日経ビジネスオンラインスペシャル

LEADERS INTERVIEW2022.12.15

リーダーが語る「経営と相棒時計」

さりげない顔で日々の執務を見守る左腕のビジネスパートナー

西武ホールディングス 代表取締役社長 後藤 高志 氏

後藤 高志氏

西武ホールディングス代表取締役社長、後藤高志氏の左腕で、端正な佇まいの黒い文字盤が静かに時を刻む。グランドセイコー「ヘリテージコレクション メカニカルハイビート36000 GMT」だ。

「以前は非常に重厚でファッショナブルな『セイコー アストロン』を重宝していましたが、5年ほど前にこのグランドセイコーを手にしたんです。最初は2本の使い分けをしていたものの、いつの間にかビジネスシーンでは基本的にグランドセイコーを着けるようになりました」

極めてシンプルなデザインで、軽やか。だから気負いなくスッと手に取れる。時計という枠を超え、日本を代表するブランドである点も気に入っているそうだ。

「日頃のビジネスで使用するなら、自己主張が強すぎないけれど控えめな存在感があって、さりげないおしゃれさも楽しめる腕時計が好きです。また、スーツによく合うことも大切。グランドセイコーはビジネスパートナーとしての腕時計という意味で、ぴったりだと思います」

左は、日常的なビジネスの場で着用する、グランドセイコー「ヘリテージコレクション メカニカルハイビート36000 GMT」。中は、ペアのピアジェ「アルティプラノ」。2014年に西武ホールディングスが東証一部上場を果たした際、知人から贈られた。パーティなどの華やかな場所で、身に着ける。右の「セイコー アストロン」は、インタビュー取材を受ける際など特別なビジネスシーンで使用することが多い。

数年前のある日、たまたま目にしたテレビの情報番組で、グランドセイコーの生産拠点の一つが岩手県雫石町にあると知ったという。同地には、西武グループが運営する雫石プリンスホテルがある。

「自分が日頃使っているグランドセイコーが生み出される現場をぜひ実際に拝見したいと思い、雫石プリンスホテルの視察に訪れた折に工房見学をさせていただいたんです。伺った時は、この道何十年という女性が匠の技で非常に繊細な作業をしていらっしゃいました。その姿を拝見し、大変感銘を受けましたね。ムーブメントの組み立て体験コースにも参加させていただき、愛用するグランドセイコーに対する思いがさらに高まりました」

「腕時計の秒針を眺める機会がよくある」と話す後藤氏。常にシビアな時間との戦いを繰り広げ、時間感覚を研ぎ澄ませてきた経営者の腕で、グランドセイコーが静かに時を刻む。

後藤氏には、他にも大切な腕時計がある。2014年4月、西武グループの悲願だった東証一部上場を果たした時に、日頃お世話になっている知人からお祝いとして贈られた、ピアジェの「アルティプラノ」コレクションのペアウォッチだ。

「パーティに出席する時などとっておきの場面に、妻とペアで着けていきます。本当に心のこもった贈り物で、私にとってかけがえのない特別な宝物です」

長い経営者人生には山があれば谷もある。鉄道などの公共交通機関、ホテル、レジャーが事業の中核を成す西武グループにとって、約3年続くコロナ禍はまさに試練の時だ。一昨年、昨年と2年連続で営業赤字を計上し、社長就任の05年以来最悪と呼べる経営状況に苦しんだ。

「我々の事業に対する需要が、いわば瞬間蒸発してしまった状態。これを打開すべく、経営改革を断行しました」

改革の柱であるアセットライトでは、資産保有と運営とを切り離すことを決断。国内に70以上あるホテルやスキー場のうち、31の事業所をシンガポールの政府系投資ファンド、GICに売却する。

「併せてプリンスホテルは、ホテルの運営に特化した会社として再スタートし、より機動的、戦略的でスピーディな経営が可能になりました」

例えば、若い層をターゲットとした非接触型サービスを軸とするホテルブランド「プリンス スマート イン」を一昨年スタート。今年4月にはリゾートホテル「沖縄プリンスホテル オーシャンビュー ぎのわん」を開業し、来春には「ザ・キタノホテル ニューヨーク」を「ザ・プリンス キタノ ニューヨーク」としてリブランドするなど攻めの姿勢を崩さない。

「今後、国内外で250を目標にホテルを展開していきたいと考えています。ホテル業界も人材不足が叫ばれて久しいですが、人に投資できるようになったという点でも今回の改革が持つ意義は大きい。今後はダイバーシティへの取り組みや若手登用なども、さらにスピード感を持って進めていきたいと考えています」

一方で、西武グループが主体となって再開発を行うエリアのホテルに関しては、継続保有したまま再開発を推進する計画という。芝公園や高輪・品川、軽井沢などがその例だ。

「これまで以上に、メリハリのある経営が可能になると期待しています」

大学時代はラガーマンとして活躍した後藤氏。「フェアプレー精神」など、その経営哲学はラグビーで培われた面も大いにある。時間感覚もその一つだ。

「どんな試合も、最後はまさに秒との戦いです。『あとどれだけ時間が残っているか』を常に意識していましたので、その感覚がビジネスでも生かされていると思いますね。今でも『あと5秒で3時になるな』などと、腕時計の秒針を眺めることが結構あるんです。時間に几帳面というのは、非常に重要なこと。それが信頼関係を築き、ひいてはビジネスの成功にもつながるのではないでしょうか」

文=いなもあきこ 写真=阿部 了、田川友彦

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