ものづくりのノウハウで「儲かる農業」を実現

製造業のコンサルティングファームが見る、日本農業の未来

ICTを十分に活かせていない農業の現場

農業の現場のICT活用については、どのように見ていますか?

今井:農林水産省の農業ICT普及補助事業で、データ分析やデータ入力の方法などを、農業経営にどう活かしていくかということを、われわれがコンサルティング事例をまとめて全国の県の普及指導員や生産者に対してセミナーを実施して伝えています。

 世の中にはいろいろな農業経営管理システムがあり、多くの農業生産者が導入していますが、多くの現場でシステムやデータを活かせていません。データを一生懸命に入力をしても、それを活用できていない経営者が多いのです。システム利用のコストやシステム入力の手間だけが増えて、経営成果につなげられていない例が多く見受けられます。結果として、農業の現場にこうしたICTツールやシステムが今ひとつ広がらず、農業経営もなかなか高度化しないという残念な状況になっています。

 ICTツール・システムが農業の現場で本当に役立つようになるための課題は、2つあります。1つ目はいかに入力を簡単に正確にできるか。2つ目は入れたデータをどのように見える化し、経営に活かせるかです。

ICTツール・システムを農業の現場で活用できるようにするためには、(1)データ入力を容易にすることと、(2)分析データを「見える化」することが必要(提供:JMAC)
ICTツール・システムを農業の現場で活用できるようにするためには、(1)データ入力を容易にすることと、(2)分析データを「見える化」することが必要(提供:JMAC)
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システムやツールの提供者が農業者の視点に立てているかどうかが重要

今井:ICTツールやサービスの提供者が、農業者の立ち場で考えることが重要です。農業者が集めたデータを自分で表計算ソフトを使って分析してくださいということでは、もし農業生産者のITリテラシーが低いと、データを入れるところまではできても、集めたデータを分析することができません。結果としてICTツールを有効に活かせず、どんどん使われなくなってしまいます

 製造業と同じように、農業も、分析して判断するために必要な重要指標は決まっています。ICTツールやサービスを提供する側が農業経営の特徴をきちんと見定めて対応できれば良いのですが、多くのところができていないのが現状です。

 もちろん、できているところもあります。例えば、ある会社の栽培管理のシステムでは、作業者が圃場でスマートフォンを持ち歩き、写真を撮り、何に気づいたか、どんな対応したかという選択項目を選ぶだけというシステムを提供しています。写真とコメントを入力するだけで、収量とも紐付けし、次の年以降に何か問題が起こった時に過去にどんな不具合が発生した圃場であり、どんな対応をしたのか、その結果として収量がどうなったかが検索できるようになります。

 また、別の会社では、集荷場にどのくらいの量の農産物が入ってくるかを、現場を巡回するJAの営農指導員に入力してもらって、予測する仕組みを作っています。指導員が作付段階で農家さんを回って作付情報を入力し、その後、収穫の1週間前に栽培状況の情報を入力することで選果場に集まる量とタイミングを事前に予測できるようにしています。営農指導員が農業者の代わりに栽培工程と出荷工程の情報をつないでいます。このように工夫することによって、集荷場に一気にものが集まって人手不足になったり量がバラついたりすることを防ぐシステムを実現しています。

 この2つの例は、どちらも、農業の現場にいる人の立場に立って工夫している例です。

熟練者のノウハウを見える化してICTツールに

農業者の高齢化に伴って優れた栽培技術がなくなってしまうことが問題視されています。これは製造業における匠のワザの継承問題と同じと思いますが、これについてはどのようにお考えですか?

今井:農業の熟練者が持っているノウハウの中から引き継ぐべきものをきちんと見える化して引き継ぐことが必要です。

 これだけ天候が大きく変動すると、過去の熟練者の経験がどこまで活きるか不明ですが、熟練者の勘とコツとノウハウは活かしつつも、それを切り口に今の栽培状況と気象環境をモニタリングしてそれがどんな結果につながったかを見える化したICTの仕組みが重要になります。こうしたツール・システムがあれば、熟練者でなくても、適正なタイミングで正しい判断ができるようになります。

 農業の結果指標となる収量や品質は、天候や種、土などの変動によって変わってきます。いろいろと環境が変わった時にどのような手を打てばいいか、その都度、熟練者の人に聞くわけにもいきませんし、環境についても同じような状況はなかなか発生しません。

 ですから、熟練者の経験、ノウハウをみんなが共有できる知識に変えて、ICTシステムやツールを活用して、栽培に活かしていくことがますます重要になってくるのです。

熟練者の気づきや対策方法、栽培技能などを「見える化」してICTシステムやツールに取り込んでいく。この仕組みができれば、熟練者と同じように栽培できる近道となる。図はその仕組み化の一つの例。理想の収量からどれだけ損失(収量ロス)が出ているかを、栽培から出荷までの作業ごとに分解して、不具合を起こしている要因と収量ロスへの影響を把握する。工程ごとの不具合要因に対策を打つことによって、収量ロスを防ぐ。こうした手順を作る際に熟練者のノウハウを切り口として活かす(提供:JMAC)
熟練者の気づきや対策方法、栽培技能などを「見える化」してICTシステムやツールに取り込んでいく。この仕組みができれば、熟練者と同じように栽培できる近道となる。図はその仕組み化の一つの例。理想の収量からどれだけ損失(収量ロス)が出ているかを、栽培から出荷までの作業ごとに分解して、不具合を起こしている要因と収量ロスへの影響を把握する。工程ごとの不具合要因に対策を打つことによって、収量ロスを防ぐ。こうした手順を作る際に熟練者のノウハウを切り口として活かす(提供:JMAC)
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