最初に中央大学の島貫智行氏が1つの見方を示した。「一般に、経営戦略を実現するために人財戦略を考えるアプローチがなされる。しかし、経営から人財への単一のアプローチでいいのか。人財マネジメントから組織力を作り、経営戦略を創発していくという逆の流れも考えられるのではないか」
人財戦略に組織が
どう影響するか
丸紅の鹿島浩二氏は、次のように自社の取り組みを説明した。「組織能力を高めることが重要であるのは疑いない。では誰が担って推進するか。丸紅では、人事部の新しい役割と考え、人財・組織開発課を作った」
この5年で人員が倍増したというサイボウズ。同社の中根弓佳氏は、こう話す。「コロナを経験して、出社率は20%程度。改めて、サイボウズの強みは何なのだろうと考えたとき、一人ひとりが強くなるだけでなく、関係性の資本が大事だと思い至った。どんなつながりを持っているか、人的資本開示でも出している」。中根氏は、人のつながりが企業の強みになり得るという考えを示した。
企業の強みという点では、サッポロホールディングスでも、改めて検討をしているという。同社の内山夕香氏は、「組織能力は内部的には強みだと感じているが、外部から見て本当に足りているのか」と話す。機関投資家や社外取締役などの外からの目線が不足していたという反省がある。まず役員から、外部から見た組織能力について見直す取り組みを始めたという。
こうした意見に対してPwCコンサルティングの北崎茂氏は、「海外と日本では組織カルチャーや組織行動に対する認識に大きな差がある。特に部長や課長のレイヤーでの意識が日本では低い」と指摘する。
組織能力の可視化に
テクノロジーを活用
それでは、自社の組織能力や、それぞれの会社で大事にしている組織の力をどのように可視化したらいいか。鹿島氏は、丸紅での取り組みとして「エンゲージメントサーベイ」を紹介する。これは、組織ごとに実施・分析し、必要に応じて改善のプログラムを行う。エンゲージメントを可視化、分析するだけでなく、改善の効果としてスコアの低い組織が減ってきているという。
サイボウズでも、グループウエア企業である強みを生かして、ログを分析したり、退職理由を分析したりと可視化の素地を作っている。「チームワークの良いチームを量産することを目指していて、可視化した指標を提供している」(中根氏)
こうした見方に続いて北崎氏は、「グローバルではネットワークが重視されている。多くのつながりを持っている役員がいる拠点は、成長率が高いことが証明されている。一部の先進企業でも、役員間のネットワーク活動が可視化されてきている」と国際情勢を紹介した。
内外比較では、島貫氏も「組織の力について、日本では企業単位と捉えられがち。一方で海外では単位としてチームの視点で考えられている」と紹介する。その上で、「今の組織の状態の可視化にシステムやテクノロジーを活用している」(島貫氏)と説明した。
組織を支える
ミドルマネジメント層を幸せに
より現場の視点に立つと、組織やチームで一義的に責任を持ってマネジメントしているのは、組織長や部課長などのミドルマネジメント層だ。多様な属性を持つ部下をマネジメントする役割で、多くの負荷がかかる。北崎氏も「負荷の受け皿になりがちで、1人のキャパシティを超えがち」と指摘する。
中根氏は、「マネージャーは負担は大きいが、組織においては非常に重要な役割である。サイボウズではマネージャーの役割を分解して再定義しつつ在り方を再考しているところ」とマネージャー像の変革に取り組んでいることを語る。
内山氏は、支援型マネジメントを目指す取り組みの例を紹介した。ある部門で離職率が高くエンゲージメントも低い状態が続いた。そこに、組織開発を大学院で学んだ人事部のマネージャーが問題解決に入ったところ、上司も覚醒して離職がピタッと止まったという。「部内だけでなく、外からの支援があって改革に成功した」(内山氏)
島貫氏は発想の転換を提案する。「チームの成果を高める方法としてマネージャーの能力強化を考えがちだが、逆にマネージャーが楽に働けるにはどうしたらいいかを考える」との発想だ。負荷がかかるマネージャーにはハイスペックな人財を割り当てたくなるが、メンバーの成長機会を意図的につくることでチームがレベルアップすれば、平均的なマネージャーでも成果を発揮できるようになる。
北崎氏は、「マネージャーを楽にする変革にとって、生成AIが業務を支援できるようになった今がチャンスかもしれない」と語る。テクノロジーの活用で、多様な次世代のマネージャーの在り方をデザインし直すことができそうだ。
最後に鹿島氏は、「自社固有の課題を自社内で深堀りすることも大事だが、他社と課題を議論することは、人事としても人財戦力を考える上で有意義だった」とディスカッションの成果を総括した。









