

「AIエージェント時代」の幕が上がろうとしている。人の作業をサポートするだけでなく、状況を把握し、適切な判断を行って自律的にタスクを実行する点がAIエージェントの特長だ。「外部ツールを使いながら、連続したタスクを実行することも可能です。その意味で、AIエージェントは記憶力、思考力、実行力を兼ね備えた存在といえるでしょう」とボストン コンサルティング グループ(以下、BCG)の北川 寛樹氏は語る。
AIは疲れないため、人よりはるかに多くの仕事をこなし、経験から学んでいく。そのため進化のスピードも人より圧倒的に早い。近い将来には「AIがAIを開発する」時代が到来することも予測されている。そうなればAIの性能は指数関数的に向上していく可能性がある。
「AIとの向き合い方はマラソンに似ています」と北川氏。参加しているランナーは先頭集団を追うために必死で努力しているが、参加していない人はレースのスピードも、そもそも「どこをどう走るべきか」も分からない。レースに参加しなければ、置いていかれていることにすら気付けなくなってしまうだろう。
「先行企業はAIドリブンな組織への変革に着手しています。AIエージェントをDigital Employee(デジタル従業員)として“雇用”する企業も増えており、人の仕事をAIエージェントに置き換える動きは今後さらに活発化していくはずです。企業と顧客の接点がAIエージェントにシフトし、AIエージェントの相互連携で経済圏全体が一新される可能性もある。この潮流をキャッチアップできない組織は、競争優位性を失うリスクがあります」と北川氏は警鐘を鳴らす。
残念ながら、このような優位性喪失のリスクを抱える日本企業は少なくない。人手不足が慢性的な課題であるのに、ITシステムによる業務の効率化は進んでいない――。多くの日本企業でこのような状況が起こっている。
「要因の1つがIT人材の需給ギャップにあるとBCGとしては考えています。日本のIT人材は、その多くがITベンダーに所属しています。企業のITベンダー依存度が高く、企業によってはシステムの開発・運用を丸投げするところもあります」(北川氏)
とはいえ、ITベンダー側もすべての顧客ニーズに応えられるリソースはない。結果、ITベンダーの奪い合いのような状況が生まれ、デジタル技術やAI/生成AIの活用を思うように進められないのが現状だ。
「ITベンダーも、受託ビジネスを長年続けるうちに、低リスク・長期安定型のビジネスを志向する体質になってしまっています。デジタル競争を勝ち抜くためのハイレベルな挑戦を行わず、『低位安定』に甘んじてしまっているのです」と北川氏は話す。
それにより様々な歪みが顕在化している。「ユーザー企業のIT対応能力が育たない」「ベンダー任せのため、システムのブラックボックス化が進む」「組織のデジタル化が進まないため経営意思決定のスピードが低下し、顧客への迅速な価値提案を行えない」といったことがその例だ。
「持続可能な成長を実現するためには、ITベンダー依存を脱却することが不可欠です。その切り札になるのがAIエージェントであり、日本企業こそ、AIエージェントを積極的に活用するべきです」と北川氏は強調する。
その有効なアプローチとしてBCGが提案するのが「AIの『手の内化』」だ。AIエージェントをはじめとするAI技術を「どこに使うか」「いつ使うか」「どのように使うか」を自ら考え、適切な環境を構築して業務の自動化を促進する。
ポイントは、まず定型作業や反復作業などの単純業務をAIエージェントに置き換えて、徐々にその領域を拡大していくことだという。「定型作業や反復作業は、これまで多くの企業がアウトソースしてきたと思います。つまり、アウトソースしている業務に目を付けるのは、AIエージェント導入の際の効率的なアプローチとなります」と北川氏は言う(図)。
図 ITベンダー依存から「手の内化」へのシフト
出所: ボストン コンサルティング グループ
なお、アウトソースが悪というわけではない。現時点ではまだ人間にしか行えない業務は存在するため、そもそもAIエージェントで置き換えられるのか、置き換えられない場合はどうするかも含めて検討することが肝心だ。「AIエージェント、アウトソース、そして社内の人間が行うという3つの方法のバランスを常に考えることが重要です」と北川氏は続ける。
既に多くの企業が、BCGと共にAIの手の内化を推進している。ある企業は、AIエージェントの活用によってマーケターの業務生産性を大幅に向上。変革を主導するチームが周囲を巻き込み、ビジネスインパクトを測定しながら、常に結果にコミットする形で進めたことで、日常業務の時間を最大90%削減しつつ業務品質を2倍に高めることができたという。
「このような成果は素晴らしいものです。一方で、グローバルではそのさらに先へ進んでいる企業がたくさんあります。日本企業は、自分たちが今、何をしなければいけないのかを真剣に考え、積極的に学ぶことでもっと前に進んでいただきたいと思います。我々も常に学びながら、チャレンジするお客様をご支援します」と北川氏は述べる。
AIエージェントの活用が本格化する時代はもう目の前に迫っている。今、AIの「手の内化」に取り組むか否かで、数年後の組織の姿は大きく変わってくるだろう。
