日経ビジネスオンラインスペシャル

LEADERS INTERVIEW2020.05.28

リーダーが語る「経営と相棒時計」

1本の時計が誇りとなり、ステップアップの礎に

SAPジャパン 代表取締役社長 鈴木 洋史 氏

鈴木 洋史氏

「もともと靴が好きなこともあって、ビジネスの場面では、やはり足元に目が行ってしまいますね。私自身、日頃から自分で靴を磨きますし、出張で宿泊する際もホテルで必ず靴磨きをお願いするようにしています」

鈴木洋史氏は、今年4月、ドイツに本社を構える企業向けソフトウェア大手、SAPの日本法人、SAPジャパンの代表取締役社長に就任したばかり。人に見られることの多い靴には細心の注意を払い、公の場に立つ時にはネクタイにコーポレートカラーである青を取り入れるなど、ビジネスシーンにおけるリーダーの装いの重要性を熟知している。

その鈴木氏が19年にわたってほぼ毎日身につけ、信頼し続ける時計が、ロレックス「ヨットマスター」だ。手に入れたのは、外資系サプライチェーン管理ソフトウェア最大手に席を置く、30代前半の営業マンだった頃。当時、事務用品を中心とする通信販売会社がサプライチェーンの基盤を作るプロジェクトを進めており、その中で大きな商談を成立させた。結果、その製品の営業成績で世界トップの座に。

「その時、褒賞として会社から贈られたのが、この時計でした。実は候補が他にもあって、中にはヨットマスターの倍ほどもする高額モデルもあったのですが、迷わずこれを選択。シンプルだけれど品があっていいな、と。当時はよくダイビングを楽しんでいましたので、マリンスポーツのイメージの強いヨットマスターに惹かれたというのもあります」

ロレックス「ヨットマスター」
19年間、ほぼ毎日腕に巻いてきたというロレックス「ヨットマスター」。30代前半の若き日の鈴木氏が、世界トップの営業成績を上げて手にした記念すべき1本だ。

以来、外資系IT企業の要職を歴任し、ビジネスパーソンとして順調にステップアップしてきた。その礎となったのは、やはりこの時の大きな成功体験だったと振り返る。

「それは単に、自分自身が大きな契約を取れたというだけではありません。お客様のビジネスの根幹となる大きなプロジェクトを成功させ、さらなる成長につなげられるような仕事ができたこと自体が、大きな喜びであり、自分の誇りにもなりました。その意味でとても思い入れの強い時計になりましたし、そうした仕事をずっと続けていけるように、という験担ぎ的な存在でもあります」

そして今年4月、社長に就任し、左腕の相棒とともに新たなビジネスの大海原へ船出した。特に重きを置くのは、各企業が抱える問題の解決を通じて、最終的には社会全体の課題をクリアするということだ。社長就任と同時に、新型コロナウイルス感染症の世界的拡大という未曾有の危機的状況に直面し、ますますその意を強くしている。

「今、社内で活発に議論しているのは、SAPが持つ仕組みの中で、何か世の中のためにご提供できるものはないか、ということです。その1つが、18年11月に買収し、統合した米クアルトリクスの開発したソリューション『リモートワークパルス』。

各企業がテレワークに切り替わる中、従業員のみなさんがどういう気持ちで仕事をしているか、何か困っていたり不足していたりするものはないかなどインタラクティブに確認し、状況を的確に把握するための仕組みです。これを現在無償で提供し、世界中で7000社近くに導入していただいています」

さらに、バイヤーとサプライヤーとをつなげるデジタルプラットフォーム、「SAPアリバディスカバリー」を90日間無償で開放。400万社以上のサプライヤーが登録する、世界最大級のB to B調達ネットワークだ。

「先日、新型コロナウイルス感染症拡大で危機に陥るニューヨーク市で、ある建設会社が急遽ビルを病院に仕立て直すことに。その際、必要となる簡易ベッド500台が見つからず困っていたところ、アリバディスカバリーを使って30分で探し当て調達できました。サプライチェーンが分断されている状況では、1つの部品が届かないだけで製品が作れなくなり、工場が止まってしまう。そうしたリスクを軽減し、サプライチェーンの維持を支援しています」

もちろん今の状況が一時的で、早々に元に戻ることを心から望んではいるが、長期化することも想定している。

「その前提に立ち、この環境を『ニューノーマル』として受け入れて、その中で何ができるかを考え始めています。まさに抜本的かつ強制的に、働き方が変わるタイミング。デジタルを活用してビジネスをより効率化するとともに、人と人とをつなげて企業活動をスムーズに行えるよう、お手伝いする責任が我々にはある。今後もデジタル変革を推進する支援をしつつ、お客様の共感、共鳴を得られるような活動を積極的に行っていきたいと考えています」

文=いなもあきこ 写真=吉澤健太

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