日経ビジネスオンラインスペシャル

LEADERS INTERVIEW2020.12.2

リーダーが語る「経営と相棒時計」

腕に巻くと仕事への気合いのスイッチが入る美しき機械式時計

シヤチハタ 代表取締役社長 舟橋 正剛 氏

舟橋 正剛氏

名古屋の地で創業95年を迎えたシヤチハタ。代名詞である朱肉の要らない印鑑「X スタンパー ネーム9」を筆頭に数多くのヒット商品を生み出し続け、業界最大手に君臨し続ける。コロナ禍でもその勢いは衰えることなく、今年6月期の決算では黒字を確保。その屋台骨を担うのが、代表取締役社長の舟橋正剛氏だ。「 仕事において時間は非常に重要ですし、その時間をまとうという意味で、腕時計はとても大切なもの。僕が腕に巻くのはオンの時がほとんどですが、だからこそ、時計をすると『さあ、仕事をするぞ』という気合いのスイッチが入ります」

舟橋氏が特に愛用するのは、フランクミュラーだ。最初に購入した1本は、「トノウカーベックス」だった。「文字のデザインが素敵だなと思って、手に取ったのが始まりでした。あと、フランク ミュラーのロゴはFとMが重なった面白いデザインで、実は僕のイニシャルと同じ(笑)。それも気に入ったポイントです。着けていると、社員から『社長の時計、いいですね』と声をかけられることが増えて驚きましたね」

今、ビジネスシーンで着けることが多いのは、「ロングアイランドデイト」。3年ほど前、自宅そばにある創業105年という老舗時計店「時計・宝飾ヒラノ」で出合った。ここは、90年代初め、まだ世界的には知名度が低かった頃からフランク ミュラーを扱い続ける有名時計店。たまたま店に立ち寄った際、「ロングアイランドデイト」の佇まいに魅せられ、ヒラノの名物兄弟、平野明良氏と孝明氏からフランク ミュラーとの逸話を聞くうちに、ますます引き込まれていった 。「こちらもやはり、独特な数字のフォントデザインが購入の決め手になりました。個性はありながらも、ものすごく出しゃばった印象のある時計ではないので、ビジネスシーンにも合う。腕と接する部分が緩やかにカーブしているから、実際に着けると手首にちょうどよくフィットして、とても気持ちがいいんですよ」

近年はスマートウォッチが隆盛し、自らの周辺でも愛用者が増えているという舟橋氏。だが、その機能性などに興味を惹かれる点はあるものの、「時計としての魅力はまったく感じない」と言う。「デジタルの便利さや効率性は理解しているのですが、やっぱり僕は、根本的にアナログなデザインと趣が好きなんです。バンドも金属じゃなくて、革の方がいい。汗かきなので、2、3シーズンすると平野さんの店で替えてもらうのですが、それもまた楽しみの一つなんです」

自社技術を他分野に応用

フランク ミュラー「ロングアイランドデイト」
近年愛用するのは、機械式時計の美が詰まったフランク ミュラー「ロングアイランドデイト」。フランク ミュラー氏が来日した際には、会って話を聞いたこともあるという。

デジタルの進化に注目しながらも、アナログのよさを大切にするその思考法は、ビジネスにおいても一貫している。

25年前、パソコンが一般に普及し始めた頃、「必ず、アナログとデジタルが融合する時が来る」と考え、電子印鑑システム「パソコン決裁」を開発。当時は爆発的ヒットとはならず、ユーザー数も2万人程度で推移していたが、諦めることなくクラウド化など改良を続けてきた。すると今年、コロナ禍に直面。リモートワークが推奨されたことを受け、3月から6月末までの期間限定でこのサービスの無償提供を開始したところ、4カ月でユーザー数が約27万人弱に増加した。「判子の販売数が永遠に伸び続けることは絶対にない、と思っています。が、一方で、判子がなくなるということも、おそらくない。日本には中小零細企業が圧倒的に多いため、そう簡単には今までの商習慣は変わらないはず。実際、リモートワークなのに判子を押すためだけに会社に行く、という話をよく聞きますよね。できる限りアナログのビジネスプロセスは変えず、それをそのままデジタル化するサービスを提供したい。従来と変わらない環境でお客様に仕事をしていただけるようなサービスを目指して、ITについては素人ながら挑戦しているんです」

さらに11月半ばには、既存商品をブラッシュアップし、契約や行政などでも安心して使える電子決裁システムをリリース予定だ。これにより社内決裁だけでなく社外でも同システム内で契約まで行える、一元的サービスになる。「実印などとも紐付けをして、デジタルとアナログをセキュアな状態でリンクさせる。その環境を作れる唯一のサービスサプライヤーであると自負しています」

一方、2016年に発売した「手洗い練習スタンプ おててポン」も、ここへ来て非常に好調。子供が楽しく手洗いの大切さを学べるツールで、手のひらにスタンプを押し、石鹸をつけて洗うと約30秒でそれが消えるという仕組みだ。3月頃からSNS で火が付いて人気が全国に広がり、現在は中国などを中心に海外からの引き合いも後を絶たないという。また昨年夏、Twitterで寄せられたユーザーの要望を受け、3カ月で商品化した痴漢抑止グッズ「迷惑行為防止スタンプ」は、テスト販売した500個が約30分で売り切れ、大きな話題に。ニーズに耳を傾け、長年判子で培った技術をさまざまな分野に応用して世間をあっと言わせ続ける。「今後は、電子印鑑システムをビジネスの1つの柱としながら、既存商品のリニューアルを継続的に行って商品群を拡充。同時に、新たな分野にもますます果敢に挑んでいきたいと考えています。『おててポン』のような公衆衛生分野をはじめ、子供向け分野、介護分野、防犯分野、防災分野などでも我々にできることがまだまだある。弊社の持つ技術を多方面に生かすことで、社会問題の解決に結びつくような商品を開発していきたい。世の中の役に立つものにこそ、真のニーズがあると信じています」

文=いなもあきこ 写真=田川 友彦

リーダーが語る「経営と相棒時計」 BACK NUMBER

VIEW ALL

CLOSE UPPR