行したり、決定性を保った形でデータ品質チェックを行ったりすることが可能になるからだ。さらにAI支援が進めば、文書からビジネスメタデータを収集し、業務的意味を追記するなど、メタデータ管理そのものの省力化も見込める。ビジネスメタデータを高度化できた企業は、ビジネス文書から逆算して、システムとしてあるべき姿を導きやすくなる。データパイプラインにまつわる処理の自動生成も進み、それをAIが活用できるようになる。
「メタデータを活用することで、AIエージェントが“当たり前”になる近未来に対応した、新しいサービス基盤を実現できます」と早瀬氏は語る。
データの専門家集団がモダナイゼーションを伴走支援
こうした新しい世界への変革を支援するために、アビニシオソフトウェアは、AI支援機能「Agentic Data Service」を統合した「データ処理プラットフォーム」を提供している。このプラットフォームをベースに、既存システムやデータのメタデータ収集・管理、さらにメタデータをLLMのRAGとして機能させる仕組みづくりもサポートするという。
同社は、スパコン開発者たちが起業したデータ処理に関する専門家集団だ。「メタデータによる開発物の最小化、ルール化、データパイプラインの作成、テスト、データ品質管理の自動化には早くから取り組んでいます。その中で多くの知見とノウハウ、業界をリードする先進機能を培ってきました」と早瀬氏は強みを述べる。
メタデータに基づくモダナイゼーションも幅広く支援する。まず資産の棚卸しを行い、既存資産をリノベーションするか、塩漬けするか見極める。これは机上ではなかなか結論が出ないため、プロトタイプを作成し、試行検証を繰り返しながら判断していく必要がある。このプロセスでも、既存コード資産やデータベースからメタデータを収集する同社のソリューションによって現状の把握と将来に向かってのメタデータ資産の蓄積を同時に、かつ迅速に進められるという。
リノベーションする場合は、抽象的な要件を抽出し、同じ機能を持つ形へ作り替えていく。「メタデータとAIの活用を高度化していけば、開発の自動化・省力化・高速化を同時に進めていけます。単なる刷新や置き換えではなく、変化に適応し続けられる構造を手に入れること。これこそが『真のモダナイゼーション』であり、将来の発展に向けて目指すべき方向性です」と早瀬氏は語る(図2)。
図2 モダナイゼーション実施と高度化が見据える道筋
メタデータ化を進めることでAI活用を高度化し、開発の自動化・省力化・高速化も進む。変化にも柔軟かつスピーディに対応できるようになる。RAGを活用すれば、業務部門ユーザーが業務用語でデータとの対話できるようになり、メタデータからデータパイプライン処理を自動作成することも可能になる
同社ではデータ人材の教育や育成も可能だが、多くの場合、メタデータによるモダナイゼーションを推進する中で、担当者の理解が進み、自然と成長していくという。「取り組みを通じて、気づきを得ながら、変換関係や依存関係、業務的意味などをどう定義すればいいかというスキルが習得されていきます」(早瀬氏)。アビニシオソフトウェアのサポート自体が、データ人材の育成につながるわけだ。
同社のサポートを受け、多くの企業がモダナイゼーションを成功させている。与信情報を提供する大手信用情報企業はその1社だ。脱メインフレームと完全クラウド化をわずか3年で実現し、開発者人員は従来の半数で済むようになったという。業務知見が蓄積され、アジャイル開発も定着した。さらに、コンテナのKubernetes化やAI活用促進など、社員がどんどん難しい開発にチャレンジしていく、データドリブンな企業文化への変革も進み、株価は3倍に伸びたという。
リスクを見つめていても前には進まない。PoCと計画修正を繰り返すことこそが実際のリスクを下げる最良の選択肢だといえるだろう。





