ソブリン性を備えた新たなクラウドサービスが誕生
生成AIの急速な普及により、社内文書の要約やヘルプデスクの自動化、業務システムの入力補助など、AIが様々な業務プロセスに入り込み始めている。そこで重要な課題となっているのが、これらのシステム基盤をどうセキュアに構築するかである。公開・一般情報であれば海外のAI(パブリックモデル)を利用する選択肢もある一方、設計図や開発ソースコード、顧客・人事情報といった企業固有の機密データは、自国の主権下で運用・制御できるソブリン性を備えた基盤で扱うことが不可欠になる。
そこでソフトバンクは2026年4月から、同社の東日本のデータセンターに「Oracle Alloy」を組み込んだ「Cloud PF Type A」の提供を開始した。2026年10月には、西日本のデータセンターでの提供を開始する。
「Cloud PF Type Aは、オラクルのクラウドサービス『OCI(Oracle Cloud Infrastructure)』と同等のサービスを提供しながら、クラウド上のデータやシステムを日本の管理下で運用するソブリン性を備えた基盤です。OCIが持つ200種類以上の機能やAIサービスに加え、当社独自のマネージドサービスを組み合わせて提供することで、高い安全性と信頼性・可用性を兼ね備え、メインフレームのモダナイゼーション先としても適応可能な環境となります」と、ソフトバンクの森 五月氏は説明する(図1)。
図1 モダナイズの新たな選択肢「Cloud PF Type A」の概要
Cloud PF Type Aはソフトバンクの東西データセンターに構築された高性能かつソブリン性を備えたクラウド基盤だ。オラクルデータベースに代表される基幹システムのクラウド移行を支援し、AI時代に最適なデータ活用環境を実現する
ソフトバンク株式会社
法人統括 AI・クラウドプラットフォーム本部
クラウド開発第2統括部 クラウド技術企画推進部 部長
森 五月氏
基幹システムのモダナイズをクラウドで
Cloud PF Type Aには、大きく3つの特長がある。1つ目は、地政学的リスクや経済安全保障の観点から、運用を含めたサービス全体を日本国内で保持・コントロールできる「データ主権の実現」だ。
2つ目は、オラクルの「Oracle Cloud Infrastructure Vault」だけでなく、ソフトバンク独自のKMSを用いる高度なセキュリティーである。Cloud PF Type AはOracleから顧客データへアクセスできない設計であり、加えてIPAガイドラインに準拠した鍵管理を採用することで、データ主権をより強固に確保している。
3つ目は、金融機関に代表される厳格な規制・監査要件にも対応できる「高度なガバナンス」だ。金融庁ガイドライン183項目、FISC安全基準240項目、業務実績に基づく個社要件380余りの要求を満たしており、健全経営が求められる幅広い業務システムに適用できる。
システム面でも「高性能」「高可用性」「低コスト」といった大きな強みを持つ。「高性能という面では、ミッションクリティカルなワークロードにも適した第2世代クラウドとして、専用NICによって他テナントの影響を受けない超低遅延を実現し、軽量KVM(仮想化技術:Kernel-based Virtual Machine)と業界最高水準IOPS※の高速ストレージにより、大量トランザクションを高速に処理できます」と森氏は説明する。
高可用性では、ハードウエア障害の場所を局所化することで停止リスクを最小限に抑えるフォルトドメイン、Oracle RACをネイティブサポートすることによる無停止メンテナンス、フェイルオーバーといった特長を持つ。基幹システムのモダナイゼーションでオラクルデータベースをクラウドへ移行することに躊躇していた企業も安心して移行できる。
低コストも重要なポイントだ。森氏からは同じスペックで比較したOSライセンス込のVM月額料金が、ほかの企業より低くなる試算が示された。
「現状、クラウドの活用は業務系や情報系のシステムが先行していますが、Cloud PF Type Aなら生産システムに代表される機密性の高いワークロードでも安心してクラウドリフトしていただけます。当社ではメインフレームをオープン化する場所としてもCloud PF Type Aは最適であると考えており、それを証明するための性能検証を行いました」(森氏)
※IOPS:Input/Output Operations Per Secondの略。ストレージが1秒間に処理できるデータの読み書き回数を示す指標。
メインフレームと同等の性能・コスト効率を両立
具体的には、既存メインフレームと同等の環境をCloud PF Type A上に整備。「性能維持」と「コスト効率」が両立できるのかという観点で検証を行った。
まず性能面では、大規模バッチ処理時間とTCPレイテンシーのチェックが行われた。一般的にクラウド環境ではメインフレームに比べ処理時間は長期化する傾向がある。そこで他社のパブリッククラウドを使った環境と、Cloud PF Type A上でIaaS(AP)とPaaS(DB)を分離した構成を用意。それぞれで約4千万人規模の高負荷バッチ処理を実行した(図2)。
図2 メインフレーム/他社クラウドとの処理性能の比較
クラウド環境ではメインフレームに比べ処理時間は長期化する傾向がある。そこでメインフレームとほかのパブリッククラウド、Cloud PF Type Aそれぞれで約4千万人規模の高負荷バッチ処理を検証した結果、Cloud PF Type Aが最も高い処理性能を示した
「メインフレームで実際にかかっていた処理時間が約1時間12分、パブリッククラウドA社にチューニングを施した環境では約1時間6分となりました。このパブリッククラウドで実際に設定したCPU・メモリーと同じスペックの環境をCloud PF Type A上に構成し、同じデータを回してみたところ、APサーバーとDBを分離した構成であっても、メインフレーム比で約25%短縮となる約54分で処理が完了しました」(森氏)
DBサイズを半分にした検証でも性能的には遜色がなく、冗長構成にした場合でもメインフレームと同等の性能が維持できることも分かった。これらは1回限りの結果ではなく、異常値を外し何度も繰り返した平均値が出されており、Cloud PF Type Aでは「メインフレームと同等の性能が維持できること」が確認できたという。
TCPレイテンシーの検証では、冗長化構成においていかに低遅延を維持できるかが検証された。 メインフレームは同一筐体内で完結するため低遅延が当たり前だが、パブリッククラウドA社の冗長構成はデータセンターを跨ぐ形となるため、1,000~1,500μs(マイクロ秒)の遅延が発生。メインフレーム環境のSLAを満たすのが難しいことが分かった。
一方、Cloud PF Type AではOCIのフォルトドメイン(FD)によって同一データセンター内で冗長構成をとることができる。これによりTCPレイテンシーは100μs以下と、他社パブリッククラウドの1/10程度に抑制できることが確認された(どちらもnetperfで計測)。
次にコスト面では、必要性能を満たした上で、他社クラウドと比べてどれだけ価格優位性を持つかを検証した。数十億円規模のモダナイゼーション事例をベースに、主なクラウドコストとなるDB、サーバー、ストレージ、監視サービスを算定対象にパブリッククラウドA社のコストと比較してみたところ、A社が年間2830万円かかるのに対し、Cloud PF Type Aは同スペックで1970万円と、約7割程度に低減。DBを1/2のスペックで導入した場合は1140万円と半分以下になることが分かった。
「メインフレーム相当の性能を維持しながら、他社クラウドに比べてコストも最適化できることがCloud PF Type Aの大きな特徴です。インフラ企業としてベンダーニュートラルのスタンスである当社は、メインフレームのモダナイゼーションに向け、お客様ご指定のパートナー様との連携を推進し、計画策定から運用まで一貫してサポートする体制を構築します。メインフレームの移行先として、有力な選択肢の一つになるはずです」と森氏は語る。
企業が生成AIなどを活用して業務の効率化やデータドリブンな意思決定を進めるためには、メインフレームのモダナイゼーションが必須となる。その移行先環境は自ずとクラウドになっていくが、ソブリン性を持つCloud PF Type Aであれば、データ・運用主権の確保だけでなく、性能・コスト面でも必要条件を十分に満たすことができる。
ソフトバンクはCloud PF Type Aにおいて、ソフトバンクの子会社であるSB Intuitionsの国産LLM「Sarashina」を活用した生成AIサービスも提供予定※である。そのため、基幹システムの安定稼働に加え、幅広い業務の効率化に貢献する生成AIサービスをシームレスに活用できる点も大きな特長だ。高い処理性能と生成AI活用環境を兼ね備えたCloud PF Type Aは、AI時代の基幹システムを支えるインフラの有力な選択肢といえるだろう。
※Cloud PF Type Aにおける国産LLM「Sarashina」の提供開始時期は、東日本リージョンが2026年6月末、西日本リージョンが2026年10月を予定している。
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