日経ビジネスオンラインスペシャル

LEADERS INTERVIEW2021.11.25

リーダーが語る「経営と相棒時計」

腕時計と向き合い、日本の未来について思考を巡らせる

フィリップス・ジャパン 代表取締役社長 堤 浩幸 氏

堤 浩幸氏

「健康状態を知るためにアップルウォッチをすることも増えましたが、もともとアナログの腕時計が非常に好きなんです。現在はバランスよく、シーンに合わせてハイブリッドに使い分けています」

オランダに本拠地を置き、今年で創業130周年を迎えた、ヘルスケア事業を展開するフィリップス。その日本法人、フィリップス・ジャパンの代表取締役社長が、堤浩幸氏だ。NEC、米国のシスコシステムズを経てサムスン電子ジャパンCEOを務めるなど、IT業界で国際的なキャリアを重ね、5年前、現職に就任した。ずらりと並べた自身の腕時計を前に愛おしそうに目を細めながら、語り始める。

「このパテック フィリップの年次カレンダーモデル『5205』は、主にフォーマルな場で身に着けます。購入したのは、10年ほど前。確か、このローズゴールドモデルが出てすぐの頃です。一目見て欲しいと思ったのですが、日本になくて1年ほどかけて取り寄せてもらったんです」

幅広いビジネスシーンで重宝しているというのは、こちらも10年以上前に手に入れたルイ・ヴィトン「タンブール オトマチック クロノグラフLV277」だ。

左:パテック フィリップ「5205」、右:ルイ・ヴィトン「タンブール オトマチック クロノグラフLV277」
左はパテック フィリップの年次カレンダーモデル「5205」。ローズゴールドのケースが美しい。バンドを2度替え、好みに合わせて使いこなす。右は、ビジネスで使用頻度の高いルイ・ヴィトン「タンブール オトマチック クロノグラフLV277」。

「ルイ・ヴィトンが本気で機械式の腕時計に取り組み始めた時期の、記念碑的シリーズです。オリジナルバンドは革でしたが、あえてブレスレットに替えて使っています。オンオフ問わず合うし扱いが楽で、とても気に入っていますね。さらにカジュアルな場面ではパネライの『ルミノール』を着けることが多いかな」

腕時計に目覚めたのは、高校生の時。オメガのヴィンテージの機械式ドレスウォッチを手に入れると、精密機械でありながら薄さと軽さを両立していることに衝撃を覚え、奥深さにハマっていく。

「大学では理工学部機械工学専攻に進んだのですが、今考えると、機械の道に引き寄せられた背景には、もしかしたら腕時計の影響もあるのかもしれません」

左:アップルウォッチ、右:パネライ「ルミノール」
左は、健康状態をチェックするため、最近よく使用するというアップルウォッチ。両手に着けることも。右のパネライ「ルミノール」はプライベートでロンドンを訪れた際に購入した。

腕時計の魅力は語り尽くせないほど多岐にわたるが、そのうちの重要な一つが、「対話できること」と堤氏は言う。

「腕時計を見るたびに、何かを訴えかけてくるように感じるんです。例えば、『急ぎなさい』というのはもちろんのこと、『もうちょっとリラックスしてゆっくりやりなさい』と語りかけてくることもある。一方で、眺めているだけで時間の大切さを考えるきっかけにもなります。未来を予測するために自分の頭を整理する際にも、私は時計と向き合うことが多い。そうしたメッセージのやりとりが、常に自分自身のモチベーションを高めてくれるんです。だから私は、外出する時に時計をしないと不安なんですよ。時計はまさに、人生のパートナーですね」

超高齢化社会を豊かに楽しく

デジタルとアナログの腕時計をバランスよく使いこなすように、堤氏は仕事でもデジタルとヘルスケアの融合を目指す。

「今、私たちが注力しているのが、ヘルスケアインフォマティクスです。デジタル技術を駆使し、健康・医療分野における情報通信技術の整備とデータベースの構築を実現するというもの。そして、安心・安全で災害に強く、人々が健康でモチベーションを高く持って豊かに生活できる街づくりに取り組んでいます」

例えば、センサー技術の発達によって、家で24時間365日、非接触で自分の健康状態をチェックし、データを蓄積できるようになる。それは「2、3年後をめどに、実現可能な段階」と堤氏は言う。

「将来、病院は役割を広げ、中世ヨーロッパにおける教会と同じように、コミュニティの中心になると想定しています。何か数値に問題が起これば、その病院の進化形の機関がデータを解析。その診断を受けて、的確な処置がスムーズに施される……。こうした世界は、間違いなく2030年には起きます。もしかすると、もっと早いかもしれない。今の社会のスピード感を考えれば十分にあり得ますね」 現在は青森市や岐阜県美濃加茂市と提携し、「健康まちづくり事業」を展開。これらはあくまでも日本法人発信の動きだ。

「日本は世界に先駆け、超高齢化社会を迎えています。だからこそ、そうした社会での生き方、楽しみ方を我々自身が作っていかなければいけない。様々な自治体や医療機関、最先端技術を持つ多くの企業と一緒に一歩ずつ、しかもタイムリーに実現していきたいと考えています」

話を聞いているだけで、閉塞感のある現代日本において一筋の光が差し込むように感じる。社員たちから、堤氏が「スーパーポジティブ」と評されるゆえんだ。

「これからもパートナーである腕時計と向き合いながら、自分の将来、そして日本の未来を真摯に見つめ、いろいろなことを考え続けていきたいと思います」

文=いなもあきこ 写真=吉澤健太

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