日経ビジネスオンラインスペシャル

LEADERS INTERVIEW2020.09.30

リーダーが語る「経営と相棒時計」

ローマで一目惚れして以来、20年以上愛用するドレスウォッチ

シャトレーゼホールディングス 代表取締役会長 齊藤 寛 氏

齊藤 寛氏

山梨県甲府市に本社を構え、国内に540店舗、海外に70店舗を持つ総合菓子チェーン、シャトレーゼ。積極的なM&Aにより本業に留まらず、ワイナリー、ゴルフ場、ホテル、スキー場などの事業も幅広く手がけてきた。売上高は2020年3月期実績で、菓子製造・販売の単体だけを見ても618億円。未上場ながら業界トップの一角を担い、強い存在感を放っている。

その経営手法は、非常にユニークだ。地元の契約農家から良質な原材料を自社工場へ直接仕入れ、オートメーション技術により極限まで効率化して菓子を製造。問屋を通さず、約400種に上る高品質かつリーズナブルな商品をすべて直売する。1954年の創業以来一代で今日の基盤を築き上げた立役者が、代表取締役会長を務める齊藤 寛氏だ。

「僕は腕時計が好きでいろいろと買うんだけれど、褒められると嬉しくなって、みんな差し上げちゃうんですよ。今、手元にあるのはパテック フィリップとオーデマ・ピゲ、ロレックス、そしてこのブルガリくらいかな。特にこのブルガリはデザインが気に入っているし、購入した時の思い出もありますので、なかなか手放せないですね」

ゴールドのベゼルは文字盤に向けて傾斜し、その内側に「ブルガリ・ブルガリ」と刻まれている。無駄な装飾を削ぎ落とした、2針のシンプルなドレスウォッチだ。

「ブルガリ・ブルガリ」
愛用の「ブルガリ・ブルガリ」は、20年ほど前にローマのブルガリ本店で購入したクオーツ式腕時計。「最近は健康管理のため、睡眠量や血圧、心拍数などを測れる時計をよく使っています。でも、大事な場に出席する際には、やっぱりこのブルガリを着けますね」 (齊藤氏)

「なかなか面白いデザインなのに、主張しすぎないところがさりげなくていい。これならシーンを選ばず、長く使えると思いました。実際、今もパーティーや大事な会合の際には、これを腕に巻くことが多いですね」

20年ほど前、ローマの本店で購入した。同業の経営者たちと共にイタリアの菓子製造機械メーカーを視察に行った際、足を延ばして店に立ち寄ったという。

「一目惚れのような感じで、その場ですぐ欲しくなってしまったんですよ。でも、実はその時、ちょうど持ち合わせがなかった。店の方に宿泊先のホテルまで車で送っていただいて、そこで支払ったというほろ苦い思い出があります(笑)」

「いいな」と思うと、すぐに手に入れるのが齊藤氏の買い物術。その思い切りのよさ、スピード感はビジネスでも同様に発揮される。

「いいと思うことはすぐやる。悪いと思うことはすぐやめる。僕自身がそうだから、社員にもそれを求めてしまいます。だから弊社は、何事においても決断と行動が速いんです」

菓子業界でもコロナ禍で大きなダメージを受けるメーカーが続出する中、シャトレーゼは依然として好調を維持。フランチャイズ店舗数が増え、売上高は1.5倍に伸びている。

「家庭で過ごす時間が増えた今、『巣ごもり需要』が伸びて売上増に貢献していると考えられます。特に先の見えない不透明な時代だからこそ、手頃な価格で購入できる高品質なスイーツが求められている。また、外出自粛と運動不足などによって体重が増えてしまった人に、11年前から販売している糖質カット商品が非常に好評です」

試練の時ほどそれを乗り越えるための優れたアイデアが出ることを、実体験として学んできた。例えば36年前、当時アジア随一の規模を誇る新工場を完成させた時のこと。工場建設には、当時の売上高とほぼ同額の大規模投資を行った。が、その大きなチャレンジと時を違えず、既存の主力工場が火災で全焼するなどの不幸に見舞われてしまう。

「この窮地をどう乗り切ればいいか、さすがに頭を抱えました。でも、すぐに思考を切り替えた。これまで通りのシステムでは起死回生は狙えない。当時は商品をスーパーマーケットや百貨店に卸していたのですが、『いい機会だから今後は売りに行くのではなく、買いに来てもらえる商売をやろう』と、大きく経営の舵を切ったんです」

すぐに工場直売の実験店をオープンし、卸値でアイスクリームの販売を開始。すると高い品質と素材の安心感、リーズナブルさが主婦層に受け、大ヒットに。手応えを感じて翌年には千葉にも工場直営店を開業すると、各地から出店申し込みが押し寄せた。48億円だった年商は、気がつけば10倍以上に膨らんでいたという。

「今、僕が最も注力するのは、『人づくり』です。社員を全国に点在するグループ会社の社長に任命し、経営の権限を次々と委譲。するとそれぞれの会社の業績が改善し、みるみる黒字に転じたんです。責任を持って仕事をすることで人はこれほど能力を発揮するのか、と驚きました。これを工場や営業部隊にも拡大し、2年程前から『プレジデント制度』を導入しました。今では社内プレジデントが120人以上います」

海外進出も、引き続き積極的に進める。シンガポールと香港ではすでに人気に火がつき、成果は上々。好調を牽引するのは、山梨の桃やぶどうなどの日本の新鮮なフルーツをふんだんに使ったスイーツだ。

「現地でも日本のフルーツはブランド化し、非常に高値で販売されています。一方、弊社は新鮮な果物を日本の農家から直接仕入れ、現地に輸送するので、リーズナブルに提供できる。また、日本の工場で作った高品質なケーキは瞬間冷凍し現地へ輸送。店舗で果物の飾り付けを行うことで、フレッシュで上質な商品を店頭に並べることができるんです。つまり、海外ではスーパーや百貨店で果物そのものを買うより、フルーツがたくさん乗ったシャトレーゼのケーキを買う方が安い、というわけです」

東南アジアでは水や乳製品、卵などの原材料が生菓子に適さないため、これまで現地生産は難しかった。だが試行錯誤の末、最近になってようやくベトナムとインドネシアで品質、価格ともに満足できるレベルの商品を生産できる目処が立ったという。

「私が見据えるのは、20年後のシャトレーゼです。海外展開やM&Aを含め、ますますチャレンジをしていきたい。これからが、非常に楽しみですね」

文=いなもあきこ 写真=森 康志

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